第49話 斧の勇者との死闘
「勇者……だと……!?」
俺がそう呟くと、傍にいたメイが怪訝な顔をする。
「はぁ? どういうこと!? 勇者はこの世界で一人しか確認されていないはずよ!」
「ハッ! なに。数百年前にオレは魔王に敗れて死んだが、再びこうしてこの世界に降りてきたんだ。少しはこのオレを楽しませろよっ!」
魔王に敗北して死んだ……?
なら何故この勇者は生き返っているんだ?
それに……理解できないところはまだある。
「ちょっと待ってくださいよ! ならどうして俺達と戦おうとしているんですか!? あなたの言っていることが本当なら、敵は俺達人類ではなく魔族なのではないですか!?」
「ああ? んなもん知らねェよ! オレはただテメェを殺したくて仕方がねェんだよッ!」
目の前にいる勇者と名乗る人物もひょっとしたらメリッサという人物に操られているのかもしれない。
俺はすぐさま地面に手をつき、ポイント・エージェンタ(真)の能力を発動しようとするも、脳内に情報が流れてくる。
《勇者へのポイント・エージェンタ使用は非推奨。レベルアップにより、人類への敵意が無くなるわけではないため》
ポイント・エージェンタ(改)からポイント・エージェンタ(真)になったことで与えてくれる情報が増えたらしい。
が、どうやらユニークスキルから与えられた情報によると、相手にポイント・エージェンタは効かないらしい。
それなら……。
「メイ! 呪い解除の魔法が役に立たないかな?」
「ごめん。多分あれは見る感じ、呪いとは別の能力がかけられているから無理っぽい……」
聖女の魔法も効かないだと……!?
恐らく勇者の背後ではメリッサという人物が裏で糸を引いているのだろうが、一体彼女は何者なんだ?
俺はわけが分からず混乱していると、相手は背負っていた斧を片手に装備し、先端をメイの方に向ける。
「オイ、女アァ! オレは親切だからなぁっ! オマエがスキルや魔法を使わねェ間は一切、攻撃しねぇし殺さねェよ!」
「アルス……」
俺に不安そうに声をかけてくるメイ。
「メイは後ろに下がっていて!」
コクリと頷き、無言で後ろに下がるメイ。
「ハッ! やっと殺る気になったかッッ!」
そう言うと、勇者の闘気がみるみるうちに増していく。
殺らなきゃ殺られる……。
戦闘力が魔王軍四天王以上なら全力で戦わないといけない。
ならこの距離で俺が最初にすることは決まっていた。
俺は最大火力の魔法を詠唱し、勇者に火球を放つ。
「――――ファイアーボール――――!」
しかし相手は俺の魔法から逃げることなく、フンと鼻を鳴らし巨大な斧を一振りする。
「オラっ!」
スパッッッッッ!!
刹那、俺のファイアーボールは一瞬にして両断され、その場から無くなっていた。
アリシアの「絶対両断」に似たスキルか!
斧の動きからしてアリシアと違い、自動で攻撃しているわけではなさそうだが、魔法であれを突破するのは賢者のネネでも可能なのか疑問が浮かぶ。
「何だ、テメェ? 魔導士系の職業か? だったら一撃で終わらせてやるよッ!」
斧を収めた勇者は物凄いスピードで俺に接近する。
ッ……!?
もしかしてこの人……。
「身体強化」が使えるのかッ!?
「破ッッ!!」
勇者と名乗る人物の拳と俺の剣がガキリッッ!と衝突するも、自身の体から激痛を感じる。
剣で拳を受け止めるも、パンチの威力があまりにも高すぎる所為で、俺の剣は自身の肩に食い込んだからだ。
やばっ……!
何て威力だ!?
ドシイィィィィィンッッ!!
殴り飛ばされた俺は近くの木に背中から大きく衝突し、ガハッと咳をする。
「アルスッ!?」
「大丈夫だからっ!」
俺を心配してくれたメイだが、彼女が魔法を使わないようすぐさま返事する。
それに……。
ファイアーボールが効かなかっただけで、俺はまだ諦めたわけじゃない。
「ハッ! 結構マジで殴ったつもりだが、意外とタフじゃねぇか!」
相手は俺が強烈な一撃を死なずにやり過ごしたことを言っているのだろう。
勇者は俺と違って、遥かに鍛え抜かれた肉体をしているからだ。
だけど……。
俺には暗黒騎士を倒した奥義がある!
俺は剣にポイント・エージェンタを付与し、身体強化【極】で一気に勇者の元へ加速する。
「ア?」
「食らえッッ!!」
俺は勇者に全身全霊の剣の奥義を解き放つ。
「――――流星――――!」
剣スキル最大の切り札。
しかし……。
奥義を前にした勇者はこれも逃げることなくニタリと微笑み、スキルを発動する。
「――――身体強化【神】――――!」
バキッッッッ!
聞いたことのない衝撃音が響き、俺は顔を青ざめさせる。
剣が……折れただと……ッ!?
ここまで通用しないとは……。
ありえないッ!
「クックックッ! 今、何かしたか?」
後退する俺にゆっくりと近づいてくる勇者。
不味いッ……!?
俺は「ウェポンボックス」から剣を取り出し、ユニークスキルを何度も発動する。
「――――ポイント・エージェンタ――――!」
「――――ポイント・エージェンタ――――!」
「――――ポイント・エージェンタ――――!」
しかし、俺の予想を更に裏切る事態が発生する。
バリンッッ!
なっ……。剣が真っ二つに折れたぞ!
ポイント・エージェンタ(真)の経験値量だと、普通の剣は付与の負荷に耐えられないのかっ!?
瞬間、正面から強烈な殺気を感じる。
勇者が片手で斧を装備したからだ。
「取り込みのところワリィがオレはこれ以上待てねェ。こっから先は神にでも祈るんだな」
「ウェポンボックス」から遂に剣が無くなった俺は斧を取り出す。
使用するスキルは既に決まっていた。
俺の斧は光を帯び、奥義発動の準備が整う。
「――――ビッグバンスマッシュ――――!」
俺は勇者の装備する斧を破壊しようとするも、相手は余裕そうな笑みを浮かべる。
「このオレ相手にそのスキルかっ! オマエおもしれぇなぁっ!」
そう告げると、目の前の勇者が装備していた斧も光を帯びる。
「――――ビッグバンスマッシュ――――!」
「なっ……!?」
斧と斧がぶつかった瞬間、勇者のあまりの攻撃威力に俺は全てを後悔した。
まさか……これ程までとは!?
俺の斧が一瞬にして粉々になったからだ。
これはっ……!?受けてはいけない攻撃だ。
この勇者には防御ではなく回避をすることしか考えては駄目だったんだ!
そしてとうとう、俺の左肩から斜めにかけ、勇者の強烈な斧の一撃が入っていた。
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