洋子の話③
その後、橋本君たちに私と杏子が喧嘩したことは誰も言わなかったのかいじめが酷くなることは無かった。
だけど、放課後担任の先生は、授業前に泣いていた杏子に何があったのかを尋ねていたようで、次の日の放課後に私は杏子としっかりと話し合うようにと教室に残らされていた。
「みんなはまだ若いし、色んな考えがあると思う。分かるぞ。でもな、ろくに話し合わずに2人ともお互いのことを勘違いしたままになると、せっかくの友人を無くしてしまうことになるぞ。それだけはやめておけ。」
…何を勘違いしているというのか。
私をいじめている人と杏子は付き合った。それは勘違いでもなんでもない。周りのみんなだって知っている。
「2人でしっかりと話し合うんだぞ。先生は職員室にいるから、話し合いが終わったら2人で仲良く報告しに来ること!なんなら手を繋いできてもいいぞ〜!」
おちゃらけたように口を大きく開けて話をする先生に虫唾が走る。6年生にもなって手なんて繋ぐものか。
私たちが話し合いをすれば仲直りをすると信じて疑わない担任は、最後にそう言って教室を出ていった。
先生の明るさに杏子は緊張が解れたのか喧嘩をする前のように話しかけてきた。
「きっと、なにか私たち勘違いしちゃってるんだよね?」
「…勘違いってどんな?」
「えっ…えっと…えーと。」
「あなたと橋本君が付き合ってること?」
「いや、それは…本当なんだけど…。」
「じゃあ、勘違いなんてないじゃない。話はこれで終わりね。先生には私から言っとくから帰っても良いよ。」
「違う!待って!終わらないで!!」
「…何が違うの?」
今までは杏子に対してこんなことを思ったことは無かったのに。裏切られたと感じた瞬間から嫌悪感を感じるし、話をしているとイライラしてしまう。
「ごめん…ごめん…きっと私が何かしちゃったんだよね…許されない何かを…。」
分かってないのに謝るなんて何を考えているのだろうか。
「分かんないのに謝るの?」
「だって!そうじゃなきゃ洋子ちゃんは許してくれないんでしょ!?また…またあの頃みたいに一緒に仲良くしようよぉ…。」
私をいじめている人と付き合ってる子と仲良くしたくない。そう言ってしまえれば簡単ではあるが、もともと親友だった子だ。もしかしたら私の思いを伝えれば納得してくれるかもしれない。頭に昇っていた血が泣いている杏子を見ると段々と落ち着いてきて、そんな考えが浮かぶ。
そうだ、付き合ってるのは本当だったけれど、なんで付き合い始めたのかは聞いていない。楽しそうに下校していた時だって内心ではどう思っていたのかは分からない。
「杏子は、なんで橋本君と付き合ったの…。私、橋本君に嫌がらせされてるって、言ったよね?」
「えっ。それは…。」
いきなりの私からの質問に杏子は目を白黒とさせながら答える。
「橋本君が、好きだったから?」
「私、杏子に橋本君たちから嫌がらせされてるって言ったよね?」
「言ってたけど…そんなに嫌がってないと思ってた。」
「は?」
そんなに嫌がってないと思ってた、だって?
「洋子ちゃん、木嶋君とからかわれてる時嬉しいんだと思ってたし、毎回毎回今日はこんなことされたって言うのも橋本君たちに構われてる自慢かと思ってた。だから、段々私の方が橋本君のこと好きなのにって思って、思い切って告白しちゃった!」
あの悩み相談も彼女にとっては私これだけ構われてるアピールにしか映らなかったようだ。私が感謝と友情を感じている間、彼女は嫉妬を感じていたのだ。
なんということだろう。勘違いどころではない。根本的に考え方がズレていたのだ。
「でも、橋本君ってモテるでしょ?確かに怖いところもあるけど、またそこが良いっていう子もいるし…。私なんかが告白しても振られちゃうだろうなぁって思ってたけど、なんとOKをもらったの!あ、もしかして洋子ちゃんが怒ってるのって、私が付き合ったの内緒にしてたから?」
…頭が痛くなってきた。ちょっと抜けている子だとは思っていたが、まさかここまでとは…。
「私は、本当に橋本君たちにからかわれるのが嫌だったの。だから、杏子が橋本君と付き合った時裏切られたと思ったの。」
ここはもうはっきりと言うしかない。
「えっ、そうだったの?なんで?木嶋君もまあまあカッコイイし、付き合っちゃえば良いじゃん?それにいじめって言ったってただ無視とか陰口叩かれてるだけでしょ?それぐらい平気じゃない?」
…開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのかもしれない…。
“ 無視とか陰口叩かれてるだけ”杏子にとってはたったそれだけの事で悩んでる私は、ひどく滑稽だったに違いない。
「…じゃあ、杏子も無視とか陰口叩かれてみたら…いいと思うよ…。」
「えっ!なーんでそんな酷いこと言うのさ!そんなの私は耐えられない!洋子ちゃんは大丈夫だと思うけど…。」
「私だって大丈夫じゃない!」
何が大丈夫なのか、なんで私なら大丈夫なのか意味が分からない。平気なんじゃない、我慢をして耐えているだけなのだ。私だって、休み時間には以前と同じようにみんなと話をして楽しく過ごしたいのだ。
話し合えば話し合うほど私たちの間の溝は深まって、結局仲直りすることは出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます