第51話 ネネとダインの処刑
斧の勇者との戦闘を終えた俺とメイはようやく王都に到着していた。
が、俺は始終、現れた「勇者シリーズ」のことしか考えていなかった。
これまで俺は何度も敗北濃厚な戦いを経験したことがある。しかし、いつだって最後には何とか勝利することができた。
斧の勇者との圧倒的敗北に俺は絶望に包まれるが、更に追い打ちをかける事実が一つある。
それは「勇者シリーズ」がまだ本来の力を出せていない点だ。
復活して間もない彼らはこれから先、まだ強くなるらしい……。
俺は、はぁと溜息を吐いて凹んでいると、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、メイが怒りを露にする。
「ちょっと! 何落ち込んでるのよ!」
「ご、ごめん……」
俺がメイに謝ると彼女はフンと鼻を鳴らす。
「アルスが落ち込むことないわ。さっきはハッキリ言ってわたしも戦うべきだったの。次からはちゃんとわたしも戦闘に参加するから」
「メイ……」
彼女は聖女である以上、防御力に優れているわけではない。
それこそ、防御面のステータスは神獣石状態の賢者ネネ以下になるだろう。
俺は皆を守りたいのに……。
悔しいけど、これから先、俺一人では戦いきれないことを受け入れないと駄目みたいだな……。
今後、味方を命の危険に晒さないといけないことに落ち込んでいると、何故かメイはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「あーーあ。誰かさんに守ってもらおうと思ってたんだけど、やっぱり世の中ってそんなに上手くいかないのねー」
どこか呆れたように、そんなことを言うメイ。
彼女はこうやって落ち込んでいる俺を励ましてくれているのだろう。
その彼女の優しさがとても嬉しかった。
「ありがとう! メイは俺が守れるように頑張るよ!」
俺が彼女に感謝を伝えると、急にカアアアと顔を赤くするメイ。
「ふえっ! き、急に何言い出すのよっ!」
「?」
「も、もももしかして、アルスがずっとわたしを守ってくれるってこと!?」
「うん。だからとりあえずネネと合流しよう! もう一人紹介したいパーティメンバーもいるんだ! メイを守れるよう、みんなで一緒に今後の方針を考えようと思う!」
「あ…………そういうこと…………」
何故か俯きがちに闇に包まれる彼女。
メイの歩く速さが激減したことに疑問を感じていると、正面の方から騒ぎ声が聞こえる。
「いたぞ! 脱獄したアルスだ!」
「やはりこのタイミングで現れたか!」
「処刑は中止にさせないぞ!」
「ッ……魔王メリッサに操られている兵だっ!」
俺はすぐさま地面に手を付け、ポイント・エージェンタの能力を発動する。
「ちょっ! アルス! 何があったの!?」
「メイ同様、ここの兵達も呪われているんだ!」
俺は槍スキル「乱撃」と併用し、王都にいる全員のレベルを1上げた瞬間、周囲の兵はへなへなとその場で座り込む。
「な、何が起こっていたんだ?」
「俺は今まで何を……!?」
「この国は大丈夫なのか……?」
俺はすぐさま彼らの元へ近づき話を聞く。
「処刑」という単語が気になり、遠くのほうから何やら住民たちの騒ぎが聞こえてくるからだ。
「すいません! この騒ぎは何ですか!?」
「あ、ああ……。駄目だ殆ど何も覚えていない……」
「いや……殆ど記憶が無いが、確か処刑が行われようとしていたんだ」
「俺の記憶が正しければ、処刑される人は獣人ネネとダイン副騎士団長だった気がする……」
「なっ……ネネとダインさんが!?」
恐らく俺とアリシア、ネネで脱獄した件。
エルト砂漠でダイン副騎士団長が俺のことを国王に話してしまったことが原因だろう。
「ちょっと! どうしてネネちゃんが処刑されるのよ!」
動揺を隠せなくなるメイ。
だけど、こんな所で立ち止まっている場合じゃない。
どうやら残された時間は少ないらしいからだ。
ならば最悪の事態を今すぐ回避しないといけない。
「時間が無い! メイ! 今すぐ刑場に向かおう!」
俺とメイはすぐさま刑場へと駆け出した。
☆
俺とメイは街から離れた刑場に辿り着くと、既に多数の住民が集まっていた。
「何故ダイン副騎士団長が……!」
「オイ、黙れ! お前も監獄に入れられるぞ!」
「彼の兵は既に全員監獄に収容されているらしい……」
口々に噂し、オロオロしている住民を俺とメイはかきわけながら、処刑台を目指す。
「にゃーーっ!! ネネはまだこんなところで死にたくないにゃっー!!」
「ア、アルスくーーん! 助けてくれーーっ!!」
案の定、処刑台にはネネとダイン副騎士団長が連行されていた。
「不味いッッ!!」
「ネネちゃん!」
今すぐ処刑を中止させ、二人を助けないといけない状況だが違和感を覚える。
俺は先程ポイント・エージェンタの能力を発動したが、ネネとダインさんの処刑は未だに国王の指示によって行われようとしているからだ。
俺は国王と少数の兵が立っている黒い台に目を向けると、王は片手をあげる。
「ええい! こやつらの首を持て!」
国王がそう命令すると、処刑台に二人の兵が登り始める。
彼らは大きな剣を装備しており、刃をギラリと輝かせていた。
「何で国王にはさっき使用したはずのポイント・エージェンタ(真)の能力が効かないんだ!?」
「たぶん……あの黒い台が魔導具の働きをしていると思うわ! スキルや攻撃魔法を一切受け付けないのかも!」
「それじゃあ、国王達が黒い台に立っている限り、あの二人は止められないってこと!?」
「ちょっと、アルス! わたしを戦闘要員か何か勘違いしていない? 何のためにわたしがいると思ってるのよ!?」
「いや……そんなことはないけど……」
メイはむすっとした顔を俺に向ける。
「本当かしら? わたしが回復専門の聖女ってことを忘れてるように見えるんだけど……」
どうやら、彼女は呪い解除の回復魔法を国王達に使用するらしい。
「ねえ、メイ。杖を装備していないけど、大丈夫?」
俺は彼女に再会した時からずっと疑問に思っていたことを尋ねる。
「ええ、平気よ。杖を使うと片手がふさがっちゃって、邪魔だし殴りにくいのよねー」
「あ、そう……」
俺がそう返事すると、彼女は魔法を詠唱する。
「――――キュアリンク――――!」
彼女が魔法を放った瞬間、辺り一帯は白い光で包まれる。
そして黒い台に立っていた国王は目を覚ましたかのように両目を大きく見開ける。
「なっ……!? 余は……余は今まで何をしておったのじゃ!」
「やっと目覚めたようね」
国王が意識を取り戻した瞬間、俺は黒い台へ急いで近づく。
黒い台にいた兵は全員その場から倒れており、意識を持っていたのは国王だけだった。
「ア、アルスか! こ、これは……。一体何が起こったのじゃ!?」
「ネネとダイン副騎士団長の処刑が行われようとしています! 今すぐ中止にしてください!」
俺がそう叫ぶと、国王は瞬時に状況を理解したのかすぐさま処刑台の人間に命令する。
「中止じゃ中止!! 今すぐ処刑を止めるのじゃ!」
こうして、ネネとダイン副騎士団長の処刑は中止になり、何とか二人を助けることが出来た。
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