第28話 勇者を超えた真の救世主と崇められる
「アイツがこの里を救ってくれた英雄だ!」
「四天王を二人も倒したんだってな!」
「ありがとー! アルスー!」
戦場で戦っていた俺とアリシア、ネネを含めた獣人達が里に帰ってくると、熱い歓喜の声で迎えられる。
「まるで凱旋ですね! アルス様!」
「そう……だね。まさか、ここまでとは……」
犠牲はゼロじゃないけど、俺達は何とか魔王軍を退けることができた。
それも、俺一人の力じゃない。
魔王軍に包囲されながらも戦うことを決意した獣人達。
彼ら仲間たちを指揮し、俺と暗黒竜の戦いを陰で支えてくれたネネ。
ネネを救出するため、孤軍奮闘の活躍を見せたアリシア。
全滅せず最後まで戦えたのは、皆が覚悟を決め、諦めなかったからだ。
遠くのほうにいた族長のノノは俺達の存在に気づくと、風の様な速さでこちらに駆けつけてくる。
「無事だったか! ネネ!」
「うむ。中々危なかったが、この者たちの助けで何とか帰ってくることが出来たぞ」
「話は既に聞いているよ、アルス! あの魔王軍の四天王を二人も倒したそうだな! 本当に心からありがとう」
ネネの報告を聞いたノノは俺達に向かって深々と頭を下げる。
何だか、彼女に何回も頭を下げられている気がして俺はどうしていいのか分からなくなる。自分一人でここまで頑張れたわけではないからだ。
何故かアリシアはノノの行動からニマニマした表情を浮かべているが、今は触れないでおこう……。
「あの、ノノさん。俺から話があるんですけど……」
「何だ。アルスからの話なら何でも聞くぞ」
「俺の能力、ポイント・エージェンタを使って、怪我をした戦士達を全員回復させたいんです」
ノノは気づいていると思うが、今回の激戦から、沢山の怪我人が出ている。
それも、腕をまともに動かせなかったり、自分一人の力で歩くことが出来なかったりと重度の負傷者が沢山だ。
俺は国王からの依頼でここに来ているわけだが、目的はただ達成すれば良いってものではない。そこだけは絶対に忘れちゃ駄目だ。
「アルス、君にそんな能力があったのか! ならば是非ともお願いしたい!」
俺の要望を聞いてくれたノノは怪我をした里の者達を集めるため、すぐさま手筈を整える。
怪我をした兵士達に経験値を1Lvずつ付与していくのは中々時間がかかったが、俺は例外なく全員の怪我を完治させることができた。
「一瞬で怪我が治ったぞ!」
「もう動かせないと思った足が元通りになった!」
「これで子供達を抱くことが出来る!」
経験値の付与を終えると、里は俺達が帰ってきたときより賑やかな声で包まれていた。
「ふぅ。これで何とか国王にも報告出来そうだね!」
「流石です! アルス様!」
「うん、ありがとう! 何とか全員の手当が出来て良かったよ!」
俺とアリシアはニコニコと微笑みながら話していると、不意に後ろからガバッとネネが抱きついてくる。
「ちょっ……。ちょっと……」
突然のネネの行動に戸惑っていると、彼女は俺の頬を指でツンツンと小突いてくる。
「あるじよ。わらわのことを忘れておらぬか? もうちっと構ってくれないと、寂しくて泣きそうじゃぞ」
俺はネネの強い腕の拘束に戸惑っていると、闇に包まれたアリシアが笑顔でコトリと首を傾ける。
「アルス様。彼女とはどういった関係なのでしょうか?」
「あ、ああ……昔同じパーティで活動していたことがあるんだ……」
「ただの『元』パーティメンバーですか。それで、どうして『元』パーティメンバーの貴方が私の許可なしにアルス様と馴れ馴れしくしているのですか?」
アリシアの発言に俺はげんなり顔を浮かべていると、ネネは自信満々に答える。
「わらわとあるじは真実の愛で結ばれておるのでな。それに、お主ごときじゃアルスのパートナーとして力不足じゃろう」
「アルス様。私……少しお花を摘みに行ってまいりますね」
「あ、ああ……。いってらっしゃい……」
満面の笑みで颯爽と俺の前から消えたアリシア。
はぁ……。後で誤解を解いておかないとな。
俺は未だにおぶさってくるネネの方に顔を向ける。
「あ、あの。ネネ様……」
「ゴホン。『ネネ』で良いぞ。わらわにとってあるじは特別じゃからな」
ドシャァァァッ!
