二 縁結びの蝶
やあ。
あれから、少し思い出した事があるんだ。
本家の近くには、割と有名な縁結びの神様がいる神社があってね。
インターネットの口コミとかで噂を聞きつけて、他方からも願掛けに来る人がいるようだ。
私はお参りした事はないけどね。
知人が一度行った事があるらしくて、こんな話を聞いたんだ。
その神社では、良縁を願ってからおみくじを引く、というのがお決まりの作法だと言っていたんだけど、そのおみくじというのが少し変わっていてね。
普通、おみくじと言えば、吉や凶、という漢字で書いたものを連想するだろう。
ところがその神社のおみくじは、運勢が全部カタカナで書かれているんだ。
「キチ」
「キョウ」
そんな感じでね。
これだけでも珍しい方だと思うんだけど、まだある。
そのおみくじ、凶を引いた場合が厄介なんだ。
なんでも、本来なら「キョウ」となるところが、ごくまれに「チョウ」に見える時があるそうだよ。
それを引いてしまった人は、その日の内に境内で蝶を見付けなきゃいけない。
それも普通の蝶じゃない。
羽が片方しかない蝶でなければいけないと。
ああ、種類までは聞いてないな。何でもいいのかな。
とにかくだ。
その蝶を見付けられたら、折ったおみくじを羽が無い方へとくっつける。
そうすると、そのまま羽になって蝶は飛び去っていく。
それを見届ければ願いが叶う、ということらしい。
蝶が想いを届けてくれる、といったところなのかな。
見付けられない時は、縁が無いということなんだろうね。
そうそう。
実はこの話をしてくれた知人が、その「チョウ」のおみくじを引いてしまったと言っていたよ。
それはもう必死で蝶を探したそうだ。
季節は春頃で、蝶そのものを見付けるのはさほど難しくなかった。
しかし夕暮れまで粘っても、片方羽の蝶は見付からない。
夜になってしまえば更に見付けるのは難しくなる。
焦った彼はどうしたと思う?
罪なことに、その辺の普通の蝶を捕まえて、片方の羽をむしってしまったんだ。
そして手にしたおみくじを無理矢理くっつけようとした。
そんなズルは通らないんだろうね。
当然のように何事も起きない。
むきになった彼はそれを繰り返すあまり、つい力んで蝶を潰してしまった。
そこで我に返って、申し訳なく思いながら境内の端っこに埋めて帰ったんだそうだ。
うん。
おしまいだよ。
その後、彼の不倫がばれて奥さんが自殺した、みたいな展開を予想したかな?
残念ながら、彼から聞いたのはここまでだ。
それも酷く酔っていたからね。どこまで本当かはわからない。
確かめようにも、その後すぐにどこかへ引っ越してしまってね。連絡も付かないんだ。
うん。
真偽とは、後々になっていざ確かめようかと思うと、もうその
まるで、掴み上げてもさらりとすり抜けていく水のようだよ。
ああ、例の神社に私が行って確かめられるものなのかな。
想う相手がいない人が拝むとどうなるんだろう。それも聞きそびれていたよ。
疑問というのも、後からこんこんと湧いて来るものなんだね。
まあ、こんな類の話ならば他にもあったはずだ。楽しみにしてくれるなら、もう少し張り切って思い出してみるとしようか。
じゃあ、またね。
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