第22話 【SIDE勇者】マジキチ勇者レオンくん、里の宝である神獣石を破壊してしまう

 俺は全力疾走で里に帰還し、キョロキョロと辺りを見渡すが、肝心のクソ獣が見当たらない。


 畜生!俺の失態を暴露するために送られた奴がここにいるはずなんだが、どこにいる?まさか、俺が早く到着しすぎたか?


 あの獣を始末する理由は俺が少しでも逃げる時間を確保するためだ。

 里に俺の失態が知れ渡った瞬間、全勢力をあげて捕まえられる。


 もう、俺は取り返しのつかないことをやってしまった以上、1秒でも早く里から逃げないといけない。これはアリシア達が戦場で魔王軍に気を取られている今行わないといけないのだ。


 里の中を歩き、獣探しを継続するも、運の悪いことに背後から俺を呼び止める声が聞こえてくる。


「勇者殿。帰って来ていたのか! それで、どうなのだ。戦況のほうは?」


 ゲッと気づいた時にはすでに遅かった。

 族長のノノが期待を浮かべた表情で俺に話しかけてきたのだ。


「あぁ、まぁ、ボチボチってところだな! やっぱり魔王軍の奴らも一筋縄ではいかないみたいだ! ハハハハ……ゲホッゴホッ……」


 それなりに満足するような返答をしたつもりだが、彼女は表情を曇らせる。


「装備が随分とやられているように見えるが……。本当はどうなのだ? あまり良くないのか?」


「い、いや。そんなわけがないだろ! 俺は勇者だ。戦場で失態を起こすわけがない!」


「まぁ、構わない。後で他の奴から聞くとしよう。それより、実はこの里に勇者殿同様、腕の立つ人間が来ている。今後のこともあるだろう。良かったら、一度顔を合わせてみないか? 実は前に勇者殿が言っていたアルスという名前だったが、どうも同一人物と思えないので、里の中に入ってもらっている」


 アイツ……。やっぱりこの里に入ってきやがったか!?


 俺は彼女を睨み、問い詰める。


「ノノ。アンタにはアイツを入れるなと前に言ったつもりだが、どうなっている? この俺を失望させないでくれるか?」


「なっ……!? 彼らは心が清らかでないと入れないダンジョンをクリアしている。それに、腕は確かなので我々から協力をお願いさせてもらったよ。これは勇者殿にとってもプラスではないのか?」


 フン。プラスどころか、大きなマイナスなんだよ。アイツらは!

 この女を今すぐ殴ってやりたい気持ちになったが、俺は出来る限り冷静になり、怒りを鎮める。


 他に気になることがあったからだ。

 彼女が大切そうに持っている売れば高そうな宝玉について俺は問いただす。


「なんだ、このオーブは?」


「ああ。これは、妹ネネの力を更に解放する神獣石だ。これがあれば、戦況を大きく有利にすることが出来る」


 彼女の説明に俺はウンザリ顔を浮かべる。

 ノノに認められたアルスに、更に力を解放するネネ。

 一方で何も功績を残せなかった俺は勇者の資格が失うことは既に確定している。


 そんな状況を改めて整理した瞬間、俺はニタリと笑みを浮かべる。 

 あいつらの足を引っ張りたくなったからだ。

 今すぐこの里から逃げないといけない状況の俺だが、結局のところ遅かれ早かれ地獄に落ちるのは確定している。


 しかし、アルスやクソ剣聖といった他の奴等はこの先の運命がまだ不確定だ。

 あっけなく戦場で死ぬかもしれないし、運良く功績を残すかもしれない。


 もうこの際、俺が不幸になるのは変わらないのでどうでもいい。

 だけど、俺が地獄に行くならあいつらを道連れにしてからだ。


 この思考に辿り着いた瞬間、今自分が何をするべきか分かった。

 俺はノノが大切に持っている神獣石を取り上げ、地面に叩きつける。


 ガシャアンッッ!!


「な、何をするっ!!??」


「ざまぁみろ。これでこの里は終わりだ」


 粉々になった神獣石にオロオロする族長のノノ。


 彼女の反応に満足した俺は、早足で里を後にしていた。

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