第7話 サイボーグvsミュータント
追われる者達がいた。
一人は罠に嵌められ、自身の首に多額の賞金を掛けられた男。
もう一人は、誘惑に釣られて怪物にされた男。
そして誘惑に釣られ、人生を台無しにされたもう一人の男…溝口リョウはある理由から第二の人生を歩むべく成田のとある質屋にやって来たのだった。
「それで…何とかなりませんか? どうしても必要なんですよ」
リョウは齋藤からこの店の事を知り、他人に成り済ます為の戸籍を買う為にここへやって来たのだ。
「そうは言われてもねぇ…戸籍を手に入れるのはだいーぶ時間と手間がかかるのさ。それに君は一見さん、多分よそ行っても断られるよ」
この質屋、実はただの質屋ではない。
質屋と名乗っているがその実態は武器密売、戸籍取引、情報提供と表では絶対取り扱えない物を扱う店なのだ。
しかし、だからと言ってホイホイと取引が出来るかと言われると、そうでも無かったようで…
「一見さんに戸籍と取引して痛い目を見た奴らは多いからね、やっぱりある程度素性が知れないと…」
ウォルスはリョウの素性を知らないため、中々彼の欲しい物を売ろうとしない。
そして、そこへ更に追い打ちをかけるように別の男も割って入ってくる。
「まぁそういう事だ、大人しく引き下がった方がいいと思うぜ」
割り込みを掛けた黒ずくめの男…ザグロブは更に続けてリョウへ質問を投げ掛ける。
「それにお前さん、金はあるのかい?」
「あ、あぁ十万円あるけど…」
リョウはポケットから輪ゴムで無理やり束ねられた10万円を差し出した。
ちなみに、この十万円はどこで手に入れたかと言うと、それは脱出に成功した日まで遡る─────────
「リョウさん、これを…」
病院からかなり離れた廃墟同然の公園、そこで齋藤とリョウが一先ず休憩していた時の事。突然齋藤はリョウへ何かを渡してきた。
恐る恐る、渡された物を確認すると…
「…おい! これ財布じゃないか! まさか…」
「脱出する前に鈴木や皆とロッカールームを見つけたんです、それで魔が差して…」
齋藤達は脱出する前に警備員や研究者達のロッカールームを発見し、そんな事をしている場合ではないと分かっていたのだが、そこから金品をある程度持っていこうとしてしまったのだ。
その結果そこに増田が現れて…現在に至る。
「…実はあの病院に連れてこられる前にネットで偶然見たんです、成田に戸籍取引が出来る所があるって…だから相場は分からないんですけど…」
「いや、とりあえずお前の命懸けの行動で当面は食いっぱぐれなくて済みそうだ」
リョウは齋藤に心からの感謝をしつつ、こんな良い人間が盗みをしなくてはならないくらいに追い込んだ黒幕の事をさらに強く憎むのだった…
これが、リョウが何とか金と服を手にいられた理由である。 しかし…
─────────────────
「…残念だが戸籍の相場は百万円だ、十万じゃとても足りねぇよ」
「百万!? どうしてだよ!?」
ザグロブは軽く溜息をついて、どことなく突き放つように一言、
「あのメガネくんも言ってただろ? リスクが高いってさ」
ザグロブがそう言うとリョウは納得がいかない様子ではあったが何も言わず、その拳に仲間から渡された金を握り、二人に吐き捨てるように、
「…また来ます」
と言って扉を強く叩きつけるが如く閉め、どこかへとフラフラ歩いていった。
「何だったんだ彼? 相当切羽詰まってたみたいだけど…」
ウォルスは不思議そうな顔をしながらザグロブに話しかけるが、当のザグロブは窓の方からリョウの背中をじっと見つめていた。
(あいつ…どことなく俺と似たような雰囲気を感じたが…まさかな)
彼はリョウに自身と同じく何かを追っているような雰囲気を感じたが、おそらく気のせいだと思い、窓から離れた。
そして、本題を切り出すようにしてウォルスに話しかける。
「さて、ちょっと前にメッセージで送ったと思うが…」
「あぁ、新しい装備だろ? 揃えて来たぜ」
ウォルスはニヤリと笑みを浮かべながら、腕を組んだ…
───────場面は変わり、薄暗い裏路地…
リョウは一人横倒しになったゴミ箱に頭を抱えながら座っていた。
「チクショウ!! これじゃ復讐どころじゃない!!」
彼が強く憤慨していたのには訳があった。実は齋藤に連れられ、この成田に来る前に一度佐倉に寄り道をしていたのだ。
理由はもちろん、自身の店の無事を確かめる為だ。
しかし、そこに待っていたのは更地になった自分のレストランの跡地だった。
そう、実験を受けている間に彼のレストランは既に増田の手配によってとっくのとうに売りに出されてしまっていたのである。
