頭隠して

 遺産相続を巡って命の危険を感じた僕は、護衛の額賀ぬかがを伴って世間から姿を消す。方々に子飼いの情報屋を飼っている額賀が、「お兄様が夏目さんを雇われたそうです」と残念そうに言う。夏目さんは女性という以外に素性不明の、超凄腕の失踪人調査員と聞くが、僕とて秘策はある。買収したサキャ派の高僧をガイドに、僕たちは雪と氷に覆われたヒマラヤ山脈奥地の鍾乳洞の中に身を潜めるが、まだ額賀が大丈夫でしょうかと心配顔で言うので、「流石にここまでは分からんだろ」と僕が豪語すると、傍らの老僧が自分の白い顎髭を引っ張ってずるりと剥いたしわだらけの皮膚ひふの奥から夏目さんの美しい小顔が覗き、僕の口から「うそー!」という叫びが漏れる。


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第七十三回お題「隠す」

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