標的

 消灯後に弾丸を撃ち込まれて厳戒態勢下となったその翌晩、愛用のM21を肩に提げた夏目さんが僕に頷いた。女性ながら夏目さんは最優秀の狙撃手で、斥候の僕は敵地への誘導役だった。敵兵舎は森林を超えた渓谷にあった。下生えにうつ伏せになってM21のスコープを覗いた夏目さんが撃った弾丸が、標的の三階の窓ガラスを粉砕した。敵狙撃手は弾丸に暗号文の刻まれた金属片を忍ばせており、昨夜のそれに彼の家族構成が記されてあったそうだ。武力衝突中にスコープで覗いた狙撃手の美しさに初めて標的を仕留めなかった夏目さんが、後日暗号文入りの弾丸を打ち込んでから狙撃の交換が始まり、そろそろ心を撃ち抜けそうかも、と夏目さんが笑った。


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第七十五回お題「届く」

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