そして彼は決意したのだ。名前と人生を無くしてもいい、とにかくこんな事をした人間…増田の言っていたあの方という男に復讐をすると決意したのだが、残念ながらかなり早い段階でつまづいてしまったのである。
(なんとか百万を作りたいけどどうしたらいいんだ!働いてる暇もないしそもそもバイト出来るかも怪しい! それに金稼いでる間に追っ手が派遣される可能性だって…)
リョウは色々考えて行くうちに、どんどん苛立ってついにはすぐ近くにあったゴミ袋の山に蹴りを入れ、辺りにゴミを散乱させた。
そしてリョウは散らばったゴミを見て冷静になり、物に当たった自分に嫌になった。
「クソ…なんか最近キレやすくなったか…? それともこれが俺の本性…メシ作ってない俺なんてこんなも…ん?」
偶然だった。散乱したゴミ袋の中に、新聞の切れ端が混じっていたのだ。
それだけなら、ただのゴミだと思うだろう。しかしリョウはその新聞の見出しをじっと見続け、その顔に笑みを浮かべる。
「…フフフ、この写真と違って変装してるみてぇだけど…俺にもワンチャン出来たな…!!」
その切れ端に書かれていた物、それはこうだ。
『政治犯ザグロブ、未だ行方不明!
公安当局は彼の賞金を更に値上げすると発表!!』
────────場面は再び成田の質屋、その店からある男が一人出て来る。
ザグロブだ。
「これからどこ行くんだい?」
「…さぁな、とりあえず俺をハメたカスをとっちめたい所だが情報がない。 だからあの人に会いに行こうと思う」
「フランシスにかい…? 難しいと思うよ…」
心配するウォルスをよそに、ザグロブは余裕綽々という感じでピースしながら店を後にした。
果たして彼はどこへ行こうと言うのか、彼はフラフラとした足取りで成田の町を練り歩き続けた。
練り歩く事、ついに一時間。
彼は成田からちょっと離れた場所にある廃工場にまでやって来た。
「さて…おあつらえ向きの場所へ来たんだ、そろそろ顔見せてくれても良くないか?」
ザグロブは誰もいない空間の中を振り向きながら、意味深な事を呟くと、工場の柱の影から見覚えのある男が現れる。
その男は、リョウだった。
「…よく分かったな」
「分かるも何も、そんな闘志ムンムンでストーキングされりゃ誰でも気づくわな」
と、ザグロブはケタケタと笑う。
そして彼は急に笑うのをやめて、本題に入る。
「それで? どうするんだい? 見た所丸腰だが?」
ザグロブは挑発するようにリョウに自分をどうしたいのか、分かり切ってはいるがとりあえず聞いてみると、リョウは無表情のまま前屈みになり、突進の体勢を作る。
「決まってんだろ…アンタには悪いけど…」
そして、彼の中で増田と戦っていた時のあの感覚がスパークし、熱波を放ちながら彼は勢いのままザグロブ目掛けてダッシュした。
(なんだ…? あいつもサイボーグか?)
ザグロブは熱波を放ちながら迫るリョウをサイボーグだと思い、腰に手を掛ける。
そこには拳銃のホルスターがスカジャンの裾に隠れていたが、彼の手はピタリと止まった。
(いや思ったよりも速い! ならば…)
彼はリョウが思ったよりも速いスピードでこちらに迫って来るのを見て、ボルスターから銃を取るのを止めてボクシングの構えをとった。
そして、次第に迫って来るリョウの身体から熱気から水蒸気が噴出された。
ザグロブは突然彼の体から煙が噴出するのを見て、目くらましかと思い右目に備えられたスコープを起動する。
しかし、スコープには煙が映るだけで肝心のリョウが消えていたのだ。
「…!? 」
ザグロブは何が起こったのか分からず、ついつい構えを解いてしまったのだが、すぐその事を後悔する羽目になる。
何故なら、スコープは上の方向から何かを来るのを探知したのである。
「何ッ、上!?」
スコープの指示に従い、上を向く。
そして彼は絶句した、上から飛んで来たのは先程の男とは似ても似つかない化け物だったからだ。
「なっ!?」
そう、あの煙は目くらましではなく、変身する際に発生する水蒸気だったのだ。
何故彼が変身する際に水蒸気を発生させるか、それは彼の水蒸気には多量の鉄分が含まれているのだ。 そして、強化された彼の体内の生体電流が独特の電流を放ち、鉄分が瞬時に変形して怪物の鎧を作り上げる。 というあまりにも現実離れしたプロセスを経ているのである。
しかしその変身スピードに、相手には突然怪物が現れたようにしか見えないのである。
「なんだァこいつァッー!?」
「でぇええええい!!」
ザグロブは咄嗟に腕を交差させ、上空からの攻撃を防ぐ。
その衝撃は凄まじく、地面に突き抜けて少しだけだがザグロブの立っていた部分の床だけが沈んだ。
(なんてパワー…!!)
(防いだ!?)
リョウは自分の攻撃が防がれるとは思わず驚き、今度は腹に向かって蹴りを入れようとした。
ザグロブは素早い動きで腕の防御を解除すると、彼は両方の拳にグッと力を込めると、拳からスイッチ音が鳴り中から金属の突起が出現した。
「何っ!」
「喰らいやがれ化け物!!」
そして、ザグロブはその突起の出現した拳をリョウの足に叩き込む。
拳と足がぶつかった瞬間、凄まじい破裂音と共に火花と稲妻が廃工場の中で轟いた。
激しいぶつかりの結果、膝をついたのは…リョウだった。
「ぐ、ぐあ…っ」
「どうだい、この高圧電の拳はよ!」
ザグロブがウォルスに頼んで用意させた新たな武器、その名はプラズマナックル。普段は拳に格納されているが拳を握り込む事により展開する。
その拳の電圧は、実験として電流を浴びさせられていたリョウがよろめくほどの威力を発揮した。
(なんて威力だ…お、俺が受けてきた電流より強烈な一撃だった…!)
リョウはすぐに体勢を立て直し、すぐさま攻め方を変えた。
彼は増田と戦った時の記憶を呼び起こし、ザグロブを見ながら例の感覚を呼び覚ます。
「あいつ、何をする気だ…?」
ザグロブはその場で立ち止まったリョウを見て、その行動を様子見する。
そして、彼の腕の変化にすぐに驚愕する事となった。
「ウオオオオッ!!」
彼は唸り声を上げた瞬間、その右腕が刃物のように変形するとすぐさまザグロブに向かって再び突進を始める。
ザグロブもまた、突進してくる敵に対して戦闘態勢を取った。
「ふんッ!!」
リョウは右腕の
そして、反撃としてザグロブはリョウの腹へ拳をぶつけた。
「がアアッ!!」
流石プロの殺し屋と言った所か、彼の冷静沈着な防御と素早い攻めは強化されているリョウに反撃の隙を与えなかった。
「長い刃を使ってリーチに差を作ったのは流石だが、お前…どうやら素人らしいなッ!」
ザグロブはそう言いながら今度は踵落としをリョウの肩へ叩き込む。
叩き込んだ瞬間、凄まじい破裂音が廃工場に響き渡った。
彼は踵にもスタンガンを仕込んでいるのだが それも今回ウォルスに依頼し、プラズマナックルの他にも踵の電撃も強化して貰っていたのだ。
「グアアアッ!!」
リョウはその強烈な一撃に絶叫し、再びその場へ膝をつく。
ザグロブはそれをチャンスと見て一気に距離を詰めるべく、背中のブースターを展開する。
「終わりだな、化け物ッ!!」
ザグロブはブースターを点火して一気に距離を詰めると、そのまま右ストレートと左アッパーを素早く二発叩き込んだ。
必殺のワンツーがリョウに炸裂し、決着はついた…とこの時、ザグロブは考えていた。
しかし…
(俺は…俺は…)
リョウはそのワンツーを受け、もうダメだと思った時だった。
脳裏に浮かんだのは、かつて病室で共に過ごした仲間達の顔と、自身の店を守る為に奮闘してきた時の記憶だった。
(まだ俺はやられる訳にはいかねぇ!!)
リョウはすぐに体勢を立て直し、ザグロブの顔面に左の拳を叩き込んだ。
「がはッ…!」
化け物の凄まじいパワーをモロに受けた彼だったが、彼もまた素早くよろけから復帰して脇腹へ電撃を帯びたパンチをぶちかます。
が、リョウは怯まなかった。
「グオルルルルーッ!!」
なんと、この短時間の間に彼はザグロブの電撃に耐性を付けたのである。
これには冷静だったザグロブも驚かざるを得ないだろう。
「なっ、なんだと…!?」
渾身の一撃が耐えられたザグロブは、すぐさま反撃させないようにリョウへラッシュを掛けた。
彼は次々に拳や蹴りをリョウへ浴びせるが、それでも彼は怯まない。
「うおおおおおォォォォーッ!!」
それでもなお、彼らはリョウへのラッシュをやめなかった。
電撃は効かなくなったとは言え、ダメージはあるようでリョウの体の至る所から段々と出血が始まり、床は段々と彼の血で染まり始める。
(クソッ! 血を流しているのに倒れる気配がねぇ!!)
ザグロブがこのラッシュすら意味が無いと思い始めた頃、ついにリョウは反撃に出た。
まず彼はザグロブの左腕を掴み、そのままぶん投げた。
「オラァァァァッ!!」
それは、ザグロブが殺し屋生活をする中でもっとも強い衝撃だった。
彼もサイボーグとして体を強化したにも関わらず、その衝撃に動けなくなってしまった。
そして、リョウは叩きつけた彼の元へ歩み寄り、すぐさま彼の腹を踏みつける。
「ぐっ!!」
「悪いな、俺もやらなきゃいけない事があるんだよ…ッ!」
リョウはそう呟くと、右腕の刃を頭の高さまで上げる。
そして、ザグロブの首へ勢いのまま振り下ろした。
彼の命もここまでか…と思われたその時だった。
「そうかい、実は俺もやる事があるんだよなッ!」
彼は小指を曲げて動かすと、カチッとまるでスイッチのような音がなる。
すると彼の肩の辺りがせり上がり、次の瞬間には何かを発射する。
それは、五寸釘なみに太い針の弾丸だった。
「何…!?」
彼は刃を振り下ろすのを途中でも止める事が出来ず、針が直撃してしまう。
しかし手元が狂ってしまったものの、彼の刃もまた、ザグロブの腹部へ突き刺さったのだった。
「ぐ、くっ…フフフ、相打ちとは…」
リョウはその場に倒れ込み、ザグロブの隣に倒れ込む。
その際に刃が折れ、ザグロブは上半身を起こしてその刃を抜き取った。
「クソッ! こいつ戦い方は素人そのものだったがすげぇ生命力だった…恐らく俺が今まで戦ったヤツの中でもトップクラスのヤバい奴だ」
そう言いながらリョウを評価するザグロブ。恐らく、彼はリョウが死んだものだと思ったのだろう。
現実はそんなに甘くなかった。
「へ、へへへ…ありがとよ、トップクラスに強い奴だって認めてくれてよ…」
なんと、彼は生きていた。
針が首元に刺さってもなお、彼は意識を取り戻して仰向けになると、ザグロブに勝ち誇ったような表情を見せた。
「お前…あのニードルガンを受けても生きてられるのか!?」
「いや、流石の俺もこれは死んだと思ったんだけど…電撃のおかげが筋肉がちょいと硬くなったのかもしれないな」
二人は不敵に笑いながら立ち上がり、再び戦いの準備を始めた。
「さぁやろうぜ…今度こそ俺が勝つ!」
ザグロブがそう吠えると、それに応えるかのようにリョウも、
「勝つのは俺だ! 俺はどうしても自分の料理屋を取り戻したいんだよ!!」
と吠えたが、それを聞いたザグロブは、
「へ、料理屋?」
とキョトンとする。
そして、呆気に取られていたその時だった。
「そこまでにしてもらいましょうかね、お二人さん!」
二人の会話を割り込み、一発の銃弾が彼らの間に放たれた。
そしてそれが合図と言わんばかりに廃工場の天井、壁、窓から続々と妙なスーツに包まれた謎の集団が現れた。
「なんだ、仲間いたんじゃねぇか…」
とザグロブは辺りを見回すが、リョウは慌てて彼へと顔を向けて一言、
「何言ってんだよ! あんなスーツ着てるんだしお前の仲間じゃねぇのか!?」
二人とも何言ってんだこいつと言わんばかりに呆れ顔になるが、そんな二人の疑問を解消するかの一言が彼らに投げかけられた。
「ご安心を、我々は独自の組織ですよ…名前は明かせませんがね」
そう言いながら、一人耐爆スーツのような重装備に身を包んだ大男が歩いてくる。
「申し遅れました、私はヘルカッツェ。 貴方達を始末しに参りました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます