ぼくの話 24
オープンスクールで洋子と再開して、その後のことを知ったぼく。
2人もの人間の人生を狂わしたことに憤りを覚え、居ても立ってもいられず、我慢の限界で橋本君たち4人を次々と復讐と称してこの手にかけー…
ることもなく、日々受験勉強に勤しんでいた。復讐はしないけど復習なら毎日してるってね!ははっ!
…なんて気持ちになる訳もなく、段々と難しくなっていく勉強に辟易しながら毎日問題集と睨めっこをしている。なんだこれ、相似?証明して何になるというのか…。
数学や英語は1度つまずいてしまうと、その後の理解も難しくなってしまう。なので、分からなくなると次に上田先生が来る時まで進めることができなくなってしまうのだ。
そのため、最初は簡単だと思っていた各教科3ページの毎日の宿題もなかなか終えられなくなっていた。
少し変わったのは上田先生が来て、勉強を教えてくれる時にはたまに洋子も来るようになった事だ。
といっても、洋子は不登校になっている間もコツコツと勉強をしていたので、高卒の資格こそないものの頭脳的には高卒レベルまであるらしい。ぼくがヒーヒー言いながら教えて貰っている時にも、涼しい顔をしながら英語の参考書(英検準1級とか書いてあった気がする。)を解いていた。
なんで一緒に来ているのかも謎だが、そんな頭脳を持っているなら、今更高校に通わなくたって良いだろうに、なんで通おうとしているのかも謎だった。
ぼくが母親に言われたように彼女にも『 高校は定時制だけじゃなくて、通信制もあるんだよ。』と言ってみたら、『 知ってる。なんなら高卒認定試験があるのも知ってる。でも、それで高卒認定を受けても、結局国公立大学には受からないから。』とぼくよりもずっと多い知識で返されて口を噤むしかなかった。
なんなんだ高卒認定試験って。
それでも悔しくて『 通信制で学んだって同じ高卒だし、国公立大学だって行けるんじゃないの?』と知ったかぶって言ってみたら、物凄い顔で凄まれてしまった。
上田先生はぼくたちの会話を聞いて笑っていたけど、洋子に睨まれたぼくは、内心気が気じゃない。
「…私たちが高校性になるときは、通信制はそんなに広くやってなかったのよ…。」
今ではデジタル機器が普及し、誰でもインターネットを通じて高校に通えるようになった。しかし、15年前はどうだろう。携帯は大人が持つもので、子供たちで持っている子なんて余程の良いとこの子供たちだったし、パソコンはノートではなくデスクトップと呼ばれる持ち運びなんてできない卓上の物が主流で、こんな田舎町で持っている人はまずいなかった。
近くに通信制高校の拠点もなかったあの頃だと、通信制に通うという選択肢はほぼ存在しないに等しかったのだ。
彼女は、自分の夢を叶えるためにきちんと行動をして調べていたのだ。そんなことも知らず、軽はずみな発言をしてしまった自分を恥じた。
「なんか…ごめん…。」
申し訳なくなって謝ると、彼女は驚いたように目を丸くして
「優也君も変わったね。」
と言った。
言われている意味がよく分からなくて、首を捻ると
「だって、5年生の頃には女子をからかっては怒らせてたじゃない。なのに今はちゃんと謝るから…。そう…優也君も大人になったのね…。」
なんてしみじみと言われた。
せっかく謝ったのに!と思ったが5年生の時はからかってばかりいて、女子と口喧嘩になったことも少なくない。
「まぁ、俺もいつまでも子供じゃないからね!」
恥ずかしさを紛らわせるためにおどけてそう言ってみると
「ま、そうよね。いつまでも子供じゃ困るわ。」
となんとも冷たい答えが返ってきた。洋子にはいくつになっても勝てそうにない。
「2人とも面白いね〜。何、昔もこんな感じだったの?」
上田先生が尋ねてくる。
「いいえ。全然。」
そういえば、同じクラスでもタイプが正反対だったから洋子とはほとんど話をしたことがない。からかったとしても倍になってやり返されるだけなので、洋子にだけは何も言わなかった。
「それが今では一緒に勉強してるって、不思議だねぇ。」
不本意な理由ではあるが、2人とも学校に行けなくなって、そして今一緒に同じ高校を目指している。人生とは本当に何があるか分からないものだ。
「優也君はとても苦戦していますけどね。」
「ぐぐ…今に見てろよ!」
「楽しみにしてるわ。」
くすくすと笑う彼女は5年生の時に見た彼女よりも生き生きとしているように見えた。もしかしたら、5年生のときも、こんな風に何気ないことで冗談を言い合って過ごしたかったのかもしれない。誰からも頼られるような人物でいなければならないというプレッシャーは彼女の中で重かったに違いない。
いつか、彼女が高校に通おうと思った理由を聞けたら良いな。相似条件を覚える頭の片隅でそんなことを願った。
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