第55話 【SIDEレオン】男の戦い
ガキンガキンガキンガキンッッ!!
孤児院に現れた魔族、ウコンとサコンに俺は死に物狂いで剣を振っていた。
「もう……やめて」
後ろで、おばさんがそう呟くが、俺の耳には全く入ってこない。
「ッッ!! この男っ! まだ剣を振るのか!?」
「あれだけの傷を負っていれば、もうとっくに死んでいるはずだぞ!?」
チクショウ!
さっきまで魔王メリッサに殺されていた俺は体力が全く回復していない!
心臓は今にも止まりかけそうだ。
それに、二体の魔族を一人で相手にするのは分が悪い!
俺は一心不乱に魔族に挑むが、どうしても後手に回る。
止まない魔族の攻撃に、俺はとうとうその場に倒れてしまう。
「ッ──……!」
「クハッ! クハハハハハ! やっと倒れやがっ……何ッ!!??」
ドゴオォッッ!!
立ち上がった俺は魔族にやけくその一撃を加える。
「おのれッ! 何度も何度もしつこいッ! コイツは不死身なのかッ!?」
「こやつを立たせているのはもはや精神のみ! どうして倒れないッ!?」
俺は口の中の血をペチッと吐き捨てる。
「馬鹿がッ! テメェらにはここのガキを指一本触れさせねぇ!」
ここでコイツらを仕留めなければ俺はただの大馬鹿野郎だッ!
「クハハッ! 自分は死んでも良いから孤児院だけは手を出さないでくれってか? そういうのが……そういうのがいちいち最ッ高なんだよ!! クハハハ! このウコンをもっと愉しませろ!」
ガキンガキンガキンッッ!!
「ケハハハッ! 後ろがガラ空きだぞッ!」
「ぐっ……!?」
俺は背中を剣で刺されるも、すぐさま後方にいた魔族の心臓に剣を突き刺す。
「ぐああああああぁぁッッ!!??」
「サコンッッ!!」
俺はとうとう魔族の一体を倒したが、大き過ぎる背中のダメージにとうとう倒れてしまう。
「くっ……!」
肉を切らせて骨を断つ……か。
駄目だ……。もう立てねぇ……。
背中からのあまりの出血に俺は自分の身体が徐々に冷えていくのを感じる。
自分の命を差し出して終われるなら今直ぐにだってそれをする覚悟は出来ている。
にもかかわらず……。
それが出来ないのが悔しいッッ!
「ああ! 良いな、そのオマエの顔! マジで最高だよ。ああああぁっ! ゾクゾクするっ!! 今すぐ殺してぇ! なあ、いいか? 今すぐお前を殺しちゃってもいいか?」
「ウオオオオオォォッッ!!」
俺は白目状態で立ち上がり、魔族に全身全霊で挑む。
ドガッッ!
しかし、俺は抵抗虚しく俯けに倒れていた。
「ぐはっ……」
ボロボロ。
情けない。
惨め。
だが……。
どれだけカッコ悪くても、理解されなくてもいい……。
コイツだけは……。
何度地べたを這っても、絶対に立ち上がってやるッッ!
出血で目がかすむなか俺は再度立ち上がるが、思わず笑いが込み上げてくる。
「クックックックッ!」
「ア? 何だ、キサマ……。何がおかしい? 遂に頭がイカレたのか?」
「いや、なに。俺は安心してるんだよ。オマエみたいなクソなら殺りやすいし、
「何だとッ! キサマアアッッ!!」
目の前の魔族は襲い掛かってくるが、俺は「エクスカリバー」の重さに違和感を覚える。
こんなに剣が軽いのは生まれて初めてだ……。
守るものがあるとこんなにも違うのか……?
もしかして……。
アイツもそうだったのか?
死ぬかどうかの瀬戸際にもかかわらず、俺の脳裏にちらつくのはやはりアイツのことだった。
そして……。
俺は最後の力を振り絞り、【闇勇者】のユニークスキルを発動する。
「怒り」や「憎しみ」を糧に威力を発揮するスキルだ。
俺の剣の刀身は深い闇を纏う。
「――――デススラッシュ――――!!」
相手が剣を振るより先に俺の全身全霊の一撃が魔族に入った。
S級とはいえ、仮にも勇者である俺の一撃にヤツは耐えられなかった。
致命的な攻撃を受けたウコンは断末魔の叫びをあげる。
「ぐああッッ!? メ、メリッサ様アアァァッッ!!??」
黒い煙と共に完全にその場から居なくなるウコン。
これで……孤児院を襲うヤツは居なくなったか……。
「レオン、あんたっ……!!」
このババア……。
後ろでは、おばさんが涙を流しながら口を押えていたが、俺はそんな彼女を見るや否やすぐさま吐き捨てる。
「オイ、ばあさん! 俺のここで育ててもらった借りははこれでチャラにしろ!」
だいたい俺は自慢じゃねェが、アルスが居なくなってからボコられ慣れてる。
そんな目で俺を見るんじゃねェ!
行く当てもない中、俺はその場から立ち去ろうとするが、歩みを止められていた。
俺の右手には暖かい感触があったからだ。
「お兄ちゃん、ありがとう……」
一人の少女が俺の手を握った瞬間、言葉を失う。
何だ……。これは……。
何だ……この感情は……?
そして、俺の目からは熱いものがぽろぽろと流れていた。
残虐非道の魔王メリッサに殺された時ですら俺は涙が出なかった。
それが……こんなところで……。
少女の思いがけない言葉に俺の顔はみっともないくらいに赤くなっていた。
一体、これは……。
何なんだよ……。
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