第67話 【SIDEレオン】VS魔の勇者
カイザータウロスを倒した後、残りのキングミノタウロスは俺を襲ってきたが、数はそれ程多くなかった。
元々ここのダンジョンの魔物はアルスが全て倒している。そのおかげもあってか、出てくる魔物の数は従来の繫殖期の十分の一程度に抑えられていた。
繫殖期を終わらせた俺はふらつきながらもその足でダンジョンへと足を踏み入れる。
全身に大ダメージを受けているため、今すぐにでも休息を取りたかったが、今は目的を最優先にする。
重い体を引きずりながら歩いていると、脳裏を
思い出したくないし思い出す必要もないが、ここはアルス追放後、レベル1になった場所だからだ。
魔物の居ないダンジョン中層へ辿り着くと、不意にゴゴゴゴゴと不思議な音が響く。
前回来たときは意識していなかったが、どうやらここのダンジョンは挑戦者によって構造が変わるらしい。
何故なら小さな村の近くにあるこのダンジョンに、伝説の鉱石が存在することを誰も知らないからだ。
俺は再度輝きを放つ「伝説のオリハルコン」の前に立つ。
あの時はこのオリハルコンを抜けず、あっけなく片耳を失ったが、今なら……。
俺は祈りながらもゆっくりと冷たい鉱石に触れる。
刹那、昔はビクともしなかった「伝説のオリハルコン」はひとりでにズズっと抜けたのだ。
自分が心を入れ替えたから抜けたなんて俺は微塵も思っていない。
もし、この世界に神がいるとしたら大陸の危機を察したのだろう。
とにかく……。
この「伝説のオリハルコン」があれば、アルス村の村長が「聖剣アロンダイト」を作ってくれる。
後は、「神獣の里」に向かったアルス達の報告を待つだけだ。
俺はよろめきながらもアルス村へ帰還するため、すぐさまダンジョンの出口に足を向けていた。
☆
ダンジョン入り口まで帰ってきた俺だが、天候に違和感を覚える。
アルス村に来たときは快晴だったが、今は大雨状態だったからだ。
明らかな変化にしばらく戸惑っていると、正面からある人物が現れ、俺は直ぐに状況を理解した。
「やれやれ、まさか落ちこぼれの勇者の分際でカイザータウロスを倒してしまうとは……」
長い帽子に眼鏡をかけた人物。
コイツは確か……。
魔王の城で一度だけ見たことがある。
「魔の勇者か?」
「ええ。そうです」
「まさか……カイザータウロスはオマエが仕組んだのか?」
現在魔王メリッサの能力によって、大陸中の魔物の脅威度は二段階上昇している。
しかし、俺はカイザータウロスと戦った時に一つだけ疑問があった。
脅威度C級のミノタウロスはA級のキングミノタウロスへ進化したが、SSS級のカイザータウロスに関してはどう考えて説明がつかないからだ。
「メリッサ様の魔物を更に強化し、繫殖期を呼び起こす程度……造作もありません」
「それで……魔王を崇め、アルス村を危機に陥れたオマエが、俺に何の用だ?」
「何の用? 決まっているでしょ。貴方を始末し、『伝説のオリハルコン』を回収しに来たのです」
「言っていることが滅茶苦茶だな。先ず俺を落ちこぼれ扱いして脅威と思わないなら倒さなくてもいいだろ?」
「クク……。我々は一部考えを改めたのです。【闇勇者】のユニークスキル『挑み続けるもの』。これが非常に厄介なのですよ」
「……ッ!?」
スキル名を挙げられた瞬間、俺は動揺を隠せなくなる。
現在俺はメイ同様、複数のユニークスキルを所持しているが、その中に非常に強力な効果を発揮するスキルがあった。
魔の勇者が告げたユニークスキル「挑み続けるもの」はスキル所有者が戦えば戦うほど、戦闘力が上がる能力だ。
俺は魔王メリッサが仕組んだ孤児院での死闘を乗り越えた結果、SSS級のカイザータウロスを倒せるまで強くなっている。
そして、俺はカイザータウロスとの戦闘も乗り越えた。
コイツらはアルスのことしか眼中に無いと思っていたが、俺がここまで生きてきたことは魔王メリッサにとっても予想していなかった事態なのかもしれない。
「フフフ。今や一人ぼっちの貴方は満身創痍……」
「それで、オマエは『伝説のオリハルコン』を入手出来なかったから待ち伏せしていたと……」
「勘違いしないで下さい。ただの鉱石程度、その気になれば私でも回収は出来ていました」
「いいや。今のオマエにはこれを手に入れることは出来なかっただろう」
「クククク! ハッハッハッハッ!」
突然笑い声を上げる魔の勇者。
「何がおかしい?」
「いえ。まさか貴方からその様な発言が出るとは。大方『誇り』がどうとかふざけたことを考えているんでしょ?」
「さあな。だが、俺はこの鉱石を渡すつもりもないし、『勇者シリーズ』は全員倒すつもりだ」
「ほう……。なら、この私を少しは楽しませてくださいよっっ!」
俺はすぐさま魔法を発動しようとするが、詠唱の速さは魔の勇者が一枚上手だった。
「――――アカシックレコード――――」
ズズズズッと魔の勇者の手元から尋常じゃないオーラを放つ一冊の分厚い本が現れる。
あの本っ……!?
