第83話 最後の戦い

「……っ! ここはっ!?」


 斧の勇者を倒した俺達だが、直後また強制転移されていた。

 全身を包む光と浮遊感が無くなると、聞き慣れた彼女の声が聞こえる。


「アルス様!」


 名前を呼ばれ即座に振り返ると、アリシアの姿に俺は安堵する。


 が、彼女は戦闘でかなり苦戦したのか、随分怪我をしていた。

 俺はすぐさま彼女に「ポイント・エージェンタ」を発動する。


「アリシア大丈夫かい!」


「はい! 弓の勇者を倒したのですが、気が付けばここに……」


 どうやら無事アリシア達は弓の勇者を倒したらしい。


 つまり……勇者シリーズは全員討たれたということだ。


「また転移されたのか……」


 辺りを見回すレオンに、俺とアリシアも転移先を確認する。


 恐らくここは「魔王の城」最上階だろう。

 周囲は円形の壁で囲まれているが、夜空の星を容易に確認できるほど空が近いのだ。


 そして……。

 俺はここにいない残りのパーティメンバーの存在が気になった。


「他のみんなはっ!?」


「恐らく大丈夫だろう。斧の勇者を倒した直後、空間が狭くなり、扉が現れていた。直ぐにメイは追い付く」


「ネネも後から合流すると思います!」


 みんなの無事に安心する俺。


 しかし、忘れてはいけないのは俺達三人をここに呼び出した張本人だ。

 俺達はしばらくここで警戒を強めながら「あの人物」を待っていると、不意に正面からズズズと闇のオーラを纏った一人の女性が現れる。


「ふふふ。初めまして、英雄アルスくん♡」


 対峙するのは初めてだが、彼女は人間と何ら変わらない姿をしていた。

 俺と同程度の身長に長い黒髪。

 しかし、彼女はこれから俺達と死合いをするにもかかわらず、黒と紺のロングドレスに身を包んでいる。


「お前が……魔王メリッサ……ッッ!」


 コイツを……。

 コイツを倒せば全てが終わるっ!


 ギリッと睨みつける俺に対し、不敵な笑みを浮かべる魔王メリッサ。


「あの勇者と和解し、あまつさえ『斧』の勇者も斃すとはね。アルス、貴方はやっぱり私が期待していた通りの逸材だわ♡」


「ふざけるなっ! 何が『期待』だ! お前がいなければ、どれだけの人が死ななかったか!」


「この私が素直に褒めているのにつれないことを言うのね。だいたい……。元はと言えば、私の行動は貴方が元凶よ」


「なんだとッッ!」


 意味が全く分からず、俺はメリッサに憤怒をぶつけるが、相変わらず彼女は不気味な笑みを浮かべていた。


「挑戦者がここまで来てくれるなら私は何だってするわ。それこそ死んだ勇者を生き返らせたりね」


「……ッ!」


 この魔王メリッサは……狂っている。

 コイツは槍の勇者の誇りを侮辱したのだ。

 そして、彼女さえいなければキリュウさんは……。


「ふふふ。多少の番狂わせはあったけど、大方は私の筋書き通り。さぁ見せて頂戴。私に最高の煌めきを♡」


 そう告げたメリッサは二本の全く同じ剣を召喚する。


「剣……?」


 魔王メリッサは魔法を得意としているんじゃないのか?


 二刀流の装備をした彼女だったが、ここにいた全員が疑問に思ったことをレオンはメリッサに問い詰める。


「この三人を相手にしてその武器で良いのか?」


「魔法だと強すぎて一瞬で殺してしまうもの。殺るなら剣が良いわ。武器破壊の攻撃を一切受け付けないこの『魔剣ダインスレイブ』でね♪」


 メリッサ……ッ!

 ならあの装備で俺達三人を相手にしたことを絶対に後悔させてやるっ!


 俺はスウッと息を吸って二人に叫ぶ。


「レオンッ! アリシア! 最後の戦いだっ! アイツを倒すよっっ!」


「ああ……!」


「はいっ!」


 俺の大声を皮切りに、メリッサに挑む俺達。


 始まるっ!

 これから最後の戦いが始まるんだッ!


「さーて。楽しいパーティといきましょ♡」


 メリッサは愛用の剣を振り上げ、激突する俺達の刃と彼女の刃。


 ギャキッ!ズギャッッ!とけたたましい音が魔王の城最上階で響き渡る。


 くっ……。この魔王は……!?

 俺達三人を同時に相手にして顔色一つ変えないのかッ!?


 一心不乱で剣を振り下ろす俺達に、涼しい顔で告げるメリッサ。


「ふふ。流石……。恐怖で私に怖気づかないのね」


 彼女の言葉に耳を傾けたくないが、確かにメリッサの言っていることは正しい。

 「星の欠片」のおかげで俺達は禍々しい彼女のオーラに恐怖を感じるどころか、気分が落ち着いているのだ。


 でもっっ……!


 だからこそ今一つ致命傷を与えられないのがもどかしいっ!


 魔王メリッサとの戦いに、俺はエルト砂漠で対峙した暗黒騎士を思い出していた。

 あの時同様、このメリッサにはどんなスピードでどんな角度から斬りこみを入れようと、殆ど彼女はその場から動かず、攻撃を容易に受け流してしまうのだ。


 正面から挑む俺とレオンに対し、死角からメリッサの首を殺ろうとするアリシア。


「はっっ!!」


「殺気が駄々漏れよ」


 ガキィィィンッッ!!


 真後ろからの攻撃を防いだッ!?

