第70話 【SIDEレオン】憎しみの行方
「転移」スキルを使う体力も殆ど残っていない俺はメイ、アリシアと共に歩いてアルス村へと帰還していた。
中に入るや否や、何故か一ヶ所に集まっている村長と村人たち。
どうやら、俺達を待っていたらしい。
「無事やったみたいやな! 一部始終、見させてもろたわ!」
「そうか……」
俺は村長に素っ気なく返事すると、パチパチパチパチ!と辺りは拍手の音で溢れていた。
「勇者! 良くやった!」
「アンタ頑張ったなっっ!」
「アルス村を守ってくれてありがとう!」
「どう? 最高の気分でしょ?」
からかうようにニマニマと笑みを浮かべてきたメイ。
「別に」
おちょくってくるウザイ幼馴染に俺は無表情で返す。
早く俺は用事を済ませたかったが、村長はまだ言いたいことがあるのか、大きな声を上げる。
「まっ、アルス村からレオン村に改名はしーひんけどな!」
「当然ですっ!」
間髪入れずにアリシアが村長に釘を刺すと、村人たちはドッと笑い始める。
何が面白いのかサッパリ分からない。
俺は露骨に不機嫌顔を浮かべていると、村長が話を振ってくる。
「何や、勇者! 言いたいことありそうって顔やな!」
「一つだけ言わせてもらうが、俺は見返りを期待してやったんじゃない。やりたいからやっただけだ」
俺は思っていることを正直に話したつもりだが、村中からオオと歓声が上がる。
「いや、何でそうなる……」
「はっ! そりゃそうやろ! 言うようになったやないか、勇者!」
そう言って、村長は腕を俺の肩にまわしてきたので、嫌な顔を浮かべる。
「あのなぁ……」
「ん。分かっとる。分かっとる。その様子やと『伝説のオリハルコン』を入手できたんやろ?」
「ああ、そうだ。今すぐにでも『聖剣アロンダイト』を作ってもらいたい」
村長にお願いすると、彼は俺から一旦離れ、パンと手を叩く。
「ほな、一旦お開きにしよかっ!」
事情を察してくれたのか、村人たちの感謝を手短に終わらせてくれた村長。
俺、メイ、アリシアは村の広場を後にし、彼の家を目指していた。
☆
村長の家に再び入ると、一度目は無かったハンマーや作業台等のアイテムが既に準備されていた。
アリシアは家に入るや否や、怪訝そうな表情で村長に質問する。
「いや……まさかとは思うのですが……貴方が『聖剣アロンダイト』を作るのですか?」
「ん? そうやけど。まだ勇者から聞いてへんかったんか?」
「成功確率はどれくらいなのでしょうか?」
「失礼な奴やなっ! 100や100! 100パー成功するわ、ボケ!」
「いや、まぁ、はぁ……。そうですか……」
アリシアは一応納得したのか、それ以上は何も言わなくなったので、俺は「伝説のオリハルコン」をゴトリとテーブルに置く。
「あれ、このオリハルコン。見たことある気が……」
何かを思い出したのか、ニヤニヤし始めるメイ。
しかし、俺はこれ以上話が逸れるのは嫌だったので早速本題に入る。
「これが『伝説のオリハルコン』で間違いないな?」
村長は鉱石をじっと眺め、短くため息をつく。
「ああ、おうとるわ。ホンマに準備しやがったか」
「で、聖剣を作るまでにどれくらい時間がかかりそうなんだ?」
「ワイの実力やったら今晩辺りには出来上がっとるわ」
今晩には聖剣が完成しているだとっ!!
この村長、見かけによらず本当に凄い人物なんじゃないのか?
