もう一人

 図書委員の会議が終わってトイレに寄った僕が下駄箱に向かうと、一緒に帰る約束をしていた夏目さんが困り顔で、靴を隠されたと言う。僕たちはすっかり暗くなった無人の校舎を、一階から順に靴を探して回る。一階にも二階にも靴はなく、残るは三階突き当たりの、自殺者が続出して未使用になった教室しかない。躊躇する僕を「怖い?」と笑って先に入った夏目さんが、中から僕を手招きしてくる。僕も入ろうとした瞬間、廊下から呼び声がして振り返ると、それが「こんなとこで何してんの」と声を荒げて階段の角を曲がってきた夏目さんで、驚いた僕が室内を振り返ると、そこには誰もいない。僕は適当に返事をはぐらかし、結局真相は言えていない。


Twitter300字ss

第七十三回お題「隠す」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る