バリバリバリッ!
シャキィィィン!
アリシアが消えていったほうから次々と木が倒れていき、俺は顔を青ざめさせる。
「オイ! いきなり木が倒れてきたぞ!」
「ジェレミーさんの家に直撃した! 大丈夫か、ジェレミーさんっ!」
「た、助けてくれぇぇっっ!」
後で、あの家を修理させてもらわないとな……。
俺は深いため息を吐き、疲れた顔を浮かべていると、背後からネネが話しかけてくる。
「うむ。あるじよ。やはりこの姿は好かんか?」
「いや、まぁ……。そんなことはないんですけど、少し話しづらさはありますかね……」
「まあ、正直に言えば、獣石を解除した姿への変更も出来る。しかしこの後やらねばならぬことがあるのでな。しばらくはこのままの姿で話をさせてもらうぞ」
やらなければならないこと、について疑問を持った俺はネネに質問しようとするも、彼女に話しかけるよりも前にノノがこちらに姿を現す。
「おい、ネネ。それにアルス。少し話をしたいんだが、良いか?」
ぴょんとようやく俺の元から下りるネネ。
彼女は先程とは打って変わって真剣な表情に変わる。
「これからについてかの?」
「ああ。そうだ。ネネ、お前はアルスについて行ったらどうだ?」
「それはわらわも考えておった。魔王軍の四天王を二体も倒し、里を救ったいい機会じゃしの」
俺は姉妹のやり取りについていけず、困惑する。
「えっと……。確か、獣石を扱えるネネは『勇者に従う』という里の掟があるんじゃないんでしたっけ……?」
「確かにそうだが、我々も考え方を改めないといけない。アルス。君がこの里を救ったんだ。真に仕えるのは誰なのか一目瞭然だろ?」
「いや、そんな……。大袈裟すぎですよ」
「おいおい、我があるじよ。そう謙遜するでないぞ。あるじはあの勇者なんかより遥かに英雄の器がある。このわらわに相応しいのは大陸を探してもお主しかおらんぞ」
「そう……ですかね……?」
神獣石を扱う彼女にそう言ってもらうなんて、何だか恐れ多いな。
「魔王軍の四天王は私とアルスが殆ど倒したが、まだ一人残っている。
この里には魔族が襲ってこなくなったが、きっとこの大陸のどこかに息を潜めているに違いない。その時に必ず私の妹が役に立つだろう。だから、ネネをどうか一緒に連れていってくれないか?」
ノノはまた頭を下げようとしていたので、俺はすぐさま首を大きく縦に振る。
「わ、分かりました! 俺で良ければ、彼女と一緒に残りの魔王軍討伐もお手伝いさせてもらいますよ!」
ネネも俺のパーティに加入してくれるのか。
アリシア同様、彼女も後悔させないようもっと頑張らないとな。
「それで、あるじよ。次はどこに向かうのじゃ?」
「ああ。一度、国王の元へ報告に戻ろうと思う。その前に先ずはアリシアを呼びに行かないとなんだけど……」
「ほう。あ奴もあるじの仲間じゃったか。それならこれからの冒険が楽しみじゃのう」
どこか揶揄するように微笑むネネ。
どこがなんだ……。と内心呆れていたが、俺は声に出さないでおいた。
☆
ネネとの再会を果たしただけでなく、彼女を二人目のパーティとして迎え入れたアルス。しかし、彼は魔王軍の四天王を二体も倒したことで、背後では魔王が既に動き出していた。
第三章では空に浮かぶ謎の城、魔天空城に囚われた一人の幼馴染を救うため、彼らは更なる躍進を遂げる。
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