第68話 【SIDEレオン】相性×

「で、お礼は?」


 倒れている俺に話しかけてくるメイ。

 どれに対して言っているんだと問い詰めてやりたかったが、俺はその場から立ち上がり、わざとらしく服をパンと払う。


「助かった……」


 メイに呆れていると、アリシアはすぐさま俺に尋ねる。


「今、戦っていた相手は誰ですか?」


「勇者シリーズの一人、魔の勇者だ。魔王メリッサは死んだ歴代の勇者を復活させ、洗脳することで自らの配下にした」


「アルス様が王都で仰っていた斧の勇者とは別の勇者ですか?」


「ああ、そうだ。念の為言っておくが、アイツらと戦うのに絶対躊躇するなよ」


「ま、後輩ちゃんは勇者シリーズを見たの初めてだったわね。わたしは後にアイツらと会ってるから知ってるけど」


「アルス様と寝たっ!!!???」


「オイ……」


 アリシアの瞳からは完全に光を失い、死んだ魚の目をする彼女。


 このクソ聖女がっ……!


 メイの爆発魔法を直撃した魔の勇者だが、大雨の魔法が現在も続いている以上、奴は必ず生存している。


 アイツは直ぐに俺達の前に現れるだろう。


 これから一致団結して戦わないといけないにもかかわらず、あろうことかメイは剣聖の精神をへし折りやがったのだ。


 彼女の発言に完全に戦意喪失し、ふらふらとした足取りでこの場から離れようとするアリシア。


 俺は深い嘆息をついて、彼女を呼び止める決意をする。

 魔の勇者を倒すためなら……。


 俺は何でもする!


「オイ、剣聖。良いのか?」


「何……がです……か……?」


「さっきメイはああ言ったがコイツに限ってそれは絶対にない」


「は!?」


 仰天するメイだが、俺はコイツを無視して話を続ける。


「俺はコイツとアルスの幼馴染だから知っているが、二人の関係は友人から変わっていない。それに対してオマエはアルスのパーティ1人目だ。これが何を意味しているのか分からないのか剣聖?」


 俺の説明はアリシアに刺さったのか、彼女は幼い子供のようにみるみるうちに目を輝かせる。


「つまりアルス様は私を愛していると!」


「そうだ!(すまないアルス……)」


「うおおおおっっしゃああっ!」


 突然、歓喜の雄叫びを上げて興奮するアリシア。


「まっ、この勝負……。今は引き分けってことで良いわ」


 肉体的ダメージに加え、俺にはドッと精神的疲労が押し寄せてくる。

 心底どうでもいいし疲れた……。

 今すぐの休息を渇望していた俺だが、予想通りそれは叶わなかった。


 スタスタと木々の間から魔の勇者が帰ってきたからだ。


「ククク……。落ちこぼれの勇者に落ちこぼれの仲間ですか」


 メイの高威力の魔法を直撃しても、平気な状態をしている魔の勇者。

 やはり……。

 奴に魔法攻撃は殆ど通らないのか……。


「で、わたしたちはアイツに勝てそうなの?」


「今のところ突破口は見つかっていない」


「何よそれ! 絶望的じゃない!」


「ああ、そうだ。取り敢えず俺から言えるのはあの電撃を纏う剣を絶対に喰らうなということだ。この雨の状況下だと即死だからな」


「剣? ハッキリ言って、あの勇者からそこまでの剣術が想像できないのですが……」


 アリシアの発言に俺は頷く。


「出来る限り俺とメイで援護する。奴はオマエが仕留め――」


 俺がそう言い終える前にアリシアは魔の勇者へ駆け出していた。


「オイッ!!」


 クソッ……!

 話を最後まで聞けよ!


「――――エクスカリバー――――!」


 俺はアリシアの後を追う形で魔の勇者に攻撃を加えようとするも、二人の戦っている光景に衝撃を受けていた。


 俺の想像に反し、剣聖は魔の勇者を一方的に追い詰めていたからだ。


「ぐっ……。この女! 剣が見えない上に、致命傷をドンドン入れてくるっ!?」


 魔の勇者は名前の通り魔法に特化しているが剣術は完璧ではない。

 メイの治療によって完全回復した剣聖のアリシアからすれば、短剣を装備している目の前の敵は「無刀流」に「絶対両断」を使えば余裕なのかもしれない。


 ヨシ!いける!

 俺もこのザマだが、加勢して魔の勇者を討とうとした瞬間、背後から魔法が飛んでくる。


「――――ホーリーエクスプロージョン――――!」


 チュドオオオンッッ!!


 攻撃範囲が広すぎる上に味方へのダメージを全く考慮しない爆発魔法。


「ぐはっ!」


「きゃっ……!?」


 剣聖はメイの元までぶっ飛ばされ、俺も一気に後退させられる。


「この女っ……!? 本当に人間性を疑いますッ!」


「はぁ? アンタたちハッキリ言って邪魔な――」


「オマエ、次それ使ったらアルスに言うからな」


 わたしなんか悪いことした?というきょとん顔で俺を見るメイ。

 この女……マジで殴りてェ……。


 俺は呆れを通り越して一人地面に向かって吐き捨てる。


「駄目だ。連携が取れてなさすぎる……」


 とは言え……。

 剣聖が魔の勇者に対して大きなダメージを与えられる状況だ。

 万策が尽きたわけではない分、まだマシか……。


 俺は魔の勇者と打ち合っている剣聖の元へ再度駆け出そうとするも、違和感を覚える。

 アリシアの攻撃が魔の勇者に全く通っていないように見えないからだ。


「オイ、どうした剣聖っ! へばってるんじゃねェだろうな!」


 一旦後退し、俺の元へ近づくアリシア。


「見て分からないのですか? アイツは防御力がありえないくらい上昇してるんです!」


「何だと……。何が起こっている!?」


「クックックッ。守備力を上昇させる魔法を使わせてもらいました。これで剣聖は私の敵ではありません」


 コイツがバフ関連の魔法を詠唱した記憶はないが……。

 どうやら一部の魔法は「無詠唱」で省略することが可能ということか。

 そんな俺の考えをよそに、魔の勇者は魔法を詠唱する。


 駄目だ。剣ばかりに気を取られていた。

 そもそもコイツは魔の勇者だ。

 次使う魔法は絶対にヤバイ……。


「オイ、剣聖! 一旦退くぞっ!」


「――――ダイヤモンドダスト――――」


 魔の勇者から距離を取る前に、奴からは強力な冷たい風が放たれていた。

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