昔の話②

次のターゲットに選ばれたのはひょろりと背が高い木嶋と呼ばれる男子だった。

放課後に物を探すのが日課となったぼくがまだ帰っていないことに気づかず、教室に何人かで話しているのをたまたま聞いてしまった。

理由としてはいつもぼくをいじめるのに加わらないから、らしい。

確かに木嶋君からはぶつかられたことも無ければ嫌なことを言われたことも無い。その時、ぼくの心の中には『 木嶋君は味方だったんだ。』という思いが広がった。

教室に残っていた人が帰った後に、急いで木嶋君のところへ向かった。


急いで向かった木嶋君家で木嶋君はいたけど、これからどこかに出かける風だった。

「き、木嶋君!気をつけて、さっき橋本君達が今度は君を標的にするって!」

息も切れ切れに伝えたが、木嶋君の反応は思っていたものとは違っていた。


「だから?」



だ か ら ?



えっ?ここはありがとうとか、お前も大変だったなとかそういうことを言うんじゃないの?

予想と大きく違う返答に目を白黒とさせながらいると

「どうせあいつら俺が一緒になってやらないとかそんなことで標的にするとか言ってんだろ。橋本はテストの点で俺に勝てたことないからそれもあるんだろ。本当に馬鹿な奴ら。」

木嶋君は冷たくそう言い放った。


「で、言いたいことはそれだけ?俺これから塾があるんだよね。忙しいからもういい?」

「あっ、うん…ごめん…。」


あまりの冷たさに二の句が告げなくなり、そのまま玄関のドアは閉められてしまった。


帰ってからそれとなく木嶋君が塾に通っていることを知っているか聞くと、なんでも県外の難関中学に進学するために小4のときから塾に通っていたらしい。その流れで涼も通っているのを知っているか聞くと、同じ塾に通っているのを教えてくれた。

涼の両親は教育熱心で、教育施設が揃っている都会から仕事の都合でこちらに連れてこなきゃいけないことに落胆を感じているようだった。

知らなかった2人のことを知ったが、だからといってぼくは特に何もできることはなかった。木嶋君本人も気にしたようではなかったのでまぁ大丈夫だろうと思い、気にしないことにした。


次の日から木嶋君は本当に標的になった。僕に対して行っていたことを木嶋君にしていたのだ。わざとぶつかったり、物を隠したりしたのだが、木嶋君相手だとどれも上手くいかなかった。ぶつかっても素知らぬ顔で通り過ぎるし、教科書を隠しても塾で習っているからかスラスラと答えていく。

ぼくには上手くいったことが木嶋君だと上手くいかない。同じことを1週間くらい繰り返し、痺れを切らした涼が遂に木嶋君を殴ったのだ。

きっかけは多分、木嶋君の一言だ。


その日も同じように木嶋君にわざとぶつかりに行ったのだが、違ったのは涼本人がぶつかりに行ったことだ。

木嶋君はすんでのところで涼を避け、こう言ったのだ。

「いつもいつも同じことばっかりやってつまんねぇな。そんなんだからテストでも俺に勝てねぇんだよ。」

その言葉を聞いた瞬間、涼は目を見開き木嶋君に殴りかかった。

目の前で始まった喧嘩に女子は悲鳴をあげ、男子は急いで先生を呼びに行った。


「2人とも!!止めろ!!!」

騒ぎを聞き付けた男の先生が2人を止めた時には、机と椅子が散乱し、木嶋君は鼻血を出してメガネも壊れて飛び散るというなんとも悲惨な光景になっていた。

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