洋子の話①
先日のいじめ事件が起こってから、クラスの雰囲気は前にも増してギスギスするようになった。表面上はみんななんでもない様な感じではあるが、男子と女子の間では些細な事で喧嘩が起こるようになったし、以前よりも4人の機嫌を損ねないようにしようという雰囲気が感じられた。
ある日、学校に優也君が来なくなった。
みんなはちらちらと橋本君たちの方を見たが、本人たちは何食わぬ顔で「腹でも壊したんじゃねーの!?」と騒いでいた。
きっとあの4人がまた何かしたんだというのは気づいたが、それを言う人は私も含めいなかった。前回のいじめ事件の時には、ぶつかるところや物を隠すところを多くの人が見ていたので、ハッキリと言うことが出来たのだが、今回は見ていないのだ。見ていないのに4人がいじめたと言い張ることは出来ない。
それに、1日休むことなんて優也君以外でも普通にある事だ。いじめ事件があったから、もしかしたら考えすぎているのかもしれない。明日になったらまた来るかもしれない。
2日経っても3日経っても優也君は来ず、そのまま冬休みに突入した。新年が明けて3学期になっても優也君は来なかった。ここまでくるともうみんな気づいていた。
優也君は、不登校になったのだ。
先生だって気づいているのに違いないのに、何も言わなかった。少し幻滅した。
優也君が来なくなったということは、いじめの標的がいなくなったということ。
いじめの標的がいなくなったということは、新しく標的が出来るということ。
みんな自分がターゲットにならないよう不自然なほどに4人を持ち上げた。やれ頭が良いだの、やれ足が速いだの、事ある毎に4人を誉め、敬った。4人も悪い気はしないのか、更に調子に乗ってやりたい放題やるようになった。気に入らないことがあると近くにいる子の肩をグーで殴る、物を持たせる、奪う。
優也君が不登校になることでいじめっ子としての箔がつき、みんなに恐怖を煽ったように思う。お前も逆らったらこうなるんだぞ、と。
ターゲットはその時々で変わり、1人に絞られることは無かったように思う。なんでその子たちがターゲットになったのかは分からなかった。4人は、気まぐれだったから。
4人がやれといったらやる。そんな空気が出来上がっていたこのクラスにも参加をしない人がいた。私と木嶋君である。
私はそれが正しくないことだと分かっていたので、何か言われても言い返さなかったし、ターゲットに何か言えと言われても何もしなかった。
木嶋君が参加しなかったのは、単に通知表に響くのが嫌だっただけだと思う。
理由は違うにしろ、私と木嶋君が『 いじり』に参加しなかったのは事実である。
そうなると、面白くない彼らは口々に私たちがデキていると噂をするまでになった。
学級委員で一緒に仕事をする時に囃し立てられることはしょっちゅうで、黒板に相合傘を書かれたり、『 木嶋君だいすき♡洋子』とさも私が書いたような振りをした手紙を彼のランドセルに入れられたこともあった。
やることがしょうもないな…と思いながらも好きにさせていた。
だって、お互いみんなが面白がってやっているということは分かっていたから。変に言い返したり、ムキになると彼らは喜ぶのだ。なら、何もしなければいい。どうせあと1年も経てば中学生になるのだから。
そんなふうに、小学生にしては少々冷めていた私にも仲のいい友人はいた。私とは正反対の明るく、ちょっとおっちょこちょいで可愛い杏子という子だった。
私が『 いじられて』からは表立って仲良くすると杏子にも何かされるのではないかとの思いから少し距離を置いたのだが、元々は彼女が何か仕出かしてしまった時に私がサポートをするという感じで立ち回っていた。
杏子も私を頼りにしてくれて『 洋子ちゃん!洋子ちゃん!』とよく話しかけてくれた。
『 洋子ちゃんがいないと私はダメだよ〜。ねっ、ずっと親友だよ!』この言葉が彼女の口癖だった。
学校では話すことが出来ないので、私たちは一緒に通っている塾でよく話をした。私たちの住む学区から1番近い大手の塾ということで木嶋君も橋本君もいたけど、2人は難関中学受験クラス、私は中学受験クラス、杏子は公立中進学クラスとクラスがバラバラだったので会うことは無かった。
そこで、私は杏子に色々なことを話した。
木嶋君とは付き合っていないこと、毎回囃し立てられるのが嫌なこと…。どの話にも真剣に耳を傾けてくれ、『 大丈夫!私はちゃんと分かってるからね!』と笑顔で言う彼女に何度励まされたことか。
受験をして、合格をしたらみんなとは違う中学校に通える。そうしたら、こんなつまらない事で人を馬鹿にする人たちとは疎遠になれる。その一心で私は中学受験の勉強を頑張った。
しかし、杏子だけは別々の中学に行ってもずっと仲良しでいたくて、卒業後もどうやって会おうかを考えるほどだった。
杏子が、橋本君と付き合っているという話を聞くまでは。
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