第5話 誕生! 復讐のコックマン

店の借金をチャラにした上で再び同じように店を構える事が出来る。そう誘惑されたリョウは、増田に連れられてある場所に来ていた。


「…病院?」

「今政府ではとあるプロジェクトが進んでいましてね、貴方にはその手伝いをしてもらいたいんですよ」

「プロジェクト…?」


リョウは疑問の表情のまま聞くと、増田は不敵に笑いながら、


「ええ、この国の未来のためのプロジェクトですよ、パンデミックやその他の事に負けない…ね」


リョウは増田に連れられるまま、病院の内部へ入る。そこからは流れ作業のようだった。

様々な情報、身体の検査をし、3時間後にようやく解放されたかと思うと、今度はまた別の部屋に連れて行かれた。


「…手術台?」

「これから処置を行います」


リョウは白い防護服を着た女性にに連れられるまま、手術台へ寝込む。すると、手術台の脇から何かが出てくる。

それは、腕と足を動かなくする拘束具だった。

手足を拘束されたリョウは思わず、


「お、おい!! 何をする気だよ!!」

「じゃあ例のやつ、持ってきて」


すると女性とは別に防護服を着た人間が、なにやら大きな銃のようなものを持ってこちらに向かってくる。 それは銃ではなく、注射器のようなもので、とてもじゃないが人間に使うようなものでなかった。


「クソッ! やめろ!! やめてくれ!!」

「それでは、実験を開始します」


リョウが叫ぶのを無視して、女は彼の腕に何かを注射した…


残念ながら、彼の記憶はここで途絶えてしまうが、それからの月日は地獄そのものだった…


それから一ヶ月後、彼に転機が訪れるその日がやって来た。


彼…リョウは同じ実験体の暮らす病室へ無理やり押し込められていた。

病室と言っても、ろくに整備もされてない酷い有様なのだが…


「なぁ、お前今日何された?」

「俺はどれくらいの電流に耐えられるかの実験さ、死ぬかと思ったけどなんか生きてるんだよな…」

「俺なんか気密室? にぶち込まれたよ…」


各々がそれぞれされた拷問のような実験を行われ、ボロボロになっているにも関わらず、彼らは生きている。

何故、彼らは生きていられるのだろうか…彼ら自身、自分に何をされたのか分かっていないが、薄々自分達の身体がどんどん違う物に変えられている事に気付いていた。


「…俺たち、化け物にされちまったんだよ」

「おい! 滅多な事言うなよ…」

「だって分かるだろ!! あんなむちゃくちゃな事されて、意識が無くなったと思ったらこの部屋で目が覚める! こんなのおかしいと思わねぇのか!?」


部屋に集まった男達は今にも喧嘩が始まろうとした瞬間、


「やめろ鈴木!それに齋藤も! 喧嘩して虚しくなるだけだぞ!」


奥の方のベットから誰かの叫ぶ声がすると、もぞもぞと布団が動き、上半身だけが起き上がる。

その人物は、リョウだった。


「り、リョウさん…」


男達は一斉にリョウの方へ顔を向けると、彼らは黙ってしまう。

その理由は彼のその容姿にあった。

そう、彼だけ他の面々に比べて過剰な実験を繰り返された結果、彼だけ見るに堪えない姿になってしまったのである。

包帯から片目だけが覗くほどの過剰な実験を受けたにも関わらず、彼は今も生きていた。


「でも、でも! リョウさんだってここが異常な場所だって分かってるでしょう!?」

「そりゃ分かるさ…俺もここまで酷い目に合わされて…だからこそ仲間同士で争うのは辞めろ、と言っているんだよ…」


リョウは不安になる同室の仲間達を宥め、一旦は喧嘩は収まった。

しかし、再び仲間の一人が気になる事を話し始める。


「…俺達、廃棄処分にされるかもしれねぇらしいぜ」

「き、急になんだよ」


再び不穏になる病室の雰囲気。そしてリョウもその事が気になり、詳しく聞き出す。


「どういう事だ…?」

「なんでも必要なデータは取れたからもう必要ないって…そんな話をしてたのを聞いちまったんだよ!」


途端にざわつく病室、しかし…一人がある事を口走った。

それは自分達にされた事に裏付けされた、ある種の賭けだった。

それは…


「だったらもう我慢しなくていいんじゃないか!? 逃げちまおう!! こんな酷い目にあってるのに死なないなら逃げ切れるはずだよ!」


言い出したのは齋藤だった。彼は自信たっぷりに言うと、ざわついていたのはすぐに静まり返る。その静まり返った雰囲気に彼は馬鹿な事を口走ってしまったかと思い、下を向いて黙るが、その静寂は直ぐに破られる事となる。


「そうだ!! 俺達化け物ならこんな所で死ぬくらいなら暴れてやろうぜ!!」


齋藤の発言が発端となり、彼らは行動を起こす。 もちろん、リョウもだ。


「リョウさん、行けますか?」

「あぁ、こんなだが…走るくらいは出来るさ…」


─────そして、それから二時間後の事…


「はっ!! 」


リョウは意識を取り戻し、辺りをきょろきょろと見回す。 確か自分は警備員に捕まりそうになって、捕まりたくない一心で叫んだら突然記憶が消えて意識まで飛び、何が起こったのかが分からなくなっていた。

そして辺りを身回した結果、彼の疑問は更に強くなった。


「なっ、なんだよこれ…」


廊下の壁はペンキをぶちまけたかのような赤い液体がそこら中に飛び散り、床もまた、赤く染っていた。

更には記憶が飛ぶ前に遭遇した警備員の者であろう腕が一本と、恐怖で引き攣ったまま固まった彼の首が転がっていた。


(ま、まさかおれがやったのか!?)


