第40話 【SIDE勇者】魔王メリッサの勧誘

 引き続き俺はメリッサさん、メイと共にダンジョンでのレベリングに挑戦していたが、相変わらずレベルは1から変化していない。


 それに……。

 俺は首を後ろに向け、遠くにいるメイと目を合わせる。


「「……」」


 彼女は無言で俺を睨み付けているが、あろうことかメリッサさんにも同じ対応をしている。


 ったく。一体何なんだコイツは?

 彼女はネネと仲良くする癖にメリッサさん対してはありえない態度を取っているからだ。


 僅かながらの苛立ちを覚えた俺だが、すぐさま怒りを鎮める。


 フン、まぁいい。

 横にいるメリッサさんの体でも眺めて落ち着くとするか。


 俺はメリッサさんに下から上へと舐め回すような視線を送ろうとしたが、それは叶わなかった。


「きゃっ……!!」


 メリッサさんが悲鳴を上げ、彼女の踏み込んだ床が凹み始めたからだ。

 ガチャリと罠が作動し、俺とメリッサさんが立っていた床に魔法陣が現れる。


 オイオイオイオイ……。マジかっ!?


 俺は視界が一瞬にして光に包まれた瞬間、焦りを覚える。

 罠に関しては片耳を失った嫌な思い出しかないからだ。


 そして案の定、俺とメリッサさんは知らない場所へと転移していた。

 しかも、さっきまでいた場所と床の色が違う。

 出てくる魔物は十中八九強くなっているのだろう。


「……ッ!」


 すぐさまメリッサさんの背後に逃げる俺。

 しかし、肝心の魔物は待てども待てども何故か襲ってこなかった。


 変だな……。

 ダンジョンの罠は踏み込んだ側に大きなペナルティがかかる。

 罠にかかり転移したのだ。てっきり強い魔物が待ち構えているかと思ったが……。


 そんな俺の疑問をよそに、メリッサさんは残念そうな顔を浮かべる。


「ごめんなさいね~」


 ったくメリッサさん……。

 彼女でなければ俺は今頃激昂していただろう。

 だが、意外とドジな一面も持っている彼女はこちらとしては寧ろ高ポイントだから、許してやるとするか……。


「メリッサさん。そう落ち込まないでくれ。まぁ、ダンジョンの罠にかかることはよくあることだ」


「レオンくんも罠にかかったことがあるの~?」


「いや、そんな目にあったことは無いな」


 俺はキリッとした顔で即答し、念のため辺りをキョロキョロと見回す。

 先程からメイが見当たらないからだ。

 どうやら、彼女は俺とメリッサさんから距離を取って歩いていたため、転移に巻き込まれなかったらしい。


 クックックッ、まぁいい。

 別にアイツがいようがいまいが、知ったこっちゃない。

 逆にこちらとしてはメリッサさんと二人きりになれる好都合な展開だ。


「それで、メリッサさん! どうだい? 俺は魔王を倒せそうかな!」


「う~ん。正直このままだとレオンくんが魔王を倒せるようになるには随分時間がかかりそうね~」


 どこか残念そうな表情を浮かべ、説明する彼女。

 魔王討伐が難しいことは薄々感じていたが、メリッサさんの発言に俺は一気に不安になる。俺がレベル1の役立たずとなれば、彼女がパーティを離脱する可能性が生じたからだ。


「なっ!! もしかしてメリッサさん! 今更、俺のパーティを抜けるって考えているのか!?」


「安心して~。そこまでは言ってないわよ~」


 俺はすぐさまホッと胸をなでおろす。


「ハハッ! なら良かったよ!」


「でも、やっぱりこのままだと強くなるのは難しいかも~。別の方法が取れたら良いんだけど~」


「別の方法?」


「そう、レオンくん。良かったら私と契約してみない~」


 突如、メリッサさんの口から出てきた「契約」という単語から彼女に付いていけなくなる。


「契約? どういうことだメリッサさん?」


 俺は眉をひそめるも、彼女は顔色一つ変えず説明する。


「レオンくんが私に『あるもの』を差し出して契約するの~。そうすればさっき私が見せたみたいに、木の枝で何でも斬れちゃうわ~」


「『あるもの』だと……。何だ、それは? 金か? 武器か?」


 畜生……!

 それ程までの力。無条件で手に入るはずがない。

 こちらからそれなりのものを差し出す必要があることは俺でも分かる。

 こんなことになるなら、「神獣の里」で借金をしなければ良かった……!


 しかし、俺が想像していた「あるもの」は彼女の契約に必要なものとは違った。


「私が欲しいのは【聖女】メイちゃんよ~」


「は?」


 メリッサさんの発言に俺はしばらくポカンと口を開いていた。


 なぜここにきてアイツが?

 まさか……。

 信じられない……。


 メリッサさんの提案した内容をようやく理解できると、俺は思わず笑いが込み上げてくる。


「ハハッ! メリッサさん! 冗談もたいがいにしてくれ! あんな奴を犠牲にするぐらいで力が手に入るならここまで苦労しないだろ」


 あれ程までの力を手に入れるのに、メイを差し出すのは安過ぎるとしか思えない。


「聖女は貴重な人材よ~。彼女は呪いを解除できるだけでなく、彼女自身が一切呪いを受け付けないの~」


「呪い? よくわかんないですけど、アイツは大したことないですよ」


「う~ん。そう? なら私と今すぐ契約してみる?」


「い、いや……。悪いが、すぐには返事できないな」


 俺はメリッサさんの提案を否定していた。


 別にアイツの身を案じているわけではない。

 ただ、メリッサさんと契約すれば、もう二度と正常に戻ってこれないような気がどこかでしていた。


「そう? でも貴方が強くなるにはもうこれしかないの~。だから、契約したくなったらいつでも言ってね~」


 そう言って、メイとの合流を目指すため歩を進めるメリッサさん。


 俺は彼女のことを完全に信頼していたが、ここにきてある疑問が浮かぶ。


 それにしても、メリッサさん……。

 彼女は剣聖と名乗っているが、本当は一体何者なんだ?

 それに、何故俺の「神獣の里」での行いも何故知っているんだ?

 奇跡的な力を売っているのも何だかおかしいぞ?


 ふと俺はメリッサさんの顔を見ると、彼女はふふっ、と妖しげな微笑を浮かべる。


 いや、今はそんなことどうでも良いかっ!

 契約に関しては、今後メイが俺に歯向かって来た時に脅す材料として使わせてもらうとしよう!


 しばらく俺とメリッサさんはダンジョンの上層へと引き返していると、ようやくメイが見つかる。


「「……」」


 遂に合流するも、相変わらず俺達を睨んでいるメイ。

 ふん。どうやらこの様子だと一人でも魔物に襲われず、無事だったらしい。


「少し、休みましょうか~」


 メリッサさんの提案を俺は首肯する。


「ハハッ! そうだな!」


 俺はメリッサさんに付いていくと、ふと背後からメイに呼ばれる。


「ちょっとアンタ。話があるんだけど」


 幼馴染の彼女は俺に真剣な眼差しを向けていた。

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