第54話 【SIDEレオン】???
死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。
俺は「忘らるる大陸」にある魔王の城で、首を裂かれ、燃やされ、両腕と両脚を切断され、何度も死んだ。
しかし、死ぬ度に魔王メリッサは俺を元の状態に生き返らせた。
「ああ。本当……貴方の悲鳴って何て心地良いの!」
メリッサは壁にもたれかかっている俺にそう呟く。
「……」
「だけど……。流石に飽きたわ……」
笑みを浮かべていた表情から一転、メリッサはつまらなさそうな表情を浮かべる。
「……」
「そう……死ぬことを受け入れちゃった♡」
「……」
俺はメリッサを無言でギンと睨み付ける。
勝手に俺を弄び、期待し、その行き着く先がこれらしい。
ふざけるな。冗談じゃねェ……。
しかし、彼女は何かを思いついたのか、嬉しそうに両手をパンと叩く。
「やっぱりこうしましょ。貴方をここから解放するの。その代わり私が特等席で貴方を見ていてあげるわ」
「……」
「ねぇ、知ってる? 人間が自分の居場所を失った時、何を望むか? 答えは簡単よ。誰かに自分のことを探してもらうことよ」
「……」
「でも、残念。私は貴方の全てが上手くいかないよう調整してあげる。一番幸せになった瞬間に私がちゃんと壊してあげるの」
「……」
「人の気持ちを踏みにじるのって最高でしょ? 私は心の拠り所が無くなった人間の朽ち果てる姿を見たいの」
彼女がそう告げると、俺を拘束していた床の黒い魔法陣が消える。
メリッサはどうやら本当に俺をここから解放するらしい。
俺はその場から立ち上がり、「転移」スキルを発動する。
足元には魔法陣が生成され、全身が光に包まれたところで、俺はメリッサに吐き捨てる。
「…………地獄へ落ちろ。メリッサ……」
ようやく俺が言葉を発したことに満足したのか、メリッサはニンマリと喜色満面の笑みを浮かべていた。
☆
俺は「転移」スキルを使用したが、行先は指定していない。
そして……。
俺はもうどこを歩いているのかも分からないでいた。
あらゆる景色、空や建物の全てが俺の視界には全く入ってこないのだ。
何故なら今の俺は死ぬことしか考えていないからだ。
踏み込めば命を失う床があれば、何の躊躇いもなく踏み込むだろう。
まるで瀕死状態のような足取りでゆっくりと歩を進めていると、突如聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「レオン……?」
俺は自身の名前が呼ばれたことに気づき、声の元へ顔を向ける。
「ばあさん……か」
俺は転移先を指定していない。
にもかかわらず、生まれ育った孤児院の前に転移していたらしい。
俺とアルス、メイが育った場所だ。
因果なものだな……。
俺は心の底から転移先を呪った。
ここには思い出したくないものが沢山あるからだ。
そんな負の感情で満たされた俺だが、近くにいたおばさんは特に気にせず話しかけてくる。
「一瞬、誰か分からなかったわ。あなた、随分変わったように見えるから」
「まぁ……。アンタも……随分変わったな……」
お世話になった彼女は俺が知っていた頃よりかなり老けていたからだ。
俺はこの孤児院にもう何年も顔を出していない。
それこそ、孤児院がこんなに小さかったか?と疑問に思うくらいだ。
アルスやメイはここに定期的に姿を出しているらしいが、勇者パーティを結成してからというもの、俺の頭の中にこの孤児院の存在は全く無かった。
「少し、入らない?」
「断ると言ったら?」
俺はすぐさまここから離れようと思った。
が、おばさんはどこか意地悪そうにクスリと笑みを浮かべる。
「行くあては無いんでしょ?」
「……」
彼女の言っていることは正しい。
だが、その前に俺はコイツに言っておきたいことがあった。
「ハッ! 俺は今頃お尋ね者だ。匿っていると判断されたら都合が悪くなるのはテメェのほうなんじゃねェのか?」
「その時はあなたを捕まえたと言って、孤児院のお金として利用させてもらうわ」
「フン。好きにしろ」
俺は正面から孤児院の中へとズカズカ侵入するが、外でボール遊びをしているガキ共は俺が怖いらしく、怯えて誰も近づかない。
まぁ……そりゃそうだろうな。
建物の中に入る前に俺はふと何気なく窓ガラスで自身の顔を確認する。
俺はアイツを追放してから隻眼隻腕になっただけじゃない。
頬は瘦せこけ、髪も無造作に随分と伸びていた。
建物内部の中に入り、おばさんと向かい合うように椅子に座ると、彼女に向かって口を開ける。
「『冒険者になるなら人の役に立ちなさい』。アンタの言葉だ……」
俺がそう告げると、彼女は目をまん丸にする。
「驚いたわ……。よく覚えているわね……」
