第3話 決意

ヤクザの幹部の暗殺。 いつも通りの暗殺依頼だと思ったザグロブを待ち受けていたのは、幹部と老人、そして爆発と同業者殺し屋達。

追い詰められたザグロブは、逃げに逃げを重ねて遂に廃墟となったスーパーマーケットに身を潜めていた。


「クソッ! なんたってこんな事になった!?」


ボヤきながら彼は商品の棚から周囲を伺い、脱出を目指しながら別の目的を新たに考えていた。 ここを脱出する前に邪魔な同業者二人組を片付けなければ、いつまでも追いかけられっぱなしだ。

まず先に大男を殺し、ナイフ男を倒し、それから我が家へ向かう事を考える。


「さぁ来るなら来い…やってやる…」


ボソりと呟きながら、ザグロブは念の為上を向いた時だった。

商品棚が静かにガタガタと、小刻みに揺れている事にふと気がつき、急いで下を向く。

向いた瞬間、凄まじい音を立てて床から太い腕が突き破ってザグロブを掴み上げた。


「ぎぃひっひっひっひ…」

「こ、こいつ…本当に人間じゃない…!!」


あの大男…ジョニーが床からぬっと顔を出し、目の焦点も合わない状態でニタリとしながら現れた。

先程はザグロブを後ろから鷲掴みにして来たが、今度は首を思いっきり掴み、いよいよ始末しようとしているようだ。


「はぁ〜〜〜っ!!」


不気味に笑いながら男は腕に力を込め、へし折る所か潰す勢いでギュッと握る。

幸い、彼はサイボーグなのでまだ大丈夫だが、時間を掛ければこのまま死を待つだけだろう。

しかし、幸いな事がもう一つあった。

背後から捕まった時は両腕が塞がっていたが、今度は首…つまり両腕は自由だったのだ。


「へ、へへっ…俺を殺せると思って…油断したな!!」


そう大声で叫びながらザグロブは腕を思いっきり振り、ジョニーの顔に手のひらをパチンと叩きつける。

そのまま小指を曲げると何かが作動した音が小さく鳴った。

その直後、手のひらから液体が漏れると、途端にジョニーは苦悶の表情を浮かべ始める。



「ぐお…っ!?」

「扉開けるのに便利なさ、もっとも人間に使うのはこれが初めてだがな…!」


次第に嫌な匂いがスーパーに充満し、ジョニーの顔はどんどん無惨にも溶けていく。


「ぎぃやおーーーっ!!」


やがてジョニーは床に倒れ、悶えながら転げ回った後に痙攣を起こしながら静かになった。

残りはあと一人、ドットだ。


「さて…あと一人…」


ザグロブはひとまずスーパーマーケットから出ようと考えた。ドットは後回しで、今自分に置かれた状況を確認したかったのだ。

彼はスーパーマーケットの出口から堂々と外へ出ようと歩き、動かない自動ドアをこじ開けようとした時だった。


「おーっと、俺を後回しにしようとするのはよくないんじゃないか?」

「ふん、ようやく出てきたか…」


ドットはようやく現れたかと思いきや、ザグロブの背中に先端を刺さらない程度に当てて、身動きが取れないようにする。

彼の表情は既に勝ちを確信し、笑みを浮かべていた。


「どうする? 今なら土下座すれば優しく殺してやるぜ?」


ドットはザグロブを煽り、どんどんその顔を醜く歪めていく。

しかし彼はザグロブの背中を取るという、致命的なミスを犯している事にまだ気づいてない。


「土下座…嫌だね、俺は謝る事がこの世で一番嫌いなんだ」

「…じゃあ苦しみながら死ねや!」


ザグロブの言葉を聞いてドットはナイフを振り上げ、背中ではなく首のうなじに振り下ろそうとした時、突如ザグロブの肩甲骨の部分が突然せり上った。


「な…!?」


次の瞬間、せり上った肩甲骨の部分が斜めに展開すると、高温の炎がドットへ噴射された。

その炎をモロに浴びたドットは、


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


全身を赤く燃え上がらせ、悶え苦しんでいた。


「ふ、背中のスラスターもこういう使い方があるのさ」


ザグロブは勝ち誇った顔でドットを見つめるが、当の本人は炎に包まれてそれどころではなく地面でバタバタと叫び声を上げながらその場を転がり続ける。

その光景を見てザグロブは我ながらドン引きし、何も言わずにその場を後にした。


─────────それからしばらくして、ようやく我が家へ戻れたザグロブは休む暇もなく、自室のタンスを漁っていた。

すると奥の方から古い木箱が見つかり、ザグロブはそれを開ける。


「よし! この貯金さえあれば何とかなるな…」


そして、肝心のあの老人の正体が何なのかも同時に調べ始める。

彼はもしやと思い、スマホを取り出してニュースを確認する。するとそこには思いもよらぬ記事が上がっていた。


【宮園議員、何者かに暗殺。 テロリストの仕業か】


そこには、あの時車から降りてきた老人とそっくりな人物の顔写真と共に、ザグロブ自身の顔写真が思いもよらぬ形で掲載されていた。


「なお治安当局は、黒ずくめの男が近くの鉄塔から降りる様子を目撃したとの情報が寄せられており…なるほどな…」


ザグロブは、その場に力無く座り込む。

自分の置かれている状況がようやく飲み込めた後、スマホに一件のメッセージが入る。

メッセージには


『ザグロブ! 今すぐそこから逃げろ! お前の首に賞金が掛けられた!』


と書かれており、彼は再び深い溜息を付いた。


「そうか…遂にこれまでか…」


ザグロブは深く落ち込み、肩を落としてしばらく呆然とするのだった。

そんな中、既にアパートは別の殺し屋達が包囲し、ザグロブを追い詰めようと企てていた。


「へへへ、馬鹿なヤツよ…逃げれないと思って自分の家に逃げ込むなんてよォ」

「それだけじゃねぇ、政治家ぶっ殺して懸賞金掛けられるなんてそうそうねぇよ」


殺し屋達は既に窓と玄関に展開し、これから正に突入しようと言う所まで来ていた。

そして遂にその時がやってくる。


「よし! 突っ込めー!!」


窓ガラスと扉が同時に叩き壊され、ついに殺し屋達はザグロブの憩いの場に土足で入り込む。

しかし、そこに彼の姿はなかった。


「おい! いねぇぞ!! 」

「そんな馬鹿な…こんな短時間で逃げれるはずが無い! どういうことだよ!?」


何故かザグロブがいない事に殺し屋達は慌てふためく。 すると、その内の一人が妙な事を口走る。


「おい、なんか音がしないか?」

「何…?」

「天井の方から聞こえるぞ」


そして突入した男達全員で真上を見上げると、そこには…


「ば、爆弾…!!」


殺し屋達は、一斉に外へと逃げようとしたが、それよりも早く、仕掛けられていた爆弾は起動し、爆音と閃光を上げる。

そして、彼の住んでいたアパートは大爆発し、乗り込んで来た男達は全員仲良くミンチとなった。


「…俺の我が家が…近所の人たちもいなくて俺だけしか住んでなかったけど…」


ザグロブは、そんな燃え盛るアパートを遠くから眺めていた。

そしてその風景を眺めていた彼は、決意を固めた。


「必ず俺を嵌めたクソ野郎を見つけ出してやる…絶対に…絶対に後悔させてやる!!」


こうして、彼の果てしない殺しの旅が今、始まろうとしていたのだった。







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