ぼくの話⑥

人間とは単純なもので。

両親から見放されていないと分かった時から、僕の中には新たなやる気の芽が出てきていた。


あの時の話だと、説得力というものが足りていなかったように思う。だから、何度も説得して本気だということを分かってもらえれば「良いよ。」と一言言ってもらえるのではないのだろうか。


僕の考えたシナリオではこうだ。

『 (何か凄く良いこと。)(説得力のある話)』

『 まぁ、そこまで考えていたのね。前の時にはそんなこと一言も言わないから、本気じゃないのかと思ってたわ。』

『 そんなことないよ。(将来の展望)』

『 しっかりこれからの事も考えてるじゃない。これなら私は安心して通わせられるわ。お父さんもそう思わない?』

『 そうだな。いつの間にかお前も立派になっていたんだな。』


…バッチリだ。


自分で考えた完璧なシナリオに口元が緩んでしまう。要はなんで行きたいのかをしっかりと説明出来れば良いのだ。卒業まで通えると安心させれれば良いのだ。

早速僕は2人を納得させるための理由を考えた。

「行きたい。」だけでは何故なのかが分からないし、説得力に欠ける。

『 高校に行って、青春を味わいたい。』

…いや、駄目だろう。まず青春ってなんだ青春って。これだとまるで高校に遊びに行くみたいではないか。それに、「高校に通うことだけが青春じゃないぞ。」なんて言われてしまったらどうするのか。そんな事を言われてしまえば、一気に説得はは難しくなる。


高校に行かなければ出来ないようなこと、高校でしか出来ないことを改めて考えた。


『 大学で学びたいんだ。』

…これもダメだ。確かに大学に行くためには高校を出なければいけないけれど、嘘も嘘、大嘘だ。大学で学びたいものなんかないし、そもそも小学5年生までの知識しかない自分が大学受験を突破できるとは到底思えなかった。

テレビに出ている現役大学生の人達は難しいクイズもスラスラと答えていた。大学に入るためにはあれほどの頭がないとダメなのだと分かっている。

ちなみに、その番組は出てくるクイズが難しすぎて全然分からないし、面白くなかったから10分ほど見たら別番組に変えた。


他、他、他の理由…。

全くと言っていいほど思いつかない。このままだと母親が言っていたように働きに出なくてはいけなくなってしまう。

働きに出たってどうせ僕のように中卒で引きこもり歴が長い奴はろくな仕事に就けない。

大体、中卒でも雇ってくれる職場なんてあるのか?


…!!

これだ!


『 高卒でないと就職に不利だから。』

これだ、これだ、これだぁ!

この理由なら絶対高校に通わなければいけないし、3年間通いきれると納得させられる!


これ以上ないほどのベストな理由に、僕は内心ガッツポーズを決めた。

2人が揃ったときにまた話をしよう。この理由を伝えた時、2人はどんな反応をするのだろうか、また、驚くかもしれない。


「優也、ご飯よ。」

ドアを優しくノックする音と母親のいつものセリフが聞こえる。やっぱり、昨日は僕が眠っていて声に気づかなかっただけみたいだ。


階段を下りる音を聞いて、ドアを開ける。今日はミートスパゲッティか。


パスタを啜りながらも頭の中は話のことでいっぱいだった。

いつも観ているバラエティ番組も今日は特別面白く感じる。


待っててね、2人とも。成長した僕を見せるから。


勝負は土曜。

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