昔の話①


緊張する参観日が終わり、夏休みを過ごし、二学期が新たに始まった。

その時にあいつはやってきた。


「今日からこの教室に新しいお友達がやって来ます。名前は橋本涼君です。」

「東京から来ました、橋本涼です。よろしくお願いします。」


都会からやってきたそいつは転校生が珍しい田舎者のぼくたちにはとても新鮮に感じられた。休み時間にはみんなに囲まれ質問攻めにあっていた、が、節々でこちらを見下すような発言が出てきた。


「涼君って東京から来たんでしょ?元のところってどんな感じだった?」

「こんな何も無いところと違って、テレビとかでも紹介されるような店が沢山あったよ。人だってめっちゃいたし。」

「芸能人とかもいるの!?」

「そりゃあね。あ、みんなは見たことないかもしれないけど、俺らのところではいるのが普通だから見かけたっていちいち騒がないよ。」

偉そうな態度と物言いにぼくらは戸惑っていた。小さな学校だから親も当然みんな知り合いで、何かトラブルを起こそうものなら自分の親はおろか、クラスみんなの親が知るところとなる。だからなるべく友人関係ではいざこざを起こさないようにするのが当たり前だった。

今までに出会ったことの無い攻撃的な人間に女子は遠巻きに見るだけとなったが、男子は無視することも出来ず相手をしていた。


「おい、肩パンやろーぜ。」

休憩時間になると肩パンという名の遊びが始まる。それが男子は嫌でしょうがなかった。

肩パンはジャンケンをして勝った方が負けた相手の肩をパンチするというものだったのだか、涼を相手にした際には本気でやると『 痛えんだよ!』と肩を思いっきり殴られ、かといって遠慮してやると『 お前これが本気かよ!?よっわ!だっせぇ!!』とみんなの前で馬鹿にされる、どちらをとってもこちら側は全く楽しくない遊びだった。


ぼくも周りのみんなと同じように付かず離れずで涼と接していたのだが、ある日を境に段々と涼ではなくぼくから友人が離れていくようになった。

お調子者だったぼくがいつものようにおちゃらけても何も反応をしてくれなくなったのが始めで、体育の時にはいつも余るようになったし、物も隠されるようになった。


涼がリーダーとなってそれを行っているのは薄々分かっていた。余るぼくを見ていつもニヤニヤ笑っていたし、無くなった物を探している時に『 消しゴムだけとかショボイな、もっとランドセルとかでかいもん隠せよ。』と友人に言っているのを見つけたこともあるからだ。


初めは親にバレるんじゃないかとビクビクしながらやっていた友人たちも、ぼくが言わない、バレないと分かると自主的に物を隠したりすれ違いざまにぶつかったりするようになった。

親にはなぜだか…言えなかった。直接的に暴力を奮われるわけではなかったし、1人にも慣れてしまえば特に何も思わなかったからだ。

無視や物を隠すという行為に慣れてきてぼくが何も反応を返さなくなった時、涼は飽きてきたみたいで、標的をぼくから他の男子に変えようとしていた。


他の奴らもその空気を感じとったのか『 今日は何隠す?』とか『 今度は何する?』と言って涼の機嫌を取って自分に矛先が向かないように必死だった。

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