あまりの早さに俺は心底驚いたが、あまり顔には出さずに冷静に話を進める。
「そうか。なら早速お願いする」
そう村長にお願いすると、何故か彼はおもむろに椅子から立ち上がる。
「オイ。待て。何処に行く?」
「キリュウでええわ。流石に村長やと呼びづらいやろ?」
コイツが初めて名前を明かしたところで、俺とアリシアは僅かに驚く。
「まっ、この村でも別の名前つこうてたけど、今更やし実名使っとくわ」
聖剣を作ってしまえば、恐らく元の生活には戻れないからだろう。
しかし、俺は名前とは別に気になることがあったので、再度同じ質問をする。
「で、キリュウ。アンタは何処に行くつもりだ?」
「買い物や買い物」
俺は家の周りを見渡すが、ある疑問が浮かび上がる。
「いや、既に道具は揃っているように見えるが……」
「素人に何が分かるっちゅうねん! まだ足りひんモノがあるんや!」
足りないモノがあるのは別に良いとして、俺が気になるのはキリュウ一人で行こうとしたところだ。
「アンタの身が最優先だ。護衛として、剣聖と聖女を連れていけ」
「オイオイ。ガキのおつかいとちゃうぞ……。ええな絶対に付いて来るなよ。付いて来たら聖剣は作らんからな」
やけに念押ししてくるな……。
まぁいい。
「鑑定」スキルによって判明しているが、今目の前にいる人物は間違いなくキリュウ本人だ。
逃げる可能性も無いだろう。
王都にいるダイン副騎士団長に説明し、密偵に頼れば一瞬にして探し出すことも可能だからだ。
そもそもコイツはそういうことをするタマじゃないし、善人であることは全員が知っている。
念の為俺は道具袋から短く光る棒を取り出し、キリュウに渡す。
「ん?」
「『スクロール』だ。この棒には『連絡』の効果が付与されている」
「『スクロール』ぐらい知っとるわ!」
キリュウにツッコまれた俺だが、自分自身、「スクロール」を使ったことはまだ一度もない。
道具屋で簡単に購入できるこの棒には一つだけスキルが付与されており、使用者の能力を補うかたちで使うケースが一般的だ。
だが、今俺が持っている「スクロール」は市場で出回っていない超激レアアイテムだったりする。
理由は棒に付与されているスキルの汎用性が高ければ高いほど価格は高騰するからだ。
実際、遠距離でも会話を可能にするこの「スクロール」はアルスから渡された物だが、元は国王の所有物だったらしい。
渡した予備の「スクロール」を奪い取るように回収し、家から出ていこうとするキリュウ。最後に俺は一言だけコイツに言っておきたいことがあった。
「次、ここに来るときにはアルスも連れてくる……」
「ふん。楽しみにしとるわ」
俺達に背を向け、手を上げながら出ていくキリュウ。
「っていうか『伝説のオリハルコン』置きっぱなしじゃない!」
メイはテーブルに置かれた鉱石をビシッと指さす。
「厄介ごとに巻き込まれて奪われるのが嫌なんだろう。何処に行ったかは不明だが、聖剣を作る気はあるらしい」
「ふーん。まぁいいけど。で、わたし達はこれから『神獣の里』に向かうってわけ?」
「その予定だったが、見ての通り俺は『転移』スキルを使う体力も殆ど残っていない。悪いが、お前達はここで待機していて欲しい」
「アルス達をここに連れてくるのよね?」
「ああ、そうだ。しばらくこの村から離れるが、魔の勇者を倒したんだ。魔王サイドも体制を整える必要があるから刺客を送ってくることはまずないだろう」
俺は今後の予定を一通り説明し、アリシアに目を合わせる。
彼女のことだから、俺を監視するために無理にでも付いて来ると主張すると思ったからだ。
が、彼女が発した言葉は俺の想像とは違った。
「ゴミ勇者。あの里はアルス村みたいに上手くはいきませんから」
「ああ……それくらい知っている。今もこうして俺がこの村に居れるのはキリュウのおかげだ」
