影武者

 入室した夏目さんを見た僕は驚く。影武者の触れ込みなのに細身の美女で、髭面肥満の僕とは外見はおろか、性別すら合っていない。「何の人違いか」と僕は額賀ぬかがを詰るが、「人違いではございません。まさにこの方です」と額賀が断言する。監視モニター付の自室に籠った僕が、試しに夏目さんに廷内を散策させると、何と誰もが夏目さんを僕と勘違いする。モニターに映る美女に、誰もが頭を下げて恭しく接している。それどころか夏目さんは、舌を出して耳元で両掌をひらひらさせる愚弄の仕草すらしているのに、相手は額の汗を拭いながらますます恐縮する。背後で誇らしげな顔をした額賀に、「合格だ」と言わざるを得ないのが、僕は少々しゃくですらある。


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第七十六回お題「影」

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