第26話 魔王軍四天王の暗黒竜に勝利し、里での戦いに終止符を打つ(前編)

 アリシアを追う形でネネの救出に向かっていると、ようやく獣人達の包囲に辿り着く。


「アルス様! ご無事でしたか!」


 俺の元に駆け出してきたアリシアは心配そうな表情を浮かべていた。


「ああ、何とかあのベルゼブブは倒すことができたよ! それより、ネネはどこにい……」


「あるじっ!!」


 誰かを呼ぶ声と共に、一名の獣人がこちらに駆け寄ってくる。

 俺と同じぐらいの身長に、長い耳で銀髪姿をした獣人だ。

 彼女の風格と漂うオーラからどうやらこの包囲網で戦士達を指揮していた人物に見える。


「貴方がこの軍をまとめていた方ですか。俺とここにいるアリシアはネネの救出に来たのですが、彼女は今どこにいますか?」


 俺の質問に目の前の彼女は一瞬目を丸くするも、すぐさまぷんすかと怒りを露にする。


「おいおい、我があるじよ! 忘れたとは言わせぬぞ。わらわがそのネネじゃ!」


 俺は一度、辺りをキョロキョロ見回し、頬をぽりぽりと掻く。


「えーっと……。冗談ですよね……」


「失礼な! わらわは今、獣石の力を使っておる。何ならあの忌々しい勇者のしもべになっている証明のハンター証でも見せようか?」


 俺は自身をネネと名乗る人物に怒られた。

 が、どうやら彼女は俺達が助けに来たネネ本人らしい。

 獣石を使うとここまで姿が変わるのか……。


「あの、何か……、すいませんでした……」


「まぁ、よい。それより戦況は見ての通りじゃ。お主らが強いのは百も承知じゃが、ここまで囲まれたとなると、正直言って脱出は絶望的じゃ。とにかく倒して倒して倒しまくるしか逃げる術は無いじゃろう」


 見たところ、彼女には仲間を置いて自分一人逃げるという選択肢は無いらしい。


 里からここに来る際、他の何を犠牲にしてもネネを助けてほしいと長老達にお願いされたが、今の彼女にそれを言っても恐らく断られるだろう。


 なら、せめて俺とアリシアで精一杯目の前の魔族を倒し、彼女たちをサポートしないとな。


 それに、俺はネネにようやく合流出来たので、渡すものがあるのだ。


「あの……、ネネ様。族長のノノさんからこれを貴方に渡すようお願いされて来ました」


 俺は道具袋から神獣石を取り出し、彼女に渡す。

 その瞬間、ネネは大きく目を見開き、驚き声をあげていた。


「し、神獣石じゃと!? どこでこれを入手したのか!? いや……、今はよい。後で詳しく聞くとしよう。それよりも助かったぞ! これがあれば、わらわの力でこの戦況を必ず変えれるはずじゃ!」


 彼女が発した「神獣石」という単語が波紋のように広がり、周囲の戦っている獣人たちは鼓舞されたのか、魔族を次々と倒していく。


 よし、俺もいくぞと気合を入れ、周りの敵を倒そうとするも、何故か目の前の魔族は存在が無くなっていた。


「な、何が起こっているんだ!」


「アルス様! 魔族が次々と消えていきます!」


 アリシアの言う通りだ。

 魔族は黒い煙となり、どんどん姿を消していくのだ。

 異常事態に俺とアリシアは混乱していると、ネネが俺達に大声をあげる。


「おい、お主ら! 向こうから何者かが急接近しておるぞ!」


 彼女が指を指した方を見ると、全身を漆黒の鱗で覆った一体の巨大な竜が降臨していたのだ。

 魔族が消えていったのはこの竜が原因か……!

 煙となって消えた魔族を吸収することで、竜の発する黒いオーラはどんどん強大になっていくからだ。


 俺達の元へ現れた竜は物凄いプレッシャーを放ちながら大きな口を開ける。


「ベルゼブブが世話になったな。我は魔王軍四天王の暗黒竜。魔王様からの命令により、この里を滅ぼさせてもらうぞ!」


 言うが早いか、暗黒竜は俺達の元へ襲い掛かってくる。


 醸し出している尋常じゃないオーラから、実力はさっきのベルゼブブより遥かに上だろう。だけど、相手は竜だ。俺とアリシアは竜の種族に弱点をつくことができるスキルを持っている。


 俺は剣を構え、アリシアに向かって叫ぶ。


「行くよ、アリシア!」


「はいっ!」


 俺と彼女は暗黒竜が攻撃を加える前に、電光石火で一撃を加えようとする。


「「――――ドラゴンスラッシュ――――!」」


 スキルを使用した俺達は地面に着地するも、表情を曇らせていた。

 様子がおかしい……!?今何が起こったんだ?


 確実に致命傷を与える攻撃をお見舞いしたにもかかわらず、ダメージが入るどころか、剣が暗黒竜に到達しなかったからだ。


 攻撃を避けられた……?


 スキルが全く効かない謎の暗黒竜に、俺は微かに絶望を感じ始めていた。

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