恐妻道

 恐妻道の道場は高層マンションの一室にあった。師範の夏目さんは窓辺のソファでお茶をたしなんでいた。僕はこの若くも妙齢にも見える柔和そうな女性に、いきなり怒鳴られた。口調が早過ぎて、語尾の「しよや」しか聴こえなかった。聞き返すと皿を洗えと言っていたので、僕はキッチンに溜まった皿を洗った。皿を洗い終えると再び背後から、「しよや」と叱責が飛んできた。驚いて振り返ると、菩薩のような夏目さんの目が吊り上がって般若の如き形相になっていた。その射殺すような眼差しに僕は思わず硬直した。このような正しい畏れを養うことから、恐妻道は始まるらしい。月四回で月謝二万五千円。何故皆が恐妻道を嗜むかが、僕には全く分からない。


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第七十四回お題「道/路」

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