込められた魔力は賢者ネネの扱う神獣石の比じゃない!
「――――ダークスフィア――――」
「――――ダークスフィア――――」
俺は残り僅かな魔力を振り絞り魔法を放ったが、返す刀で魔の勇者もすぐさま攻撃を開始する。
「――――シャドウブラスター――――」
二つの闇玉と漆黒の光線が衝突するが、俺の魔法は相手の攻撃を相殺できず、ダメージをモロに受けてしまう。
「ぐおっっ……!?」
チクショウ!
連戦を想定していなかった為、スキルを使用する体力と魔力は殆ど残っていない。
「ハハハッ! この私に対して魔法を撃ち合うというなら大歓迎ですよっ!」
駄目だ。
この勇者に魔法攻撃を使うのは得策じゃない。
そもそも……。
俺は残りのMPを確認しようとしたところで、脳内に情報が流れる。
《魔法「ダークスフィア」の使用回数は残り一回です》
「――――エクスカリバー――――!」
俺は闇剣を取り出し、魔の勇者に向かってすぐさま駆け出す。
この剣で直ぐに終わらせるっ!
しかし、魔の勇者は俺の剣を見ても、余裕そうな笑みを浮かべていた。
そして……。
俺は魔の勇者に剣を振り下ろそうとした瞬間、ヤツは想定外の詠唱をしていた。
「――――マインゴーシュ――――」
なっ……!
短剣だと!?
カキィィィィィィンッッ!!
「意外って表情ですね。私は勇者なので最低限の剣術は持ってますよ」
コイツッッ……!?
近接型の相手にも一対一で戦える対策をきちんとしているのかっ!?
今の「魔の勇者」は片手に本を所持しており、空いたもう片方の手で短剣を装備している。
片手に本を所持している以上、奴の動きには制限があると思ったが、そんなことは全くなかった。
俺は何度も魔の勇者と剣を打ち合うが、やはりカイザータウロスとの戦闘が重すぎたのか、分が悪すぎる。
ゼイゼイと肩を上下させる俺に対して、全くダメージが入っておらず疲労を見せない魔の勇者。
「クク……そろそろ頃合いですね」
不敵な笑みを浮かべる魔の勇者。
気が付くと、俺の足元は氷で完全に動きを止められていた。
「なっ……!?」
しまった……!
「無詠唱」スキル持ちか!?
万策尽きた俺はその場で身動きが取れず、ただ奴の魔法を見届けることしか出来ない。
「――――エンチャント サンダー――――」
「――ッ!!!???」
刹那、奴の装備している剣はジジジと雷属性を帯びる。
コイツ……!?
次の攻撃で完全にとどめを刺すつもりだ。
俺は魔の勇者が仕組んだと思われる大雨を大量に浴びている。
そんな状態であの剣攻撃を食らえばそれでジ・エンドだ。
「勇者レオン。魔王メリッサ様に
「……ッ! オマエはアイツに洗脳されているんだ! まだ分からねェのか!?」
「やはり貴方は期待外れだ……。『神獣の里』に向かったアルスを殺してもらおうかと思っていましたが……」
「フン。無理な願いだ」
「では……。死んでもらいましょうかっ!!」
背後から剣を刺そうとした魔の勇者。
しかし、俺は遠くにいた一人の少女の奇怪な行動を目の当たりにした瞬間、大声で叫ぶ。
「オイ待てッ! 今すぐ俺から離れろ!」
「クク……。私がそんな罠にかかるとでも?」
「――――ホーリーエクスプロージョン――――!」
刹那、俺と魔の勇者をぶっ飛ばす光の爆発が入る。
「敵味方関係なしかよっ……!?」
「……ッ!? 一体何がっっ!?」
爆発のダメージが完璧にヒットし、仰向けに倒れる俺。
そんな状態の俺の元へ完全回復したアリシアとメイが駆けつけてくる。
「いや……。今の貴方の攻撃……。勇者(ゴミ)に完全に直撃しているように見えたのですが……」
「アンタ。見たところ殆ど怪我は無さそうね」
メイは満身創痍でこれ以上ないくらいにボロボロの俺にそう言っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます