第5話 新婚旅行みたいな(by菜瑠)

 妊娠20週、6ヶ月に突入。

出産サポートのためのアプリを利用しているから、週数が数えやすい。これならズボラな私でも今何週かすぐわかるから、技術の進歩ってありがたい。


 最近、ベビちゃんの性別がわかった。

 女の子らしい。


 男の子の場合はパッと見てすぐわかるらしいけど、女の子の場合は、まだその、色々見えてないだけとかあるらしいから、難しいらしいんだけど。


 でも、とりあえずほぼほぼ女の子で間違いないらしい。


 *


 今日の体調はばっちり!

 梅雨がようやく開けたように思える、七月。空も晴れて、るんるん気分の今日、私達は新婚旅行に行くのだ。


 『マタ旅』って言うと、あんまりよく思わない人もいるかもだけど、実璃もその辺すごく心配していて。

 何かあってはいけないから、だから私達は、とっても近場の、関東圏内の大きなテーマパークに一泊二日で行くことにして、それを新婚旅行代わりとすることにしたのだ。


「菜瑠、おはよう。体調どう?」

「実璃おはよう! もー、すごい元気! 最高!」

「よかった。でも、あんまり無理しないでよ」

「大丈夫! 実璃がいるからなんとかなるでしょー」

「……かわいいやつめ」


 実璃に、せっかくセットした髪をわしゃわしゃされる。朝からいちゃつく。

 ……だめだだめだ、こういうのは夜までとっておかないと。


 電車の時間が来てしまうので、二人、急いで身支度を済ませ、家を出る。


 テーマパークは意外と近い。私達の住む武蔵野市からは、中央線に乗ってから東京駅乗り換えで、合わせて一時間も経たずにすぐに着く。


 今日は人がまばらだ。梅雨が開けるかどうかという時期の、雨が降るかどうか怪しい日の平日だから、ちょうどよかったのかもしれない。

 ちなみに平日なので、実璃には有給休暇を取っていただいた。感謝。


 歩くのが面倒なので、駅からはモノレールでパークまで移動。今日は海と冒険がテーマのほう。お酒が飲める場所があるらしいけど、私は飲めない。残念。


 パークに入ってみて、気がついた。


「今日、七夕なんだね」


 入り口に入ってすぐの、世界観にいまいち合わなそうな七夕飾りを指して、実璃が言う。

願い事を書いてね、とばかりに、短冊が置いてある。これは書くしかない。


「実璃は、何書くのー?」

「そうだな、ローンが無事に返せますように、かなー」

「なにそれー、他にあるでしょ、もっと大事なこと」

「いや、ローン返済、大事だよ」

 

 私達は笑い合う。基本的に私は、いちゃつくのに人目なんか気にしないけど、実璃は恥ずかしがり屋さんなので、こういうところでくらいしかイチャイチャできない。

 だからこういう、馬鹿みたいなやりとりが楽しい。

 

 マーカーでハートマークをたくさん描いた短冊を完成させる。

 やっぱり、願い事といえば、これでしょ。


『ベビちゃんが、元気に生まれてきますように』


 よし。さすが私。さすがママ。

 ローン返済とかそういうこと言ってるやつとは違うのだ。


 そう思いながら、隣で書いている実璃の短冊を覗き込んだ。

 こう書いてあった。


『菜瑠とベビちゃんと、おばあちゃんになるまで元気で仲良く暮らせますように』


 願い事が壮大だった。


 恥ずかしくなってしまったから、とりあえず実璃の唇を奪っておいた。


 新婚旅行が、はじまった。






(新婚旅行編 つづきます)


 




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