ぼくの話 22

「その後、京子から話を聞いたみんなから本格的に無視されたり、悪口を言われるようになって私も学校に行かなくなったの。」


…知らなかった。ぼくが不登校になった後洋子がターゲットになっていたなんて、そして、彼女も不登校になっていたなんて…。

「…先生には、言わなかったのか…?」

「異変に気づいてても何もしない先生だもの、言ったからって何が変わるとも思えなかったし…。それに、杏子と仲直りしなかったって聞いて逆に『 せっかく仲直りする機会を与えたのに棒に振るなんて!』って怒られたくらいだから。」


先生に言うことが必ずしも正解な訳では無い。そのことはぼくだって身をもって知っている。あいつらは今度は隠れてやるんだ。

でも、小学生だったぼくたちにとって、救いを求めるのはいつだって大人で、先生に縋る以外に方法なんて分からなかったんだ。


「でも…でも、なんで洋子も定時制高校のオープンスクールにいたんだよ!お前なら…お前ほど勉強できたら、中学だって、高校だってそのまま行けただろ…?」

そうだ。洋子はぼくと違って賢かった。木嶋君と同じくらい頭が良くて、それは橋本が来ても変わらなくて…。


「……。」

洋子がキュッと下唇を噛み締め、下を向く。饒舌に話していた彼女の、初めての沈黙だった。

彼女の思い詰めた表情を見ているとぼくの顔も自然と強ばってくる。もしかしたら、ぼくは触れてはいけない話題に触れてしまったのかもしれない。


「……。」

「……。」

時間にするとほんの数分だったかもしれないが、ぼくたちにとっては数十分にも感じられた。


「…落ちた。」

「へっ?」


意を決したように彼女が発した言葉を理解するのに時間がかかった。落ちた?何が?


「…だから、中学受験、落ちたの、私。」

「えっ…。」

彼女でも落ちるのか、中学受験は…。受験とは無縁の人生だったからどれくらいの難易度なのかはよく分からない。だけど、中学受験に落ちたということは彼女もぼくのようにみんなと同じ公立中に通わなければならなかったのか。


「…学校に行かなくなってから、塾はもう行きたくなかったから、家庭教師にして勉強は続けてたの、受験して別の中学に行けば、また通えるって思って…でも、でも…途中から通わなかったの、通知表で分かるから…通えない子は、ダメなんだって…!」

通知表には、成績とは別に出席日数が載っている。1年のうちに何日来ないといけなくて、何日休んだのか。彼女は二学期と三学期を行っていないらしいから、1年の半分以上は休んだことになったそうだ。

受験にはそんなことも関係してくるのか。どれだけ成績が良くても、学校に通ってなかったら受からなくて、いくら学ぶ気があっても門戸は開かれない。


遂に耐えきれず嗚咽を漏らしながら顔を伏せてしまった彼女にぼくはかける言葉は見つからなかった。



だって、彼女の夢は叶わなかったことを知ってしまったから。

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