 アリシアには「絶対両断」のスキルがあるはずだぞっ!?

 

 いや、辛うじてだがダメージは入っているように見える。

 が、どうやらこのメリッサには彼女の攻撃をも上回る圧倒的な「硬さ」があるのだ。

 アリシアの針の穴を通すような剣撃をお見舞いしてもだ。


「ふふっ……。もっと! もっと私を愉しませなさいっ!」


 大きく回転するようにメリッサは二本の剣を横に振り、全員が強制的に彼女から距離を取らされる。


「ぐっっ……剣術でこれか!!」


「想像はしていましたが……まさかこれほどとは……」


「しかもコイツッ! 俺達との戦いを戯れか何かだと思っていやがるッ!」


 レオンの言うとおりだ。

 メリッサは俺達を前にしてあからさまな余裕を見せている。

 これは彼女が「魔法」という得意とする技をまだ隠し持っているからだろう。


 だが、何も秘策や奥の手があるのは彼女だけではない!


「アリシアッ! 予定通り経験値を付与するよっ!」


「はいっ!!」


 俺は床に手を付き、「ポイント・エージェンタ(真)」で経験値をありったけアリシアに付与する。


「うおおおおおおおぉっ!!」


====================================

ユニークスキル:【剣聖】Lv5


Lv1⇒大器晩成

アンロック条件:なし


Lv2⇒ドラゴンスラッシュ

アンロック条件:入手経験値が500000000を超える。


Lv3⇒絶対両断

アンロック条件:入手経験値が1000000000を超える。


Lv4⇒無刀流

アンロック条件:入手経験値が5000000000を超える。


Lv5⇒剣帝

アンロック条件:入手経験値が10000000000を超える。

====================================


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇ユニークスキル:剣帝

剣の道の終着点。剣帝モード突入時に限り、自身のステータス全てを2倍にし、進化したスキルを扱える。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「――――剣帝――――!!」


 すぐさま彼女はユニークスキルLv5を使用し、剣帝モードへ突入する。

 瞬間、全身が光に包まれ、これまでとは比較にならないオーラを放つアリシア。

 変身を終えた彼女は金髪から蒼髪へと変貌を遂げ、遂にユニークスキル【剣聖】の真価が発揮されようとしていた。


 凄いッ!

 これが【剣聖】最後のユニークスキル!


 【剣聖】は他人と比べ、獲得経験値が100倍という重い条件が課されている。

 だけど、その苦労を乗り越え、真の姿となった今の彼女ならメリッサにも通用するはずだ!


 剣帝モードに突入し、続けてスキルを発動するアリシア。


「――――二刀流・改――――!!」


 俺同様、二刀流になるアリシアだが、「無刀流」の効果は継続されており、見えない二本目の剣がメラリと観測される。


「ふふ……。やっぱりこの三人を選んだのは正解ね♡」


 ニタリと人外の笑みをこぼす魔王メリッサ。


 しかし、結果として彼女は徐々に険しい表情を浮かべていく。


 アリシアが剣帝モードに入ったことで、メリッサにはどんどんダメージが通るようになったからだ。

 アリシアが覚醒した以上、メリッサは彼女一人の相手をしなければならない。

 しかしそれは彼女に隙が生まれることを意味していた。


 俺とレオンは聖剣による猛攻撃をメリッサに放ち続ける。


「……ッ! まさかここまで強くなるとはね……」


 初めて焦りを見せた彼女だが、俺達にはまだ究極奥義がある。

 今が好機と捉えたのか、俺とアリシアに大声で指示するレオン。


「アルスッ! 剣聖! 『三位一体』を使う!」


「ああっ!」


「お願いします!」


 俺とアリシアは強い返事をし、レオンはすぐさま床に手を付き始める。


「――――三位一体――――!!」


 刹那、床からズズズッと俺とアリシアの前に床から巨大な剣が姿を現す。


 一人では持てない超巨大な大剣だけど……アリシアとならっ!!


「いくよアリシアっ!」


「はいっっ!!」


 これで決めるっ!!

 俺達に手を抜いたことをあの世で後悔しろっ!


「「はああああぁぁっっ―――!!」」


 俺と彼女は柄を握ることで更に輝きが増した巨剣をメリッサに向かってお見舞いする。


「「――――ツインブレード――――!!」」


 ザバンッッッ!と彼女に放った巨大な一撃は斧の勇者戦で発動した「三位一体」の威力を超えていた。


 メリッサは二本の「魔剣ダインスレイブ」を交差させ、ガードを試みるがあまりの剣圧に全身を吹き飛ばされる。


「ぐう……ッッ!!!???」


 会心の一撃は完全にメリッサを捕らえていたのだ。

 勝利を確信したアリシアは俺に向かって笑顔を見せる。


「凄いですアルス様っ!」


「あ……ああ……」


 終わった……のか?

 俺はレオンの様子を伺うが、喜びを浮かべるアリシアに対し、彼は渋い表情をしていた。


「いや……。まだだ……!」


「貴方は何を言って―――」


「「「!!!ッ――――」」」


 ズッ……と殺気を感じたと同時に俺達は手遅れを悟る。


 う……嘘だろっ……!?

 俺達の「三位一体」を食らってまだ生きているのか!?


「――――黒雷獄ジェノサイドボルト――――」 


 黒い雷で明滅する魔王の城最上階。

 一瞬、俺は杖を装備し、微笑みを浮かべていたメリッサの姿が見える。


 魔族の頂点に立つ彼女の魔法が遂に放たれていたのだ。

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