僕の話39

再び無言で高校までの道のりを進む。

校門近くに着くと、見知った姿が門の傍に立って居るのが見えた。

「先生!」

「おはよう〜。2人とも。いやー、今日も寒いね!」


上田先生はポケットに入れていた手を出し、左右に振ってくれた。僕らも同じように手を振り返し、先生の傍に駆け寄る。

「おはようございます。先生早いですね。」

「そう?車だしこんなもんだよ〜。」


いつものように先生と雑談を交わすと、知らず知らずのうちに力が入っていた背中がスっと緩く解れる気がした。

自分で思っていたよりも緊張していたようだ。

「2人ともいよいよだね。」

「「はい。」」

「大丈夫。今までたくさんやってきたから、自信を持って挑んでくるんだよ。」

背中をドンと叩かれるが、痛くはない。

そう、僕達は一生懸命やってきたんだ。


ちらほらと他の受験生もやってくるが、僕達のように先生と一緒にいる人はいない。定時制は定員も少ないが、受験者数はもっと少ない。受験者数が定員数よりも少ないことを定員割れと言うそうだが、定員割れとなっているところがほとんどで、よほど悪い点数を取らなければ大丈夫らしい。

そのため、受験前に先生が鼓舞をしに来るなんて大層なことをしている人などいないのだ。

そう思うと少し気恥ずかしい気もするが、「こういうのは雰囲気が大切なんだよ雰囲気が。」と上田先生はカラカラと笑っている。


「健闘を祈るよ、優也君、洋子ちゃん。無事合格したらみんなで焼肉でも食べたいね!」

「肉!!良いね!食べたい!!」

「そのためにはまず今日を無事終えないとでしょ。」

「まあまあ、楽しみも必要じゃん?」

「楽しみにしすぎて面接で“焼肉”なんて答えないでね?」

「それは…頑張る!」

「そこは答えないって応えて欲しかったなぁ…。」

受験後の楽しみもでき、僕らは意気揚々と校門をくぐる。


洋子とは受験番号が離れてしまったが、同じ教室内で受けれることが座席表から分かり、ホッとする。席に着いて周りを見回してみると、本当に色んな人がいた。


髪を染めてやんちゃをしてそうな人、自分よりも明らかに歳上な人、同い年くらいの人、普通の高校生くらいの子…。

小さな教室にこんなにも様々な人間が集っているのは中々に面白かった。

10分前になると、スーツを着た男性が教卓の前に立ち、何やら黒板に書き始めた。

試験時間が濃くハッキリとした字で黒板に記載されると、注意点も話された。


いよいよ、始まる。

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