僕の話36


残り3ヶ月、準備もいよいよ大詰め!

残すは面接と作文対策!

でもこの約1年色々乗り越えた僕にとってはその2つはなんてことないぞ!!


…と、いうこともなく、僕は自分で考えることの難しさに直面していた。


「なぜ今高校に入学しようと思いましたか?」

「えっと、僕、私は小学生の時から学校に行っていなくて、このままじゃいけないと思い、高校に入学しようと思いました。」

「高校入試をするにあたって周りの人はどんな反応をしましたか?」

「両親は、応援をしてくれています。」

「そうですか。では、今気になっているニュースなどはありますか?」

「えっと、ニュース…ニュースは…。」


僕と上田先生の間に沈黙が流れる。

僕は何か答えねばと焦り、あ…とかう…とか声を発するが、どれも言葉にならなかった。


「ニュースは見ませんか?」

「はい…すみません…。」


見かねた上田先生が質問を変えてくれたが、その後の質疑応答は散々であった。

1つ質問に答えられなかったことで頭が真っ白になり、今までなら答えられていたものにも上手く答えられなくなっていた。


「はい、終わり。お疲れ様。」

「ありがとう、ございました。」

初めてだから仕方がないとはいえ、これからに不安が残る内容であった。

事前に上田先生から面接でよく質問されることの一覧を貰っていたので、その質問に対する回答は考えていたのだが、思いもよらない質問がくると何も出てこなくなる。それに、事前に考えていたと言っても全てを暗記することができず、内容が思い出せないこともある。


「面接って難しいですね。」

「まぁ、そうだね。何聞かれるかある程度予想してても難しいよね。」

机にぐでんと伏せ、洋子の面接練習の見学をする。

上田先生は最初、面接しているのを見られるのは恥ずかしいだろうということでそれぞれの家で対策をしてくれようとしていたのだが、今更僕たちに理由を聞かれる恥ずかしさも無いということで勉強会と同じようなスタイルで良いと返したのだ。

僕があまりできないのは知っているから変に格好つけようとも思わないし、むしろ洋子がどんな風にするのか見て学ぶつもりだ。


「この学校に入ったらどんなことを頑張りたいですか?」

「はい。私はこの学校に入ったら、行うことのできなかった学校行事に友人たちと協力して取り組むことを頑張りたいと思います。」

「具体的にはどんな行事ですか?」

「体育祭です。実行委員に立候補して生徒のみんなが楽しめる体育祭を作りあげてみたいと思っています。」

「なるほど。では―…。」

どんな質問がきても淀みなく話す彼女を見て改めて感心する。

伸びた背筋と凛とした横顔は彼女の意志の強さとこれまでの努力に自信を持っていることを表している。


上田先生からの質問が止み、礼をして練習が終わったことが分かる。

「なんか…すげぇなやっぱり。」

ほーっと感心した声を出すと洋子はなんてことのないようにまあね、と返す。

「やっぱり違うな~。俺も洋子みたいな頭が欲しかった。」

ないものねだりだとは思うが、洋子ほどの頭を持っていたら面接や作文も恐れることなく取り組むことができるのに、と思う。


「それは違うわよ。」

「ん?」

洋子はそう言うと徐にカバンの中からバインダーを取り出した。

緑色のバインダーの中にはルーズリーフが沢山挟まっていた。

「何これ?」

「開けてみたら分かるわよ。」

その言葉を聞いてその緑色のバインダーを開いてみる。

すると、中に挟まっていたルーズリーフは洋子の綺麗な字でびっしりと埋まっていた。

「“ 高校に通うことになったら最後まで通えますか?”“在学する4年間の中で挫けそうになることもあると思いますが、なぜ自分が高校に入りたいと思ったのかを思い出し、最後まで諦めずに通います。 ”…これって…。」


上田先生が事前に僕たちに渡していた質問内容とそれに対する答えが書かれており、赤ペンで修正をしているものもあった。

「私だって見ただけでパッと意見が思いつくほど出来る人間じゃないの。毎日書いたのを見返して覚えてるのよ。」

「へぇ…。」

「確かに、ただ頭の中で考えるだけじゃ中々覚えられないよね。手も動かしながら読んでいくと記憶に残りやすいよ。」

パラパラとページをめくる。これだけは絶対に答えたいという言葉には線が引いてあったり、覚えられなかったのであろう質問は2回、3回と繰り返し練習をしてあった。

「やっぱり、お前って凄いなぁ!」

洋子と再会してから何度も思ってきたことであったが、改めて彼女は凄いと思った。

もし、僕も洋子も不登校にならず、そのまま大人になっていたら彼女がこんなに努力家で頑張り屋なことを知らずに、男子のことを子供だと見下してる賢いちょっと嫌なやつだと思っていたかもしれない。いや、思っていただろう。

賢いのは賢いなりの努力があるのだ。


「…褒めても何も出ないわよ。」

真っ向から褒められるのが照れくさいのか手櫛で髪を整えながらルーズリーフに先程の面接の振り返りをまとめていく。

真っ赤になった耳から喜んでいるのは丸わかりなんだけれどな…と口にはしない。

その代わりに上田先生と目を合わせて少し笑った。


入試まであと、もう少し。


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