僕の話35
願書も書いてもらい、上田先生の家庭教師のおかげで中学校の学習範囲もほとんど終えることが出来た。
これで心配することは何もない!と思っていたのだが…。
「これから3ヶ月間は作文と面接の練習をしていくよ。」
「作文と面接!?」
定時制高校の受験日は3月の初めにあるらしいので、残りの3ヶ月間はひたすら教科内容の復習だと思っていたが、どうやらそういう訳では無いらしい。
「定時制の受験科目は作文と面接なんだよ。」
「国語とか英語とかじゃないんですか?」
「定時制はいろんな年代の人が受けるからね。試験も学科、教科じゃなくて作文と面接が多いんだよ。」
なるほど…。
「え、でも俺作文なんて夏休みの宿題で書いたことしかないし、面接は全くやったことないんだけど…。」
「そのために3ヶ月前から練習するんでしょ!ほら、作文用紙も持ってきたし、やるよやるよ!」
パンパンと手を叩いて僕と洋子に発破をかける。
洋子もさぞ驚いているだろうと思い、横目でちらりと様子を伺ってみたが、いつもと同じ涼しい顔をして貰ったプリントを整えていた。
「…もっと驚かねぇの?」
「…自分が受ける学校の試験科目ぐらい確認しないの?」
プリントをまとめていた手を止めてこちらを向いた洋子は呆れたと言わんばかりの表情をしていた。
そっか、試験科目って自分で見とくものなのか。うんうん確かにその通りだと頷いていたが、よくよく考えてみると自分にはパソコンも携帯もなく、情報を調べるための手段を持っていないことに気づいた。
「募集要項にも書いてあったでしょ。」
洋子が僕の考えを見透かしたように言う。
「募集要項…?」
「願書とかが付いてた冊子よ。もしかして、全部に目を通してないの?」
これよこれ、とカバンの中から見慣れた冊子を取り出した。冊子の一番後ろには試験を受けるために提出しなければならない書類が付属されていたため、目を通していないことは無いのだが、細かいところまで見なくても大丈夫だろうと思い飛ばしたところもある。
「願書のことしか書いてないと思ってそこ読んだら後は…読んでない、です。」
「だと思った。入学するまで気は抜けないんだからね。」
さすが同級生というべきか、久しぶりに会った僕の性格もよく把握していた。
「ははは。洋子ちゃんはしっかりしてるねぇ。そうだね、合格しても素行次第では合格取り消しなんてこともあるからね。無事入学するまでは気をつけてね。」
「そこう?」
「素行は普段の行いのことよ。優也君は大丈夫でしょ。」
「普段の行いか~、それは多分大丈夫だなぁ。」
元引きこもりとして、そこは自信がある。
「最後まで全力で!みんなで一緒に頑張ろうね!」
上田先生がグッと拳を握る。
洋子と顔を見合せ、僕らも笑顔で拳を握って見せた。
入試まで、あと3ヶ月。
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