第2話 その少女は九尾であった
お互い相手をじっと見つめたまま様子見。と言うよりもその場から動けずにいた。
「あの……どちら様で?」
それでも俺は驚きの表情を隠しきれぬまま、やや片言のような口調で少女に問いかける。
「あ、あなたこそ……誰ですか!?」
少女は少しおどおどしながらこう答える。そらまず聞きたいことは俺と同じだわな。
「それにここは何処で……」
そしてこれもそうだ。あのよく分からん紙切れが風に流され俺の部屋に入ってきて、それが突然光りだしたあとこの娘は現れたんだ。本来この人が行くべき所とは違うところに来てしまったんだろう。てか人なのか?
というか待てよ。これ、聞いてもいいんだろうか。お互いその後何も話せずじまいの状況だからこそ、どうにかしないといけないと俺は思う。だが目の前にいるこの少女は不可解な現象によって現れたのだ。普通でないことなど考えるまでもない。深追いしようもんなら何が起こるかわかったもんではない。彼女に対する心配と恐怖とを頭の中で天秤にかけて考えてみた。
やはり何とかしなければと決めたので、話しかけようとしたとき、また驚かされることになる。
「うちのものがすまんのぉ」
また声が聞こえる。それもさっきの少女ではない、また他の誰かの声だ。しかし人影なんぞ他にはいない。思考が混乱しだして辺りをぐるぐると見回してみる。しかしあの少女の他には誰もいない。もしかしてゆ――――
「残念だのう。お主の後ろじゃ」
「のあ゛あ゛ぁぁ?!」
後ろから首筋を撫でられて声が上がり、身体が反応してしまう。そして慌てて後ろを振り向いてみたけど、やっぱし誰もいない。やっぱり幽霊!?
「初心な反応じゃのう。今度はこっちじゃ」
もう驚きの連続で首ががくがくと動いてしまう。声に反応して慌てて前の方を向き直す。
「(なんか増えてる……)」
少女の隣に一人の女性が現れていた。今度は銀髪で、あの少女よりも大人びている。あの声の主はこの人と見て間違いないだろう。しかし、突然の理解出来ぬことばかりで思考回路がショートしそうだ。
でも……綺麗な人だなぁ……。
この銀髪の女性も、あの少女同様に絵を切り取ったような美しさであった。そして大人の魅力というのだろうか。美しさとエロっぽさも……
「(いや、こんなよくわからん状況なのに何考えてんだ俺はぁぁぁ‼)」
速攻で我に返った。こんな頭がお花畑なことを考えられるような状況じゃないだろ今は! すぐにでも近くの床か壁にでも頭を打ち付けたくなった。これは夢だそう間違いなく夢だ。いっそ部屋の中で暴れたくなった。
「お主大丈夫か……。すまんのぉ混乱させてしもうて。少しばかり話をさせてくれんかの」
「からかいが過ぎますよ出雲様。私もですけど、あの人ビックリしちゃってるじゃないですか」
そらビックリしますよあなた以上にビックリしてますよ!
今にも汗が出そうなほどだ。しょうもない比喩だけどかいた汗だけで脱水症状になろうかってくらいにだよ。
二人の女性は俺の部屋の中を興味深そうに眺めていた。ベットの下のエロ本だとか、変わった趣味の禍々しいといった変なものは置いてないし大丈夫か……。いやいや、今考えるべきはそんなことじゃあない。とにかく目の前の事を片付けなければならない。一歩間違えりゃ何が起こるか分からんのだ。逃げ道はない。覚悟決めて向き合わねば。
「それにしても此処はいったいどういう所なのだ? 明らかに山の中と言うわけではなさそうじゃが……」
「私が聞きたいですよぉ……」
向こうも色々事情がありそうだけど、ひとまず向こうの話を聞くことにしよう。少なくとも、敵意がないことだけは理解出来た。
だからこそ下手なことはしたくない。しつこいようだが何されるか分かったもんじゃない。最悪記憶どころか存在を消されるかもしれない。記憶だけ消してくれるなら優しいもんよ。直ぐに何かしら手を下さないところを見るにまだ猶予はある。……多分。
今まで感じたこともないような緊張感があった。合唱コンクールの前日だとか、定期テストの時だとか、高校受験の時だとか。そんなもの大したことないというぐらいにまで思える。
「さて、では何から話せばよいかの……」
どう説明すべきか向こうも悩んでいるようだ。ポンと手を叩き、ふと思い出したように言う。
「おぉそうじゃ。名乗るのを忘れておったわ。儂は出雲という。それでこっちは凛と言う。以後よろしゅうな」
「は、初めまして……」
金髪の方の少女がさっき口にしていたが、銀髪の大人びた女性は出雲というそうだ。そして彼女に紹介されてから、凛という名の少女は一言ご挨拶してから深々と礼をした。
「それで主は何と言う名なのじゃ?」
「えっと……架谷祐真といいます。好きに呼んでくれて構いません」
こちらも名乗ってから一礼した。人と面と向かって話すのはなんとも落ち着かないものだ。特に今話しているのは麗らかな女性なのだ。なおさらである。いや、そんなものはただの現実逃避に他ならない。気を緩めるな俺。
「では祐真殿と呼ぶことにしようか。挨拶はこれくらいにして、本題に移ろか。お主は霊魂とか怪異と言われて何か思うつてはあるかの?」
「まぁ、大体は……。てかなんでそんなこと聞くんですか?!」
やっぱりそういう系なの?! 俺もう命の危機なの?!
