影武者

 影武者といっても瓜二つの身代わりではなく、本体から逃げ出した影を自らの身体の下にかくまう大変な仕事である。眼前のうるわしい容姿の夏目さんは、東方一の影武者だそうだ。今は何体匿っているのか尋ねると、十二体と夏目さんが答える。証拠を示すよう僕が言うと、途端に夏目さんの影から千手観音のように伸びた無数の手が一瞬で引っ込む。とかく影は勝手に動き回ろうとするので、自分が動いて影を離さないようにするのが寛容だと、夏目さんが言う。僕の影はかなり活発らしく、何かと暴れたがるらしい。その度に、「おっと」と声を発しつつ夏目さんがロボットダンスみたいにかくかく踊り出し、微妙な残像を残して床を滑る影を、僕は驚嘆の目で眺める。


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第七十六回お題「影」

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