第77話 二人の関係の距離
レオンとメイのいた場所を後にした俺はアリシアのいる元へ歩を進める。
アルス村のある建物近くに移動すると、彼女は一人で静かに椅子に座っていた。
あまりにも美しい彼女の存在に、声をかけるか躊躇していると、アリシアは俺の存在に気づいたのか、すぐさま立ち上がる。
「アリシア……」
「アルス……様」
彼女とはレオンの件で一度衝突して以降、結局殆ど話が出来ていなかった。
俯きがちな彼女に俺はある提案をする。
「少し話さない、アリシア?」
「え、ええ……」
どこか遠慮がちなアリシアに案内され、俺は彼女と向かい合うようにして椅子に座る。
「……」
「……」
何を話そう……か……。
歩いている最中も色々考えてはいたが、結局最後までどんなことを話せばいいのか俺は分からなかった。
いや、実は彼女に話すべきことなんて一つも無いのかもしれない。
それよりも俺はこの気持ちが何なのかは分からないが、無性にアリシアに会いたいという気持ちがあったのだ。
別行動の時間が長すぎたからか、「最後の試練」で彼女の姿をした敵と戦ったからなのか原因は分からないが……。
だけど……。
これだけは分かる。
俺はアリシアのことを考える時間が増え、自身の彼女に対する気持ちに変化が起こっていることだけは実感していた。
そんなことを考えながらどれくらい時間が経過しただろうか?
すぐ目の前にアリシアがいるにもかかわらず、頭の中で彼女のことを考えていると、時間の感覚がいよいよ麻痺してくる。
そして……。
先に言葉を発したのは俺ではなく彼女だった。
突然ニコリと笑みを浮かべるアリシア。
「この戦いが終われば、アルス様と『結婚』ですねっ!」
彼女のぶっ飛んだ一言目に俺は思わずドシーン!と椅子から転げ落ちていた。
「だ、大丈夫ですかっ!? アルス様っっ!?」
倒れた俺に驚きながら、すぐそばまで駆けつけるアリシア。
「あ、ああ……。平気だよ……」
過去最高に物凄い冗談だな……。
一瞬、ドキリとしたけど……。
そんなやり取りを終えたところで、再度椅子に座り始める俺とアリシア。
俺はようやく落ち着きを取り戻したところで、これまであったこと紡ぐ。
「ねぇ、アリシア。これまで本当に色々なことがあったよね。アルス村に『神獣の里』、空を飛んで魔天空城にも行ったし……」
「そう……ですね」
これまでの彼女との冒険を思い出す俺。
嬉しいこと。
楽しかったこと。
そして……辛かったこと。
しかし、俺は彼女との会話のやり取りに違和感を覚える。
アリシアはどこか表情を曇らせながら、相槌を打っていたからだ。
「アリシア?」
やはりどこかいつもと違う様子の彼女。
アリシアは言うかしばらく悩んだ様子を見せていたが、やがて意を決したかのように告白する。
「アルス様……。実は私……不安なんです」
「不安?」
「ええ……。もう、この先アルス様と一緒にいられないんじゃないかと……」
一瞬、彼女が何を言い出したのか分からなかったが、直ぐに合点がいく。
「それって、魔王を倒した後……ってことだよね?」
コクリと一度頷くアリシア。
俺の発言は正解だったらしいが、すぐさまそれを否定するように彼女は謝罪する。
「すいません……。世界がこんな時に……」
「いや……そんなこと無いと思うよ」
俺は彼女にゆっくりとかぶりを振る。
寧ろ世界がこんな状況にもかかわらず、アリシアは悩んでいるんだ。
俺は彼女の悩みを解決できるよう思考を巡らせるが、そもそも俺自身、魔王を討伐した後の生活がどうなるのか、全く考えていなかった。
これは俺の性格に対して、アリシアはどちらかというと自信家のことから、考え方にズレが生じていることが原因なのかもしれない。
とはいえ、
魔王討伐後、レオンは……。
魔王討伐後、メイは……。
魔王討伐後、ネネは……。
それぞれが何をしたいのか俺達はまだ話しあっていなかった。
みんなはどうするのか分からない。
だけど……。
俺は何をするのか現時点での想像を俺自身でアリシアに説明する。
「俺はたぶん冒険を続けると思うよ。魔王を倒してもやることは変わらないと思う。だから、アリシア。君が不安がることはないんじゃないかな?」
確かに彼女は強くなりたいという思いで、俺のパーティに加入した。
魔王を倒してしまえばもう強くなる理由はなくなるだろう。
だけど……。
彼女が望むならこれから先も……。
そう考えた俺だが、アリシアはまだ何処か不安げな表情を浮かべていた。
「本当にこの先も冒険を続けることはできるのでしょうか? 魔王討伐後、アルス様は私からどんどん遠くに行ってしまう気がするのです……」
「……!」
彼女の説明に俺は目を丸くしてしまう。
盲点だった……。
アリシアの言うとおりだ。魔王討伐後、俺達は国王と会うことにはなるだろうが、可能性としては確かにしばらく忙しくなるのかもしれない。周りの環境が俺達の望む行動を制限するのだ。
だから、彼女は不安なのだ。
この戦いが終われば、今までの関係が断たれてしまうかもしれない……と。
それに、俺はアリシアと対等だと思っていたけど、この戦いが終われば、そうでなくなるのかもしれない。
が……、
そんなことは……。
俺自身が一番嫌だった。
「ねぇ、アリシア。この件は凄く難しいし、じっくり考えたいんだけど駄目かな?
その代わり、アリシアが納得できるまで向き合うことを止めないって必ず約束するよ」
そう言った俺だが、心の底から申し訳ないという気持ちが芽生える。
彼女は今悩んでいるのに、すぐには回答を出せないという結論に達したからだ。
胸の内を明かしたのに不満を露わにしてもおかしくない状況。
しかし、俺の予想に反して、アリシアは一気に元気な表情を浮かべていた。
「はい、アルス様! 楽しみにしてますねっ!」
どうやらアリシアは俺の返事を待ってくれるようだ。
「ごめんねアリシア……。だけど、絶対考えるから!」
「はい!」
内心アリシアがどんな反応をするのか凄くひやひやしたが、彼女の笑顔からひとまずは不安が消えたということでいいだろう。
今すぐには答えられない彼女の悩みだけど……。
この戦いが終わったら俺とアリシアの関係をちゃんと考えるぞ!
彼女の不安が消えたところで、俺とアリシアはこれまでの冒険の話をしていた。
しばらくそうしていると、俺達の前にメイとネネが現れる。
「あんた達。聖剣が完成したらしいわよ」
「ああ! ありがとう!」
キリュウさんのいる場所を教えられた俺だが、ふと疑問を二人に呟く。
「この村で渡してくれるんじゃないの?」
「みたいじゃな。どうやらキリュウは聖剣を村の外で渡したいそうじゃ」
「そう……なんだ」
「わたし達はアイツを迎えに行くから。それじゃあ行きましょ、ネネちゃん」
「うむ。そうじゃな」
レオンを迎えに行くため、そそくさと俺達の前から姿を消す二人。
俺とアリシア、メイとネネはそれぞれ別々の道を歩いていた。
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