第21話 【SIDE勇者】指揮がゴミすぎてブチギレられる

「リザードマンの部隊が後退している!」

殿しんがり部隊も魔王軍から追撃を受けているぞ!」

「他所の部隊も全てだ!」


 獣達の終わらない報告に我慢の限界を迎えた俺は彼らに怒声を浴びせる。


「てめえらぁぁ! この俺様が来てやったのに何、手ェ抜いてんだあぁぁ!」


「勇者様! 一度指揮権を我々に交代しましょう! このままでは我が軍が全滅してしまいますぞ」


「まだ勝負はついてないだろっ! もう一回俺にやらせろ!」


 俺は再度この軍の策を巡らすも、周りの獣人たちは不満の声を次々と漏らす。


「ふざけるな! これは遊びじゃないんだぞ!」

「おかげで被害が甚大だ!」

「勇者様が来てからというもの戦況はますます酷くなるばかり……」


 ……ッ!獣風情が。一回俺の剣で黙らせてやろうか?


 俺は露骨に苛立ちを露にしていると、不意に見慣れない獣人が姿を現す。

 雰囲気からして数百の兵をまとめている軍の長だ。


「オイ、さっきから変な指示がくるおかげで、戦場は壊滅的だ。おかげで俺がわざわざ顔を出しに来たがどうなっている?」


 ったく……。自分の役職も理解していない奴がいたとはな。


 俺は兵を束ねる獣人まで近づき、吐き捨てるように命令する。


「アンタの仕事はここで口を動かすことじゃないだろ。お前が一人で100体の魔族を倒せば済む話なんだ。ほらさっさと帰った」


 俺はシッシと獣を追いやろうとするも、何故か彼は歯向かう姿勢を見せてくる。


「なんだお前。さてはキサマだな! 我が軍をここまで絶望的状態に追いやったのは!」


「オイオイ、口を慎めよ。俺は勇者だ。俺の一言でお前の首なんかふっ飛ばされるんだぞ」


 俺と獣人が睨み合っていると、別の報告が耳に入る。


「急報ッ! 急報ッ! ネネ様の部隊が魔王軍に囲まれています!」


 あー。そういえばあのクソ奴隷は前線で戦ってたな。

 ッたく。大して強くないのに一丁前に魔王軍に挑みやがって。


 そんなことを考えていると、周囲の獣人達はより一層騒ぎ立てていた。


「あのネネ様が、押し込まれているのか!?」

「もう、この里はおしまいだ!」

「急いでネネ様を救出しに向かわねば!」


 ガタガタとうるせぇ奴らだ。

 俺はバッと手を前に出し、大声で周りに命令する。


「ええいっ、こうなったら、全軍前進だ!」


「お前もう帰ってくれよ!」

「頼むっ! 頼むからもうここから出ていってくれぇ!」

「勇者様を頼った我々が間違いだった!」


 誰も命令を聞かなくなったことに、俺は怒りが込み上げてくる。

 こいつらッ……!一回見せしめにブチ殺してやろうか?


 黙らせるとしたら、先ずはこの軍の長だ。

 俺はそいつのほうに顔を向けるも、何やら別の獣人に耳打ちをしている。

 耳打ちされた獣は内容を理解したのか、数回頷くと、なんと戦場から駆け足で離れていった。


「オイッ! そこのお前! アイツに何をした!」


「なに。お前が本当に勇者なのか確かめるため、ノノ様に人間の国王に会ってもらうようお願いしようとしていたところだ」


「ッざけんな! そんなことが許される訳ねぇだろ! こっちは勇者が剥奪される瀬戸際なんだぞ!?」


 俺はすぐさま剣を抜き、里に帰ろうとする獣人を追いかける。


「オイ、勇者! キサマ何をしている!」


「何って決まってんだろ! 里への報告は誰一人としてこの俺が許さねぇ! 分かったら俺の言うことを聞け!」


「ヒッ……ヒイィィィィ!?」


 俺は逃げる獣人をバターみたいに切り裂くため剣を振り下ろすも、何故か金属がぶつかる。


 キィィィィィィン!


 瞬間、俺は数十メートルほどぶっ飛ばされ、ズザザッとみっともなく、地面に転がる。


「ぐはっ……。な、何が起こっている!?」


「はぁ……。ゴミの鳴き声が聞こえてきたと思いきや、案の定貴方でしたか……」


 女神とも思える金髪碧眼女が視界に入った瞬間、俺は悲鳴をあげそうになる。


 剣聖のアリシアがどうしてここにいる!?

 ちゃんとアルスは里の中にいれるなと言ったはずだぞ。


 まさか、アイツ……。里の中に入れてもらってるんじゃ……!?

 とにかくヤバい。今すぐこいつには消えてもらわないと。


 俺は立ち上がり、剣を構える。


「どけっ、アリシア! そいつは俺が殺さねえと駄目なんだよ!」


「はぁ……。次は目玉をくりぬいて欲しいのでしょうか?」


 一向に俺の前から消えない彼女に俺はとうとう限界を迎える。


「お前のその華奢な体で俺を斬れるワケねぇだろうがぁっ!」


 俺はアリシアに向かって剣で襲い掛かるも、シュパッという音と共に、動きを停止していた。


 有り得ないスピードで彼女の一撃が入った瞬間、俺の両手剣は両断され、間をおいてパックリと防具が割れたからだ。


 そこらの安い剣と鎧じゃない。勇者の俺が借金をしてまで手に入れた装備。

 それが、1秒も経たず憎い相手に壊される。


「なんっなんだよ! もおおおお!!」


 俺は指揮を投げ、アリシアから逃げるためダッシュで戦場から離れていった。

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