第52話 消えた「聖剣アロンダイト」

 謁見の間に案内された俺とメイ、ネネ、ダインさんは「神獣の里」からエルト砂漠、魔天空城で起こったこれまでの出来事全てを説明した。


「全く……。余はお主らにどれだけ感謝し、謝罪すればよいのじゃ……」


 何度も繰り返し頭を下げる国王に俺はどういう反応をすればいいのか分からなくなる。


「ハッハッハッ! 陛下! そう自分を責めないで下さい! 彼らなら過ちを受け入れる度量はありますぞ!」


 ダインさんの国王への対応に全員がギョッとしたが、今回だけはどうやら不問にする雰囲気があった。


「うむ。特にアルスよ。此度の件は本当に申し訳なかった……。まさか『神獣の里』とエルト砂漠で魔王軍四天王を全て討つとは……」


「い、いえ……俺は……。皆の力を借りて出来ることをやっただけです……」


「そう謙遜するでないぞ、アルス。お主は前回キングミノタウロスの件で会った時より遥かに見違えておる。余にはお主が研ぎ澄まされた英雄のオーラを放っておるのが分かるぞ」


「いえ……。そんなことは……」


 国王はそう言うが、俺はそんなに変わっただろうか?

 戦闘面では確かに以前よりも強くなった感覚はあるが、「英雄」と言われても正直ピンとこない。

 うーんと小さく首を傾げていると傍にいたメイが俺に呟く。


「ま、まぁ、ちょっとは成長したんじゃない? 大胆になったところとか……」


「にゃぁ……それは成長って言わないにゃ……」


 ネネがそう言うと、彼女の頬を笑顔で引っ張るメイ。

 彼女らのいつものやり取りを見ることが出来て嬉しいが、俺の心の一部には影が存在していた。


 国王は俺が前回会った時より変わったと評価してくれたが、俺自身の実力はまだまだ未熟だからだ。

 復活した「勇者シリーズ」に手も足も出なかった俺は更に強くなる必要がある。


 俺がそんなことを考えていると、話の議題は今後の方針へと変わる。


「それで、アルス率いるそなたらのパーティでメリッサという名の魔王を討つのじゃな?」


「ええ。『勇者シリーズ』が力を蓄えている今、俺達は早急に彼女を討つ必要があると考えています」


「ハッハッハッ! 安心してくれアルスくん! オレの兄からのお願いで既に『あの剣』の準備はさせてもらっているぞ!」


 確かに……。

 エルト砂漠でダイン副騎士団長の兄である暗黒騎士を倒した際、彼はそんなことを言っていた気がする。


「『あの剣』……ですか?」


 俺がダインさんにそう呟くと、国王はうむ、と頷く。


「魔王を討つには『聖剣アロンダイト』が必要じゃ。本来、別の者に授ける予定じゃったが、これはアルスに授けるべきだと余が判断した」


 聖剣アロンダイト。

 聖剣エクスカリバーと対をなす剣だが、それを俺に授けるのか……!

 物凄い責任に俺は一瞬言葉を失ってしまう。


 それだけじゃない……。

 この剣は本来俺ではなく、ある人物に与えられる予定だったのだ。


 それは恐らく俺、メイの幼馴染である「彼」だったのだろうが、メイは顔色一つ変えず、その人物に触れることは無かった。


 それに……。

 彼に触れないのはメイだけではなく、国王も同様だった。


「アルスよ。魔王を討てるのはもうこの大陸を探してもお主しかおらんのじゃ。『聖剣アロンダイト』は確かに伝説の聖剣じゃが、そう気負うことは無い。お主なら必ず闇を振り払うことができるはずじゃ」


 笑顔で俺にそう諭してくれる国王。


「ハッハッハッ! それで、その『聖剣アロンダイト』はまだ来ないのかな?」


「うむ。もうそろそろここに運ばれても良い頃合いじゃが……」


 そう告げた国王だが、彼は顔色を一気に曇らせていた。


 ドタドタと場にそぐわない急ぎ足で、一人の兵が駆けつけてきたからだ。

 彼の様子を見る限り、急を要する大変な事態が発生したように感じられる。


「陛下! 大変です!」


「うむ。今は会議中なのじゃが……。何か問題が発生したのか?」


「宝物庫を何度探しても『聖剣アロンダイト』がありません!」


 兵がそう告げた瞬間、謁見の間に衝撃が走る。


「なっ……!」


 突然の報告に俺は戸惑い、ダインさんはありえないぞ!と叫ぶ。


「なんじゃと……!? さては盗賊に盗まれたのか!?」


「『聖剣アロンダイト』が収められている部屋は厳重に警備されています! 盗賊程度では盗めるわけがありません!」


「なら、一体誰が盗んだのじゃ!?」


「それが……。現在調査中ですが、情報はまだ入って来ておりません!」


 兵の報告に苦渋の表情を浮かべる国王。

 すると、誰に言うともなくメイが口を開ける。


「もしかして……魔王メリッサが城内の兵を操った際に、その聖剣を回収したのかも……」


 彼女がその可能性を説明した瞬間、部屋にいた全員がハッとする。


「ま、魔王メリッサのしわざか! 十分にありえるぞ! いや、寧ろそれしかありえんじゃろ!」


 国王がそう叫んだ瞬間、全員が黙り、瞬時に事態の重さを理解した。

 魔王メリッサを討つ為に必要な剣を魔王メリッサが回収したのだ。

 それが何を意味するのかを……。


「やられたわね……」


 謁見の間には諦めと絶望の空気が漂い始めていた。

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