第13話 お昼休みも騒がしい

 昼休み。今日は拓弥が弁当ないって言うのと、虎太郎はそもそも弁当忘れてきたと言うので食堂に向かうことに。

 拓弥はトンカツ定食、虎太郎はカレーの乗ったトレーを持って、適当な場所を見つけて腰を下ろす。一方で俺は家から持参した弁当だ。


「それにしたってよー祐真。どうしたどうした? おい」

「いつの間にか橋本に好かれるとかお前なにしたんだよー」

「別に変わったことした覚えも好かれた覚えもはないかんな。ちょいと話をしていたくらいだ」


 話題は親睦会のことになる。と言ってもその中身ではなく、俺が橋本ともお近付きになっていることについてだ。二人は執念を隠しきれずにいる。そらクラス内で注目されてる女子二人と仲のいい男子ってなれば、そうなるのも仕方ないことなんだろう。


 そもそもクラスの親睦会を開き、橋本と幹事をやりだしたと知られたのが今日の朝だ。

 最も自分から言いふらすつもりなど微塵にもない。言ってなんになるという。自慢するわけでもステータスをアピールする訳でもない。毛頭そんなつもりなどない。そうする自分を想像するとアホらしく思える。


「そしたらどういうわけか協力させられたってだけのことだ」

「水くせぇんだよお前はよぉー」

「まぁなんにしても、お前らにも少し手伝って欲しいことがある」

「手伝って欲しいこと?」

「あぁ」


 その内容について言おうとしたところで、俺の事を呼ぶ声によってかき消されることとなる。


「祐真さーん」


 市松模様の弁当の包みと水筒を持った凛が、こちらにやってきた。


「凛か。どうしたんだ」

「桐華さん達に誘われてここに来たんです。そしたら偶然にも祐真さんを見つけたので。あっ、お隣いいですか?」

「いよいよ。お構いなく」

「ありがとうございます。桐華さん達もすぐに来ますので」


 たまたま出会った凛が俺の左隣りの席に座る。それをテーブルの向こう側から見ていた拓弥と虎太郎は、不機嫌そうな顔をしている。


「こうもサラッと自然な流れで女子が横に座って貰えるとか、羨ましすぎるわ」

「俺なんて登下校のバス、二人がけのシートの隣に座ってくるのは決まってじいちゃんばあちゃんか中年サラリーマンだぞ! 若くて可愛い女の子が隣に座ってきたことなんざ一度たりともないわ!」


 虎太郎のその発言に、納得して共感する拓弥が。


「わかるよー。飲食店のカウンター席とか、映画館とか! この間隣がカップルかと思ったら、さり気なーく座席交換してたし! 悲しくなったわ!」

「何がダメだっていうんだよ! 見た目か? 雰囲気か!」

「どうなんだよ祐真! 何がダメだっていうんだよー!」


 俺の知ったことではない。そんなに知りたければ流行りのファッションした二十代の女性にでも聞いてくるといい。特攻覚悟で。


「あっ。桐華さーん。こっちですー」

「おぉーやっと見つけたーって架谷くん。それに奥村くんと吉島くんも」

「どうも、橋本さん!」

「ご無沙汰してます!」


 二人はさりげなーい感じにしようとしてるが、明らかあからさまに。俺の隣に座ってくださいアピールをしていた。しかし橋本は何一つ悩むことなく、凛の左横に座るのだった。



 そんなに悲しむな二人とも。それが普通だ。元々橋本は凛と食堂に来たんだ。ならば彼女の隣に座るのが定石だろう。

 そういやさっき、「桐華さん達」って言ってたから、まだ来るわけか。そう思っていたら、その人達が来たようだ。


「あーれれー。誰かと思えば架谷までいるのかー」

「ホントだ」


 そんなことを言いつつ新たに女子が二人やってくる。そして凛と橋本の向かい側の二席に腰を下ろすのであった。


 俺から見て近い方。ピンクの髪のツインテールに、レモンカラーのカーディガン着てるのが堂口明莉どうぐちあかり。背丈が小さくひと目でわかるロリ体型。最悪小学生と間違われるくらいにだ。

 それに対して背も高く、高校一年とは思えない程に大人びた印象を与えさせる茶髪のポニーテールが谷内神奈やちかんなだ。洗練されたプロポーションは、多くの男子を虜にしている。

 二人が制服でなく私服を着て並んでいたら、それは同級生ではなく親子だろうよ。目測だけど、背丈が十五センチは違って見える。

 この二人にどういう接点があるのかについては知らんが、橋本らと一緒にいるのはよく見かける。仲がいいってことだろう。実際クラス内でも特に目立つ女子が、今ここに集まっている。

 男子三、女子四になった所で、二人の質問攻めは再開される。


「橋本さん。思ったんすけど、いつから架谷の奴と仲良くなっていたんですか」

「そうですよ!」


 拓弥と虎太郎がグイグイとテーブルに乗り上がる勢いで橋本の方に躙り寄る。見ていて怖いからやめてくれ。隣にいる凜があっけに取られているから。


「確かに私も気になる! どうなのよ桐華?!」

「うん。気になる……かも」

「み、皆さん近いです……」


 でもって堂口と谷内も便乗してくる。あんたら全員してやることは同じなんかい。ここだけその影のせいで暗くなってんだが。

 凛がさっき以上にオロオロしているし。


 すごい形相で四人が、にじりよってくるも、橋本は驚いて顔色一つ変えることなく、質問に答える。


「一昨日かなー。放課後にちょっと話をしてたら何か気が合ったって言うかーそんな感じで」

「もしかしてそういうアレなのか橋本は!」

「そんなんでもないだろ。多分お前らほど詳しくはないと思うし、最低限の話についてこれるぐらい……だと思ってる」

「そうだね……」

「それで架谷とはなんの話をしてたんですか」


 恐れも知らず、堂々と聞いてくるなおい。別に聞かれてまずい話はしてないが、直球で聞くのもどうかと思うぞ。


「凛ちゃんのことについてと……あとはあのアプリのことについて。この前吉島君がやってたやつ!」

「私のことですか?」

「変なことは話してないから。それにあのこともだ。家での凛がどんな感じか気になったからって」


 もちろんあのことについては話しちゃいけないし、勝手にそれ以外の秘密を言うつもりもない。というかそんなもん知らないし。


「で。どんな感じだったのー!」

「家事が得意で、料理は特にって」

「そっかー。いい嫁を持ったな架谷」

「何故結婚した底で話が進む」

「料理の美味しい奥さん……」

「谷内も乗らなくていいから。ないから。そういうことは」


 堂口と谷内が変な方向にスイッチ入ってしまう。そんなことは無いですから。そもそもの話、結婚できるのか? 多分というか流石にそんなことはないだろうが。


「ちくしょう。ますますお前が羨ましい」

「全くだ」

「人徳だなー架谷は」

「どうだろうねー。でも架谷くん色々話に乗ってくれたから……」


 これ以上そういう話を進められると、えらい方向に話が飛びそうだ。何とかしてくれ。と思ったところに救世主が。


「そういえば、親睦会って何するの?」


 サンキュー谷内。あなたが変に乗っからずに話題を変えてくれたおかげで難を逃れた。

 谷内がそう聞くので、橋本が大まかに説明する。と言っても今決まっているのは親睦会を開くということだけ。どこかに集まって食事でもしようかというのが今のところの仮決定事項だ。


「中身はこれから決めていくところだ。細かいプランニングはこっちで進める。だからクラスの人に意見を聞いてきてもらいたいんだ。親睦会やるにあたって、日時もそうだが店の場所も早めに決めておかなきゃならない」

「敷いてはそれにあたって、どんな感じの店がいいかとかを聞いてもらいたいんだ。それともし、ちょうどいい店を知っているって言うならそれも聞いて欲しいの。場所は集まりやすい駅周辺か街中が好ましいかな」

「はいはい! 私はオシャレなとこがいい! 出来れば予算も懐に優しいくらいで!」

「私も明莉と同じかな」

「予算もそんなに高くなるようなとこは考えてないよ。二千から三千くらいが目安だと思ってる」


 女子は女子であれやこれと盛り上がってるが、それについていけない男子は悩ましい顔をしている。


「女子はいいかもしんないけど、男子はどうすんだよ架谷」

「だからまずお前らに頼んでいるんだろ。なにも直接聞いてこいなんて言わねぇよ。友人伝いになってもいいからさ」

「友人伝いにか……まぁそれなら何とかなるか」


 男子も男子で何とかしてこいと、拓弥らに言ってやる。

 その後は親睦会の打ち合わせをしつつ昼休みを過ごした。それにしても、外の雲行きが思いの他に怪しいようだ。

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