俺はアリシアに信頼されているとは微塵も思っていないが、彼女から離れることに関しては特に何も言わないようだ。
特に話す内容も無いので、「転移」スキルを発動する準備に入ると、アリシアが再度俺に話しかけてくる。
「ゴミ勇者。里の獣人たちに合わないよう注意しなさい」
「当たり前だ。そもそも俺はあの里に入るわけじゃない。アルスを『スクロール』で呼ぶだけだ」
「ま、上手くいくといいんだけど……」
何か問題があるのか、不安そうな態度を見せる二人。
しかし、俺はそんな彼女たちを気にすることなく、「神獣の里」へと向かっていた。
☆
「神獣の里」からやや離れた位置に転移した俺は、木々の間から里の入り口の様子を伺う。
あそこには門番が二人いるはずだったが……。
前回「神獣の里」に来た時と違う状況に俺は眉をひそめる。
何故なら、入り口に門番は存在せず、その代わりにある人物がいたからだ。
「ネネ……。何でアイツがここに……?」
神獣石モードで里の入り口に一人で立っている彼女。
神獣石をじっと凝視していた彼女だったが、すぐさま顔を俺のほうに向ける。
「「……」」
隠れる理由も無いので、俺は彼女と目を合わせる。
が、お互い言葉は発さなかった。
コイツ……。
俺がここに来るのを待っていたように見えたが、気のせいだろう。
そもそも俺は神獣石に他人を監視する能力があるのか知らない。
まぁ、仮にあったとしても、あそこで一人俺を覗き見る理由は不明だが……。
とは言え、アイツが里の前に居ようが居まいが俺のやることは変わらない。
アルスのパーティメンバーとは最低限の接触しかしたくない俺は「スクロール」を起動させる。
アルスからは直ぐに返事が来た。
「レオン! 大丈夫っ!?」
俺の耳には聞き慣れた声が届く。
たった数時間、別行動をしただけなのに、俺はアルスの声を聞くと何故か心が温まる気持ちになった。
「ああ……。こっちは何とかなった『聖剣アロンダイト』は今日中に手に入る」
「やったね! レオン!」
音声だけだが、まるで無邪気な子供のようにアルスの喜んでいる姿が想像できた。
「報告することが多過ぎるから一度会って話をしたい。俺の元まで来てくれないか?」
「分かったよ! 何処に行けばいいかな?」
アルスと話をしていた俺だが、ふとネネが立っていた場所に視線を移動させる。
?
アイツ何処に行った?
完全に姿を消した彼女に違和感を覚えたが、俺はアルスとの会話を続ける。
「あ……ああ。里の前に――」
ピシィィィッッ!!
突如として地面から現れる黒い鎖。
それは一瞬にして俺の全身を拘束していた。
「カハッ……!!??」
ヤベェ……。身体が噓みてぇに動かねェ。
「レオン!? どうし――」
鎖に弾かれ、落下した俺の「スクロール」はある人物によって、パキリと簡単に折られていた。
「クク……カッカッカッカッ!」
肩を震わせ、おぞましい笑い声をひとしきり上げた後、途端に冷酷な顔つきに変わる彼女。
俺はソイツに向かって吠えるように大声を上げる。
「オイ、ネネ! テメェ何をするッ!?」
「『何をする』じゃと? おぬしも異なことを申す。
それにしても……。あろうことか我が主の仲間になるとはな。どんな手練手管を使ったのじゃ?」
「フザケルなっ! 俺の加入はオマエも認めただろ!」
「冗談も甚だしい。わらわがおぬしを認めるわけないじゃろ!」
「ぐっ……!」
あの時、宿でネネは俺のパーティ加入を認めた。
が、神獣石状態のコイツはそもそも俺がこの里で犯した罪を……。
「宴が……今まさに宴が始まろうとしているのじゃからな!」
まるで先に逝った獣人たちに言い聞かせるよう天に向かって叫ぶネネ。
不味い。俺はまだこんなところで死ねない……。
にもかかわらず、ギリギリと締め付ける黒い鎖。
状況は「死」へとゆっくり確実に近づいていた。
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