第84話 格の違い
「――――
メリッサの魔法から俺達三人全員が倒れるまでの過程は一瞬だった。
な……何だ……これ……は……。
い。
い。
いち……。
一撃……!?
たったの一撃でここまで!!??
これまでの魔王軍四天王、勇者シリーズとは比較にならない攻撃に俺は今誰と戦っているのか瞬時に理解した。
これは……。勝てない……。
「やっぱり良いわね。現実から目を背けず、逃げず、ひたむきな少年が
「ふざ……ける……な!」
俺は床に指を付くことでアリシアに「ポイント・エージェンタ」を使用し、すぐさま彼女の治療をする。回復したアリシアと同時に、ふらつきながらもむくりと立ち上がる俺とレオン。
「あら、彼女。体力が全回復したのね♪」
嬉しそうに杖を一振りする魔王メリッサ。
「――――
何だっ……!
あれはっ……!?
「ファイアーボール」の大きさを何倍も超える巨大な火炎が彼女に襲い掛かる。
雷魔法に続く魔王メリッサの放つ最上位の火属性魔法だ。
しかし、アリシアは逃げることなく正面からメリッサの魔法に挑んでいた。
「駄目だ! アリシアッッ!」
「いけます! アルス様ッ!」
どうして……アリシア?
そう思った俺だが、彼女の二本の不可視な剣からは強烈な光が放たれる。
「――――真・絶対両断――――!」
進化した「絶対両断」かっ!
くっ……と声を漏らすアリシアだったが、剣帝モードの彼女は何とかメリッサの魔法を両断することに成功していた。
凄いぞアリシアッ!
いや……。
だけどっ……!
なら、何故あの時の黒い雷魔法はアリシアにも致命傷を与えたんだ?
ふと、その思考に辿り着いた瞬間、俺は顔を青ざめさせる。
ま……。
まさか……。
「ふふ。少し強めに行くわよ♡」
クスッと微笑みながら再度杖を振るメリッサ。
「――――
こ……。
これは……。
現れた魔法陣の数に俺は言葉を失う。
メリッサは5門同時に先程の火属性魔法を発動したからだ。
天災と見まがうような理不尽な猛攻。
それらは剣帝モードのアリシアでも防ぐことはできず、彼女は全身を大やけど状態で壁に打ち付けられていた。
「ぐ……っ!?」
「アリシアッッ!?」
飛ばされたアリシアにすぐさま「ポイント・エージェンタ」を使用する俺。
そんな俺達を哀れだと思ったのか、メリッサは攻撃を中断し、声を立てる。
「たかが5門で……。人間ってやっぱりあっけないものね。すぐこうなるもの……」
今のが全力じゃないのかっ!?
俺は「星の欠片」を所持しているにもかかわらず、一瞬ゾクリと身震いしていた。
アリシアに「ポイント・エージェンタ」を発動する俺だが、そんな状態をどこか静観するように眺めるメリッサ。
「……ッ!」
畜生ッ!
メリッサはニタリ顔で杖を振り上げていることから、恐らくアリシアが回復した瞬間、また彼女に魔法を発動するのだろう。
あまりにも狂気的な彼女の性格に思わず俺は床を殴りつけたくなる衝動に駆られたが、その行動には至らなかった。
レオンがメリッサに魔法を放つ余裕を与えまいと、体を引きずりながら彼女との距離を詰めていたからだ。
ありがとう。レオン。
コイツに魔法を発動させる猶予を与えては駄目だ。
しかし……。
そんな俺達の行動の何が面白かったのか、メリッサはより一層喜色を浮かべる。
「魔法を封じれば私に殺されない……。果たして本当にそうかしら?」
「なら、試してやる」
剣と剣が交差し、レオンとメリッサの
アリシアの治療を終え、レオンに加勢するかたちで鉛の様に重い体を動かす俺。
すると、レオンは立ち上がろうとしていたアリシアに向かって大声で叫ぶ。
「オイ剣聖! こんなところでくたばってんじゃねェだろうなッ!」
「誰がですかっ!」
勇猛果敢に挑むアリシアに俺は咄嗟に声をかける。
アリシアは俺が回復する度に致命傷を負わされ、心配で堪らなかったからだ。
「アリシア大丈夫っ!」
「お気遣いありがとうございますアルス様! ですが、私は大丈夫ですっ!」
俺とアリシアがメリッサと距離を縮めた瞬間、レオンの刀身に強烈な闇が纏う。
「――――デススラッシュ――――!」
見るのは初めてだが、レオンの必殺技だろう。
非常に高威力の闇剣を渾身の力で振り下ろすレオン。
しかし……。
ギャキィィン!とけたたましい音が響き、レオンはダメージ与えるどころか、メリッサの剣に吹き飛ばされていたのだ。
「ぐッッ……!?」
な、何が起こったんだ!?
状況を理解するよりも前に、魔王に刃を衝突させる俺とアリシア。
だが、続けざまに俺と彼女はメリッサから後退させられていた。
重いっ……!
