第27話 魔王軍四天王の暗黒竜に勝利し、里での戦いに終止符を打つ(後編)

「アルス様! 攻撃が効いている様子が全くありません!」


 俺同様、「ドラゴンスラッシュ」が暗黒竜に通用しなかったアリシアは声を上げる。


「フフフ。我の『ダークオーラ』は踏み込んだ対象の思考を読み取り、回避することが出来る。そしてこのオーラは何も回避に特化した能力ではない」


 暗黒竜は薙ぎ払う形で俺に向かって爪を横に振ってくる。


「――――ドラゴンクロー――――」


 食らえば即死級の爪攻撃を俺は躱したつもりだったが、何故か避けきれず、ギリギリ剣で防ぐ形になる。


「ぐっ……!?」


 「ダークオーラ」は回避だけでなく攻撃にも応用できるってことか……。

 いや、今はそれ以上に……。

 限界まで俺は身体強化をかけたにもかかわらず、暗黒竜の圧倒的力に対抗できないのだ。


 俺は完全に押し返され、この場からふっ飛ばされる。


「うわっ……!!」


「アルス様ッ!?」


 俺は身体強化で駆け出し、彼女達の元へすぐさま向かうも、絶望を感じていた。

 魔王軍の四天王と戦うことはどういうことなのかを改めて思い知らされたからだ。


 暗黒竜は俺達がダメージを与えることはおろか攻撃を防ぐことも出来ない。

 それに、さっきの爪攻撃で俺の残りHPは半分しかないのだ。あれをもう一度くらえば一巻の終わりだ。


 希望が無い中、彼女たちの元に辿り着くと、暗黒竜の様子がおかしくなる。

 纏っていたダークオーラがみるみるうちに消えていったからだ。


「何をしておる! 早く攻撃を加えるのじゃ! 思いのほか詠唱に時間がかかったが、神獣石の能力で奴のオーラはわらわが封印しておる!」


 ネネの叫びに俺は目が覚めたような感覚に陥る。

 神獣石にそんな力があったのか……!

 彼女のお陰で俺達はまだ戦える。諦めちゃ駄目だ!


「我が『ダークオーラ』を封じおったか! 小癪な奴めっ!」


 攻撃対象を俺達からネネに変更した暗黒竜。

 ネネの元に爪が振り下ろされようとするも、彼女は苦しい表情を浮かべながらその場で静止していた。


 暗黒竜のオーラを封じている間はネネ自身の身動きが取れなくなってしまうのか!?

 俺はネネを守るため彼女の前に立った瞬間、脳内に情報が流れる。


《推奨。斧スキルの取得》



 突然出てきた情報に俺は一瞬戸惑う。

 今までは入手可能スキルをたまに知らせる程度だったが、取得を勧められたのは初めてだからだ。


 もしかして……ポイント・エージェンタからポイント・エージェンタ(改)に進化したことで、状況に応じて入手するスキルを提案してくれるのか!?


 俺はすぐさまスキルの取得を許可すると、脳内に獲得したスキルの情報が流れてくる。


《斧スキル「ビッグバンスマッシュ」を獲得しました》

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇斧スキル《ビッグバンスマッシュ》

斧装備時のみ使用可能な奥義。相手の武器を必ず破壊することが出来る。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 俺はすぐさま「ウェポンボックス」で武器を剣から斧に持ち替え、暗黒竜の爪に正面から挑む。


「――――ビッグバンスマッシュ――――!」


「――――ドラゴンクロー――――」


 斧と爪がぶつかった瞬間、バリバリバリッと暗黒竜の爪は次々と破壊されていく。


「なにッ!! 我が爪を砕くだと!?」


 一瞬、暗黒竜がひるんだ瞬間を利用し、俺はまだ使用したことのない能力を発動する。


 それはポイント・エージェンタ(改)だ。

 ポイント・エージェンタ(改)は武器にも経験値を与えることが出来るが、付与した試しはまだない。


 俺は半分賭けで、今できる限りの付与を握っている剣にありったけ込める。

 瞬間、俺の剣は光で包まれ、暗黒竜は激昂する。


「聖剣エクスカリバーの輝きッッ!? キサマはいずれ魔王様の脅威となる可能性を秘めておる! 今ここで我がその芽を絶対に摘まねばならぬ!」


 俺は今度こそ暗黒竜を斬るため、身体強化をかけて全力で跳躍するも、彼は大きく口を開けていた。


「――――ヘルブレス――――!」


 暗黒竜の口から邪悪な炎が吐かれたが、俺は躊躇することなく、ブレスに突っこんでいく。アルス村で村長から貰ったマントは光を帯び、ブレス無効化の能力が発動されたからだ。


「山々や要塞をも平らにする我のブレスが効かんだとっ!?」


 終わらせる。何もかも今度こそっ!

 俺は剣を振りかぶり、全身全霊でスキルを発動する。


「――――ドラゴンスラッシュ――――!」


 鋼以上に硬い鱗に一撃を加えると、暗黒竜は激しい叫びをあげる。


「我が……我が敗れるなどあってたまるかあああああぁぁぁっっっ!!」


 ドシャッと倒れた暗黒竜は黒い煙と共にその場から姿を消していく。


 辺りには俺達を襲う魔族は完全にいなくなっており、獣人と魔族との戦いにようやく終止符が打たれた。

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