昔の話③
その後、ぼくらのクラスでは授業を変更して話し合いが行われていた。
担任の先生と喧嘩を止めてくれた先生、教頭先生まで来て教室内は異様な雰囲気に包まれていた。
まず、なんで喧嘩になったのか理由を聞かれた。でも、誰もいじめていたということを言えるはずもなく、黙っていた。
その時、1人の女子が手を挙げた。
「橋本君と横山君、高橋君と田中君達がいつも木嶋君にわざとぶつかったり、無視したりしてました。今日は木嶋君が何か言い返したらいきなり橋本君が木嶋君を殴りました。」
真面目な風貌から“ 委員長”というあだ名がついている洋子だった。
「木嶋君だけじゃないです。柴田君も同じことされてるのを見ました。」
洋子の発言をきっかけに女子たちが一斉に発言する。それに負けじと“ いじめっ子”のレッテルを貼られそうな横山や高橋、田中は言い返す。
「そんなことしてねぇし!!」
「嘘だよ!いっつも物隠したりとかしてたじゃん!!」
「そうよそうよ!陰でこそこそやってるのみんな見てるんだから!」
「じゃあ俺らがやったっていう証拠はあるんですかー!?無いんだろ!?」
「見た人はいっぱいいるんだから!」
「まだ嘘つくの?なっさけな!男らしくない!!」
「うるせーな黙ってろよブスが!!」
両者ともヒートアップし収集がつかなくなり、先生の『 静かにしなさい!!』の一声で教室は嘘のように静かになった。
結局、話し合いは当事者に話を聞くということでまとまった。
先生もいじめを知ることとなった。これで、前のように学校生活を送ることが出来る。そうホッとしたのを覚えている。
でも、悪夢はそこからだった。
いじめの主犯格だとされた涼や3人は家でものすごく怒られたそうだ。3人の親は家まで来て謝られた。涼の家からは何も無かったのだが、近くに住んでいる人がテストでいつも勝てない子をいじめていたことを激しく叱る声が聞こえてきたことを話していたので、多分合っている。
1週間ほど木嶋君も涼も学校を休んだ。その間3人は前の威勢が嘘のように大人しくなっていた。
久しぶりに全員が揃った日、放課後ぼくは4人から呼び出された。あんなことがあってもう流石に危害を加えることは無いだろうと高を括って行ったのだが、それが間違いだった。
「お前、先生に聞かれた時に答えただろ。」
久しぶりに対峙する涼の目はギラギラと血走っていた。
「そりゃ、だって、本当のことだし…。」
「ふざけんなよ!お前のせいで親からは叱られるし、先生からも怒られるしで最悪だわ!!」
自分のせいでは?とは思ったけれど、あまりの気迫にそんなことは言えそうになかった。
「おい、何とか言えよ!」
肩パンを受け、思わずよろける。
「いっ…。」
4人からそれぞれ殴られ、目に涙が溜まる。
「だっせぇ!お前泣いてんのかよ!!」
「おっ?おっ?泣くんでちゅか?泣くんでちゅか〜??」
「お前優也じゃなくて弱虫の弱也だな!」
口々に囃し立てられ唇を噛み締める。
「お前ら顔や足はやめろよ。また親や先生にバレるからな。やるなら腹とかにしろよ。」
その一言で一斉に攻撃が始まった。4対1でぼくにはどうすることも出来なかった…。
「このこと、言ったらただじゃおかねぇからな。」
1番の暴力はこの日だけだったけど、あくる日もあくる日もみんなが見ていないところで隠れて4人はぶつかったり、足を踏んだり突き飛ばしたりするようになった。
学校に行けば痛いことが待っている。そう思うと足は進まなかったが、どこかでサボろうものなら知り合いに声をかけられ『 どうしたの?』なんて聞かれてしまう。
謝罪を受けた日には自分の子供がまさかそんな目に遭っているとは知らなかった母親が号泣をした。もう、あんな思いはさせたくないし、あれで終わったと思っているから安心させてあげたかった。
我慢をして通い続けていたが、自分の筆箱の中身が燃えるゴミに捨てられているのを見つけて糸がプツリと切れてしまった。
もう少しで冬休み、給食で出ていたヨーグルトの空の容器が詰まった燃えるゴミの袋の中、削りたての鉛筆と真新しい消しゴムがヨーグルトで汚れているのが見えた。
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