重騎士……?
いや、斧の勇者に匹敵する一撃を放ってきたぞっ!?
魔法より剣の方が不得手と思っていたのは俺達の勝手な認識だったのかッッ!?
「ふふ。そもそも、どんな装備だろうと貴方達に私を討てるわけがないでしょ。私は魔王よ。勘違いしないで欲しいわ」
彼女の忠告が耳に入らなかったかのようになおも挑み続ける俺達。
1秒1秒時間は経過するが、次第に俺とレオンは剣を握る力が入らなくなり、技の正確さも失っていく。
「クソッ! 腕がイカレそうだ!」
誰にともなく吐き捨てるレオン。
そもそも俺達はさっきの「斧」の勇者との死闘が重過ぎたのだ。
それだけじゃない……。
魔王メリッサは本来の力を取り戻したのか攻撃力はどんどん増し、素早さ面においても「最後の試練」で戦ったアリシアと並ぶ動きに到達していた。
「あら、どうしたの? 英雄アルスくんと勇者レオン。攻めが甘くなってきているわよ♡」
「……!」
「ッ……」
俺達二人は返す言葉が見つからず、ただただ腕を上下左右に動かすことしか出来ない。
駄目だ……。
状況が悪すぎる。
意識が飛びそうだ。
そんな中、突然レオンは俺の名前を叫び出す。
「アルスッ! あれだ!」
「ああっ……!」
全員の体が傷つき過ぎている状況。
俺はもうこの一撃に賭けるしかない。
俺はメリッサから大きく飛びすさった瞬間、レオンはアリシアに指示する。
「剣聖、離れろ!」
「はいッ!」
俺の正面には魔王メリッサしかいない状態。
俺はすぐさま「ウェポンボックス」から「魔槍ルーン」を取り出し、「ポイント・エージェンタ(真)」を発動する。
「ふふ。一発逆転を狙うのね♡」
「ああ、そうだっ!」
どうやら切り札をお見通しらしいが、槍を構えた俺は躊躇なくスキルを発動する。
「――――グングニル――――!」
一直線にメリッサを襲う、投擲された「魔槍ルーン」。
起死回生の一撃。
この想いを乗せた槍で……。
あの魔王を貫いてくれッッ!!
しかし愉快そうな笑みを浮かべたメリッサは返す刀でスキルを発動する。
「――――滅星――――」
「なっ……!?」
刹那、メリッサの装備する魔剣は不吉な闇を纏った破壊の剣と化していた。
残像を残す速度で彼女が二本の剣を振り下ろした瞬間、ズンッッ!と沈む床。
そして……。
「魔槍ルーン」はカランと床に転がっていた。
俺の必殺技を止めたメリッサだが、それだけではない。
槍の勇者からもらった俺の大切な「魔槍ルーン」は元々青い光を放っていたが、メリッサの発動したスキルが原因か、槍の先端からは完全に光を失っていたのだ。
「魔槍ルーン」は武器破壊による効果を一切受けつけないが……。
今あの槍は本来の攻撃力が生きているのかっ!?
今まで一度も遭遇したことのない状況に、俺の切り札も軽々と殺した魔王メリッサ。
俺は失意のどん底に突き落とされた表情を浮かべていると、メリッサは不敵な笑みを浮かべる。
「ふふっ。やっと良い顔になった。だけどアルス……。貴方にはまだまだ絶望してもらうわ♡」
「――――
そう告げると、彼女の手のひらには神獣石程度の大きさの一点の曇りも無い闇玉が現れていた。
あれは……。
俺が今まで見た中で一番の
「終わらせてあげるわ。私の切り札でね♡」
「切り札…………だと!?」
魔王メリッサの放つ魔法の切り札。
それがおぞましい威力を発揮することはこの世界の人類なら考えなくても分かる。
「この魔法は魔族全てを犠牲にすることで発動できる両断不可能の魔法。対象一人に
「な、なんだと……!?」
対象を必ず殺すことが出来る魔法……!?
そんな……。
そんな魔法が放たれたりしたら、ここにいる三人のうち1人が……。
「さてと……私が殺すのはど、れ、に、し、よ、う、か、な♡」
喜色満面で周囲を見回すメリッサ。
彼女は感情が絶頂に達しているのか、今までで一番狂った笑みを浮かべていた。
そして……。
とうとう相手が決まったのか、彼女は陶酔感に浸りながら宣言する。
「やっぱり貴方でなくちゃ♡」
遂に放たれるメリッサの切り札。
彼女の狙いが分かった瞬間、俺は人生で一番の叫びを上げていた。
「アリシアッッ!」
ま……。
まずい……。
アリシアだけは……。
何があっても絶対に守る!
「見せて頂戴っ! 与えられた過酷な運命から何を見せてくれるかっ!」
魔王メリッサの言葉はもう俺には全く届かない。
アリシアに向けられた最凶最悪の一撃に死の運命。
俺は何が何でも彼女を守るため、アリシアの前に出ていた。
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