第64話 【SIDEレオン】再び、アルス村へ
アルス村の前に俺、メイ、アリシアは転移していた。
俺は村の中に早速足を踏み入れようとするも、メイに呼び止められる。
「ちょっとっ! 待ちなさいよアンタ!」
アリシアも俺に何か不満があるのか、すかさずメイに耳打ちをする。
「何だ?」
「二対一の多数決。これが何の意見か分かる?」
「いいや。全く分からないな」
「アンタほんとバカねっ! アルスはしれっと納得してたけど、わたし達はアンタをこの村に入れたくないの! 話がややこしくなるのは御免なのよ!」
コイツらの言っていることは痛いほど分かる。
アルス村はアルスを英雄と崇め、剣聖も評価されている村だ。
そこに俺とアリシアが行けば村人達は混乱しないわけがない。
しかし……。
ここから先、俺達の前に何が現れるか分からない以上、俺はコイツらの傍にいる必要がある。
この考えを持っていた俺だが、それをストレートに説明したところで彼女らの反感を買うだけだ。
だから俺は角度を変えて彼女らを説得する。
「剣聖。監視をするなら俺はオマエの近くにいた方が良いんじゃないのか?」
「ッ……!」
怪訝な表情を浮かべ、露骨に舌打ちをするアリシア。
「まっ、来たいって言うなら別に良いんじゃないの? どうなっても知りませんけどー」
「フン。なら、サッサと行くぞ」
議論が終わり、ようやくアルス村に入ろうとした俺。
しかし、メイはまだ言い足りないことがあるのか俺に冷たく吐き捨てる。
「わたし、性格が悪いからハッキリ言うわ。さっきアンタ以外で国王に会ったの」
彼女がそう告げるや否や、アリシアは怒りを露にし始める。
「貴方はアルス様の約束を裏切るのですかっ!?」
「あらぁ。後輩ちゃんの分際でアルスに盾突いたのによく言うわ」
「……!」
俺はコイツらの仲の悪さに心底呆れる。
リーダーであるアルスが居ない所為もあるのだろうが、この場には誰がどう見ても険悪した空気が漂い始めていた。
そして、メイがどこまで知っているのか不明だが、彼女はアルスとアリシアが昨晩揉めた件を言っているのだろう。
「それで……国王に会って何があったんだ?」
「いくら『転移』スキルを使えるアンタでもわたし達の同行はやっぱり国王が渋ったわ。でもアルスは国王に言ったの」
「……」
「『もし魔王を討てなければ、全責任を俺が取ります』って」
「なんだとっ!?」
メイの報告に俺は険しい表情を浮かべていた。
アイツ……!?
自分勝手にも程があるぞ!
これでもうアルスは後に退けない一方通行の戦いに挑むしかなくなったのだ。
自ら退路を断ち、限界まで自分自身を追い込むアルスに俺は驚きと同時に憤りを感じていた。
それにしても……。
何故ヤツは自ら棺桶に片足を突っ込むようなことをするんだ?
自分の心配と他人の心配とのバランスがおかしいのは明らかだが、何故そこまでして……?
やはりアイツという人間が分からない。
「アルスに感謝することね」
満足そうな表情を浮かべるメイ。
しかしそんな彼女に対して、一人俺に強い眼差しを向ける人間がいた。
アリシアだ。
「答えなさいゴミ勇者。今、彼女の発言を聞いて何を思ったのか」
コイツが俺に面と向かって意思疎通を図ろうとしたのはこれが初めてだ。
つまり、それほど彼女にとって俺がこの問いに答えることはとても重要なことらしい。
考えるまでもなく俺が今ここで返答を間違えれば、彼女に容赦なく斬られる。
その予感は今の彼女からハッキリと読み取れた。
「最善は尽くす。が……オマエらはいい加減理解したほうが良い。この世界に魔王メリッサがいる限り、良いヤツが報われるとは限らないことをな」
「……」
アリシアの問いに上手く答えられたのかは不明だが、彼女はキュッと閉口し、それ以降は何も言わなくなった。
☆
「剣聖様と……勇……者?」
ようやくアルス村に入った俺達。
想像はしていたが、やはり村の中に入るや否や、一気にざわつき始める。
「オイッ! 裏切り者の勇者だっ!」
「今更、何しに来やがった!」
「よくもまぁ平然と来れたなっ!」
ほらね、という表情でメイは俺の顔を見るが、今は彼女を無視する。
はっきり言ってアルス村はあまり大きな村ではない。
俺達の来訪した情報は一瞬にして伝染する。
二度と会いたくは無かったが、もうじきあの男が来るはずだ。
罵詈雑言を浴びせられながらもしばらくその場で待っていた結果、ようやく聞き覚えのある声が耳に入る。
「これはこれは……アルス村に珍客が来よったやないかっっ!」
手を広げながら現れる短髪の男。
この大陸の人間ではない独特な方言を話す人物こそアルス村の村長だ。
周囲からは「村長」と呼ばれているが、年齢はかなり若く、二十代後半辺りに見える。
目的の人物が現れたところで俺は口を開ける。
「アンタに一つ頼みがある」
一言村長にお願いをした瞬間、彼はギロリと俺を睨み付ける。
「ああ? いつぞやの勇者がワイに頼みやと? なんや? おどれは過去を水に流そうって言っとんのか?」
「ありていに言えばそういうことになる」
そう説明するや否や、村人たちは更に爆発したように俺達に怒りを向ける。
「ふざけんな! このクソ勇者が!」
「だいたい、何で剣聖様もここにいるんだ!」
「もしかしてこの女っ! 英雄アルス様を裏切ったのか!?」
「……ッ!!」
瞬間、村人たちに尋常じゃない殺気を放つアリシア。
彼女のオーラから、今までの喧騒が嘘みたいに村中は沈黙するが、俺は抜刀しようとするアリシアを制する。
「オイ待て、剣聖」
アリシアを止めた俺だが、ガッと頭に鈍い痛みが走っていた。
村人に石を投げられていたからだ。
「帰れっ!」
「……」
額から流れた血がポタポタと地面に落下するも、諦めを見せない俺。
そんな俺の態度から事情を察したのか、腕を組んでいた村長は大きく息を吐く。
「まっ、『男の頼み』っちゅうもんは一生に一度は無条件で聞くもんやさかいな」
「村長! お人よし過ぎですっ!」
「お前らは今のコイツを見て分からんのか? 剣聖の嬢ちゃんをなだめただけやなく、石を投げられても怒らんかった。まっ、この勇者に何があったんかは全く分からんけどな」
村長は終始俺に対して値踏みするような眼差しを向けていたが、どうやら彼なりに何か思うことがあったらしい。
「俺の話を聞いてくれるのか?」
「おお、聞いたるわ。その代わり分かってるやろうな勇者。話があるならそこの嬢ちゃん達からじゃなく、お前と俺。サシでやろうやないか」
正直言ってこの村には二度と来たくなかったし、村人の顔も一生見たくなかった。
しかし「聖剣アロンダイト」を入手し、アイツが魔王を倒すためだ。
俺は大きくため息を吐き、覚悟を決める。
「そういうことだ。オマエら、勝手に動くなよ」
俺の監視をする以上、勝手に行動することは無いと思うが、念の為彼女らに警告する。
「まっ、精々頑張りなさい。後輩ちゃん。わたし達はコイツを待っておきましょ」
「クズ勇者。必ず成果をあげなさい」
俺同様、釘を刺してきたアリシアの発言を最後に、俺は村長の後をついて行き、彼女らと別れた。
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