「そんなに怯えんでくれ。別にお主を取って食おうとかそんなのではない。」
「そ、そうなんすか」
「あぁ。そうじゃ」
「マジですか!」
「マジじゃ」
「嘘じゃないですか!!」
「あぁ。嘘偽りはない。と何度も言っておろうて」
「そこまで言うなら……今は、信用することにします」
いやいきなり魂の話されたら、食われるのかと疑うよ普通! なんかヘラヘラ笑いながら言っとるけども、こっちからすりゃ恐怖でしかないんだよ……。
「なら良い。儂らはの、それらの管理や調整、監視や解決なんぞをしておる」
あぁそういうことなら単純だな。と、少しばかり安心し一息つく。
「となると……巫女や陰陽師のようなものなのですか?」
確認するような口調で言う。きっとそう言うことなんだろうと。
「いや、逆や」
しかし返答は違っていた。しかもなにやら意味深そうな答えが帰ってくる。逆ってなんだ逆って。そして出雲様は続けてこう言う。
「妖なんや。儂らは」
いやいやいやいや、サラッと言いますけどね、そう言われても意味わかんねぇよ?! だって今俺の目の前にいるのは誰がどう見ても人間だぜ? 妖って事は要は妖怪っつーことだよな。いやいやないない。妖怪が人に化けるってのはよく聞く話だけどよ、流石にそれは……。
様々な思考が頭の中で交錯し、ぐちゃぐちゃになりつつあった。額から汗が流れ、目が泳いでる俺を見かねたのか出雲はこう続けた。
「今、俺の目の前にいるのはどう見たって人間だ。いくらなんでもそれはないな……などと考えておろう?」
「?!」
「ほっほっほ。図星じゃったか。やはり人間の考えることってのはつくづく面白いのぉ」
「あ、え、えぇぇ!?」
心を読まれた!? もしかしてエスパー!?
「お主のその驚きようを見れば容易くわかる。突然言われて信じれんのも無理はないか。それにワシらはそっちで言う超能力者というもんでもない。でも実際証拠にな……」
出雲がそう言う横で凛の口が動いていて、が何かを詠唱しているのに俺は気がついた。でも何を言っているのかまではわからなかった。
そして何かを言い終えた次の瞬間、凛が幻想的な光を放っていた。その眩しい光に、無意識に俺は両腕で顔を覆い、目を閉じていた。十数秒くらいしてから、ようやく光が消えていったようだ。再び目を開いてみると驚くべき光景が。
目の前にいるのは確かに凛であるとはわかる。服装も変わっていない。でもさっきまではなかった狐耳と尻尾があった。しかも尻尾は九本ある。正しく九尾というべきものであった。
俺はそれをただ唖然と、そして御来光でも見るかのような目でそれを見ていた。
「まぁそういうことじゃ」
「いや、そう言われましても……」
まぁねぇ……論より証拠とは言うよ。もう夢か現実かどうかなんて、前者でないことは痛いほどわかったよ。
でもな。一体全体何なんだとは疑いたくなるよ。
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