第6話 夢の新婚旅行(by実璃)

 関東圏内のテーマパークに、一泊二日の新婚旅行にやってきた。海と冒険がテーマなだけあって、園内には水を使ったアトラクションが多い。

 家族連れも多いけど、カップルも多くて、なんだかデートって感じだ。


 思えば、菜瑠とこういう場所に来るのは初めてだった。


 それはそうだ。私と菜瑠は長らくただの友達で、付き合うということになったのさえ、つい数ヶ月前のことなのだから。


 しかも、付き合ってすぐに菜瑠の妊娠が発覚して、つわりなんかも始まったから、デートどころではなかったし。でもとりあえず、今日は調子が良さそうでよかった。


 妊娠中の遊びというのは、やはり不安がつきものなわけだけど、このテーマパークは、子供向けの設備が充実していたり、障害者の方や妊婦さんにも優しいつくりになっている。


 たとえば、入り口近くの施設で、母子手帳を見せると、カードがもらえて、それを使うとアトラクションの待ち時間の間、立ちっぱなしで行列に並ばなくてもいいような配慮がなされていたりもする。


「実璃ー、見てみて! 母子手帳ケースがあるよ!」

「あ、ほんとだ! かわいいね」


 菜瑠がうれしそうで、本当によかった。キャラクターの絵柄の入った母子手帳ケースを買った。


 パークの中は広いけど、お手洗いの場所が多いのもありがたいポイントだ。妊娠中はトイレが近くなることが多いから、私もパーク内の地図を頭に入れておいて、余裕を持ってスケジュールを立てた。


 乗れないアトラクションもそれなりにあるけれど、その代わり私達は、散歩するようにゆっくりとパーク内を散策できた。こういうの、高校生とか大学生のときには考えられなかったような、過ごし方だった。


 ゆったりと進む船や、電車型のアトラクションに乗ったり、事前に予約しておいたレストランの席に座って、ショーをゆったり眺めたりした。


 日が暮れてきてからは、キラキラの夜景を楽しむ。身体が冷えないように、上着をかけてやる。


「実璃……ありがとうね」


 突然、真面目な顔をして、照れながら、菜瑠は言う。普段は見せない、そういう顔も、この夢の世界では出せてしまうから、不思議なものだ。


 少しずつお腹の目立ってきた菜瑠は、だんだんと『お母さん』らしく、今までみたことのないような、優しい表情になっていると感じる。


 それはすごく愛しくて、私はだまってまた、指を絡める。


「ベビちゃん産まれたらさ、今度は三人で来ようね」


 ちょっと先に、もう見え始めている、幸せな未来を想像して。私達はお互いに笑い合ったのだった。

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