「一人、馬鹿みたいに口癖にしてるヤツがいたからな。だが、俺はアンタの約束を守れなかった……」
「噂は……色々と聞いているわ」
「だろうな……」
「聞かせて頂戴。あなたの言葉で何があったのか」
彼女のその言葉を合図に、俺は全てのことを話した。
アルスを追放したこと。
アルス村、神獣の里で取り返しのつかない過ちを犯したこと。
そして、幼馴染を泣かせたこと。
おばさんが話を最後まで真剣に聞いてくれたおかげか、もしくは自身の罪を初めて告白したからか不明だが、俺は改めて気づく。
俺という人間はどうやらアイツらより弱く出来ているらしい……と。
「それで、あなたはこれからどうするつもりなの?」
俺が話を終えると、第一声に彼女が発した言葉だった。
「折角、王都に来たんだ。大人しく捕まる以外の選択肢が逆にあるのか?」
「一度、会っておいたほうが良い人達がいるんじゃないの?」
おばさんの話に俺は思わず笑いが込み上げてくる。
「ハッ! どうやら俺はここにセッキョーされに来たらしい」
しかし、彼女は至って真面目な顔で俺に説得する。
「レオン。もうすでにあなたは分かっているはずよ、今自分が何をすべきか」
王都の兵に大人しく捕まる以外に何がある。
俺は魔王メリッサに殺され、何度も命を失い、新しい自分に生まれ変わっている。
しかし、新しい自分になり、過ちを犯したと気が付いたとしても、もう全てが手遅れなのだ。
だが……。
もし一つだけ、やり残したことがあるとしたら……。
「俺がここに来たことは……アンタが言ってくれると助かる」
俺がそうお願いすると、何故かその場で笑うおばさん。
「そう言うのは自分で伝えなさい」
ッたく……。
これだから年寄りっていうヤツは……。
「オイ、ばあさん。冗談もたいがいにしろ。頭、ウンでんじゃねぇのか? 言っておくが俺はアイツらとは縁を切った。二度と会わねェぞ」
俺は孤児院から出ていくため、その場から立ち上がる。
「レオン、これだけは覚えておいて。あなたがどれだけ変わろうと、大切な部分は変わらないの」
「……」
「ねぇ覚えてる? 幼い頃アルスが熱を出した日。レオン、あなた一人で町中のお医者さんを探しに回った」
チッ……!
若者を諭そうと昔話かよ……。
俺は歩みを止め、おばさんから顔を背けて吐き捨てる。
「昔のアイツはひ弱でいつも俺が助けていたからな……」
「今の子は早く大人になるのよ。あなたは少し足踏みしているだけ。彼らはあなたのことを必ず許してくれるわ」
はぁ、と俺はわざとらしくため息をつく。
「分からないな……。結局、アンタは俺にどうなって欲しいんだ?」
「あなたには『幸せ』になって欲しいの。当然でしょ」
「…………そうか」
ここに来たのは時間の無駄だった。
俺は誰に何と言われようとアイツらには会わないからだ。
俺はドアノブに手をかけるが、突然外から子供達の悲鳴が聞こえてくる。
「何だ?」
俺は急いで外に出るが、ありえない状況に一瞬思考が停止する。
何故なら孤児院の柵の中に、剣を装備した白髪の魔族二体が降臨していたからだ。
そして、子供達は体を震わせ、隅の方で怯えていた。
「クハハッ! さーて、オマエ達! その場を動くんじゃねェぞ! 抵抗すれば殺すからなぁ!」
「ケハハッ! 案外簡単に入れたじゃねェか! これでこの世界も終わりだなァ!」
どうして魔族が王都の中に侵入している!?
一体この世界はどうなっているんだ!?
俺は「エクスカリバー」と詠唱し、すぐさま臨戦態勢に入るも、魔族の二体は俺の姿を見るや否や喜色を浮かべる。
「んー。何だオマエは? どこかで見た顔だが覚えているか? サコンよ」
「ケハハ! ウコン! あれは魔王メリッサ様から追い出された落ちこぼれの勇者だ!」
「テメェら……! 理解できねぇ……。コイツらはガキだぞっ!」
「クハハッ! 魔王メリッサ様が純真無垢な子供を欲しいというのでな。ここに転移させてもらったのだ」
アイツッ……。
よりにもよって、ガキ共を玩具にする気かッッ!?
イカレてやがるっ!!
「ケハハ! 理解できねェって顔だな勇者! 我々はオマエ達人間が食って寝て犯すという本能を持っているのと同様、オレらは破壊という本能を持っているのだ!」
「クハハッ! 子供を蹴り飛ばす感触っていうのは猫とどう違うんだろうな!」
「キサマアアア──ッッ!」
俺は咆哮と共にウコンへ全身全霊の一撃を打ち込むが、容易に剣で弾かれる。
「なにッッ!?」
「クハハッ! オレ達は元々B級だったが、魔王メリッサ様のおかげで二段階力を貰い、今やS級! 落ちこぼれの勇者なんぞ敵ではないのだ!」
クソがッ……。
こいつら途轍もなく強ェェ……!
周囲の助けが来ない中、俺はあまりの敵の強さに絶望を感じていた。
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