こんな凄惨な光景を目にしても、彼は何故か何も感じず嫌に落ち着いていた。

何があったのか知りたくても自身の記憶は飛んでいるし、このまま考えてもまた別の警備員が来ると思った彼はひとまずその場を後にした。


(い、今は逃げないと…!)


リョウは凄惨な場面を尻目に、病院の裏口になりそうな場所を捜す。彼はこの病院の事は詳しく知らないが、脱出できそうな場所の目星はある程度付いていた。


彼は病院の救急搬送の入口へ駆け足で向い、様子を伺う。

意外な事に警備の人間は一人もおらず、まるで逃げてくれと言わんばかりに手薄だった。


「おかしい…なんで誰もいないんだ?」


ひとまずこれで脱出できると思い、出口へ向かおうとすると、リョウは妙な気配をキャッチする。嫌に覚えのあるその気配に、彼は嫌悪感を抱きながらその気配の持ち主へ叫ぶ。

その男の名は…


「増田ァ!! いるんだろう!?」


彼は怒りと憎しみの感情をぐちゃぐちゃに織り交ぜながら、自身の人生をめちゃくちゃにした男の名前を叫び、それに答えるかのように拍手の音がガランとした空間に響き渡る。


「フフ、私の気配に気付くとは…やはり例の強化手術の影響が強く出ているようだ」


強化手術、その言葉を聞いたリョウはようやく自分の異変について知る事が出来たと同時に、やはり自身が普通の人間で無くなっている事も知ってしまう。

リョウは悔しさを堪え、強化手術とは何かを聞き出す。


「強化手術とは…なんだ!!」


増田は不気味な笑みを絶やさず、全てを語り始めた…


「強化手術…それはこの先の日本の為に考案された強化兵士を作る為の処置…侵略からの防衛と、パンデミックの最中でも感染を恐れずに戦う為の兵器製造計画、とでも言えば満足かな?」


更に、増田は続けて挑発するかのように、そして見下すかのようにリョウや齋藤、鈴木に施した実験という名の処置を語り始める。


「お前達には様々なウイルスから身を守る為の身体細胞に作り替えたが…特にリョウ、君のは凄いぞ」

「凄い…!?」

「そう、君は都市潜入型の改造…ある時は人間、しかしある時は…別の強力な生き物に変身する力。 実験や先程警備員を殺した時に記憶が消えたのはそういう事だよ」


何故か度々記憶が飛ぶ事の答え合わせをされ、リョウは絶望する。あの凄惨な死体を見てもなんとも思わなかったのはそのせいだったのかと…


「しかし、あの48号…いや、齋藤くんというのも中々いい実験体だった。まさか逃げおおせるとは思わなかった…49号とその他の実験体はゴミ屑同然だったが…」


増田が口にした49号という数字に、リョウはすぐさま同室の仲間…鈴木の事がすぐに頭の中に浮かんだ。

そして彼に起こった事も、思い浮かべたくないのに浮かんでしまった。


「お前…鈴木達に何をした」

「処分したよ、どうせ脱走するのは予想出来ていたからな。 ここから脱走も出来ないゴミなど生かしておいてもなんの価値も無い」


まるで人間を人間と思わないその言動に、リョウは絶句する。一ヶ月とはいえ苦難を共にした仲間達があっさりとこの男に殺され、更に罵られるなんてさぞ無念だっただろう。

リョウは再び、身体の内から強いエネルギーが湧き上がってくるのを感じた。


「…てめぇだけは許せねぇ、人の人生をめちゃくちゃにして、命を何とも思わねぇ…てめぇこそ人間じゃねぇ!」


次第に彼は再び強い殺意に支配されそうになるが、警備員に捕まりそうになった時とは違う兆候が、彼には見られた。


「何…! まさかもうコントロールを!?」

「おおおぉぉぉーッ!!」


ついに、リョウの全身から凄まじい熱気と水蒸気が放たれ、凄まじい熱風が増田を襲う。

一応、熱波から身を守るため防御の体勢を取るが、想定以上の衝撃波に吹き飛ばされた。


「な、なんという…なんと…」


増田は体を起こし、体制を立て直そうとした時、彼は水蒸気の霧の中に立つリョウの影を見た。しかし、そのシルエットは人間と言うよりは、まるで特撮番組に出てくる怪人のような物だった。


「お、おおおお…!!」


その影を見て、増田はますます歓喜の声を上げる。

リョウも、初めて意識のある状態で自身の姿を見る事が出来た為、驚きを隠せなかった。


「これが…俺なのか?」


腕と下半身しか見えないものの、まるで鎧のような肉体になった腹と、腕は甲殻が重なったような見た目で、指先は触れるもの全てを切り裂きそうな位に鋭くなっていた。


そして、彼の姿を見た増田もまた尋常ならざる雰囲気を醸し出し始めた。 次第に、彼も蒸気と熱波を放ち始める。そんな様子を見てリョウは彼の正体が何なのか察していた。


「ハッ、お前も俺と同じって訳か…」


増田の体は、まるでカブトムシやクワガタの甲虫のように黒鉄色のような鉄の体に包まれていた。更に言えばその身体は、変身する前より一回りよりも大きくなっていた。

彼もまた、リョウと同じような処置を受けたのだろう。


「ククク…私も貴様と同じく、あのお方に力を受けた一人でね…生け捕りにしろと言われているが、もう構わん! 貴様も処分してやるわ!!」

「やってみろバーーーーカ!!」


復讐の料理人コックの雄叫びが、病院の中に響き渡った…




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