第20話 10年要する里の奥義を一瞬で取得してしまう

 観客の全員が撤収し、施設には俺とアリシアに族長、彼女の側近数名が残っていた。


「これは、お渡しします」


 俺は神獣石と呼ばれる黄色いオーブをノノに差し出す。


「良いのか?」


 何故か躊躇する彼女に俺は違和感を覚える。


「大切な物なんですよね? それに、我々人間が持っていても使い道が分かりませんし」


「あ、ああ……。そうだな……。これは里の中でも選ばれた者しか扱えない」


「…………」


「…………」


 ?


 何故かノノは神妙な面持ちで口をつぐんでいていたが、ようやく言葉を発する。


「入り口での対応、並びに試すような真似をして悪かった。謝罪の言葉も無い」


 別に全く気にしていないのに謝られた。

 しかし、この場に一人、俺の気持ちとは別の感情を抱いている人物が傍にいた。


「話が分かってくれたなら良いんです。私達は決して怒っていませんから。ええ。決して」


 怖いなぁ……。

 微笑みを浮かべているアリシアだが、目が笑っていない。

 今までの扱いに色々と思うことがあったのだろうか。


「あ、ああ……。どうやら何か手違いがあって、君たちのことを誤解していた。本当に申し訳ない。それで、是非君たちの力も借りたいのだが、構わないだろうか? 今は勇者の力を借りているが、戦力は多いに越したことは無い」


 勇者という単語がノノから発せられたことで、俺はすぐさま彼女に質問する。


「あの、それより勇者レオンがここに来ていると聞いたのですけど……?」


「ああ、そうだな。数時間前戦場に向かったが、まだ報告は無いな。もうじき来ても良いと思うんだが……」


「その戦場に出来れば俺達も向かいたいのですが、可能ですか?」


「そうだな。それならこちらからお願いしたいのだが、アルス。君は戦いに関してかなり才能がある。どうだ、勇者からの報告が来るまでの間、里の奥義を修得してみないか?」


「さっきの能力……ですよね?」


 先程の決闘で、ノノは全力を出したか分からないが、俺は何とか勝利することができた。

 だが、俺は彼女の「ウェポンボックス」に大いに苦しめられている。


 他の武器を瞬時に出し入れする能力。

 確かに。使いこなせるようになれば、今後の冒険で役に立ちそうだ。


 しかし、俺はノノにどうしてもお願いしたいことがあった。


「念の為、アリシアだけ先に戦場に送っても良いですかね?」


 ノノの態度から、レオンがいることで戦場が大惨事になっているとは考えにくい気もするが、やはり一応、剣聖の彼女を送っておきたかった。


 それに、これは悲しい事実だが、俺に出来てアリシアに出来ないことがそこまで無い以上、戦場に彼女一人を赴かせるだけで、今回の件は解決できそうな予感はしている。


「? 別に構わないが。それだと、二人はしばらく別行動になるが良いか?」


「はい、それで大丈夫です。アリシアも良いよね?」


「ええ。アルス様のご判断ですから、指示に従います」


「念の為。言っておくけど、無理だけはしないでね」


 俺の頼みを最後に、アリシアは戦場へ向かっている獣人達に付いていこうとするも、何故か彼女はこちらにUターンする。


「さ、最後に1レベル分だけ、経験値の付与をお願いしてもよろしいでしょうか?」


「あ、ああ……」


 俺は両手を差し出すアリシアに、ポイント・エージェンタの能力を1レベル分だけ付与していた。




 アリシアと別れた俺は決闘を行った隣の施設に案内されていた。

 室内には自分の背丈を大きく上回る巨大な四つの岩が設置されており、各岩の前には武器が用意されている。


「剣、斧、槍、弓。この施設にある武器を使って岩砕きに成功すれば、砕いた際に使用した種類の武器をいついかなる時でも取り出すことが出来る」


 彼女の指示に従い、俺は用意された武器に近づく。

 どうやら、普段使っている武器よりもやけに重そうだな。

 試しに俺は身体強化を使用し、片手で斧を持ち上げる。


「おいおい、あまり無理をするなよ! この施設の武器の重量は全て通常の1000倍あ……」


 ドゴォォォォォォォォン!


 ノノが説明をし終える前に俺は斧を振り降ろしてしまい、彼女は驚愕のあまり後ずさりをしていた。


「一瞬で岩砕きに成功するだと……!? それも片手で!?」


「え、ええっと……。これで、購入した斧は好きに出し入れ出来るんですよね?」


「ああ……。そうだが……。斧での岩砕きは私でも10年を要したんだぞ!?」


「えっと……。偶然かもしれないので、他の武器も岩砕きが可能か挑戦してみてもいいですかね?」


「あ、ああ……。やってみろ」


 その後も俺は施設にある武器を全て用いて岩砕きにチャレンジするも、


 ドゴォォン!

 シュパッッッ!

 ガラガラッ!


 と全ての岩を砕くことに成功してしまい、ノノは「天才……!?」と呟いていた。


 よし。遂に「ウェポンボックス」をマスターすることができたぞ!


 全ての武器を扱えるようになり、嬉しい気持ちで満たされた俺だが、全身に疲れがドッと押し寄せてくる。


 どうやら、身体強化を使い過ぎたらしい。実はこのスキルもまだ取得したばかりでいまいち慣れていなかったりする。まだまだこれからだな。


 そんなことを考えていると、後ろのほうからノノが俺に声をかける。


「少し休憩するか? まさか全ての岩砕きに成功するとは思わなかったが、流石に疲れただろ?」


 ノノの指示に従い、近くの椅子に腰を下ろすと、俺はふと彼女に疑問を尋ねる。

 前から聞きたいことがあったからだ。


「あの……。質問があるんですけど」


「なんだ?」


「その神獣石はどういった効果があるのですか?」


 俺が岩砕きを行っている最中も、彼女はオーブをずっと肌身離さず持っていた。

 それに、この里で生活している獣人達の対応からどういった物なのかずっと気になっていたのだ。


「ああ。神獣石はあらゆる獣石の中で、最も力を解き放つことが出来るアイテムだ。獣石は私の妹であるネネしか扱えないが、後で彼女を紹介してやろう」


 突然出てきたネネという名前に俺はビックリ顔を見せる。


 ノノはネネの姉だったのか。

 確かに、言われて見ると、彼女の顔はどこかネネの面影がある。


「ネネ……ですか?」


「なんだ。私の妹を知っているのか?」


「え、ええ……。昔冒険者として同じパーティだったことがあるんです」


「ほう。そうだったのか。それは少し大変だっただろ?」


 「大変」が何を指しているのか分からないが、ネネと同じパーティだった頃、彼女が足を引っ張るということは無かったはずだ。


 実際、俺は彼女の魔法をかなり信頼していた。

 とはいえ、ネネ本人は今現在俺のことをどう思っているのか分からないが……。


「ネネと一緒にいて大変だったことはありませんでしたよ。それに、彼女はムードメーカーでしたし、パーティに欠かせないメンバーの一人でした」


「そうか。それを聞けて安心したよ。まぁ、アイツはちょっとドジなところがあるんだ。獣石を扱える者は『勇者を探す』という里の掟があるのだが、ネネは旅立つ日に獣石を持っていくのを忘れているしな……」


 呆れた顔で妹のことを話す彼女。


 確かに。ネネならありそうだな……。

 それであっけなく捕まってしまい、奴隷として売り飛ばされたんだろうな……。


 でも結局ネネは勇者レオンのパーティに所属し、里の役目を果たしていることから、実は結果オーライだったりするのだろうか……?


「それで、私からのお願いなのだが、戦場の報告があるまで、良ければもっとネネの話を聞かせてくれないか?」


 先程とは打って変わって笑顔を浮かべる彼女。

 随分妹のことを大切にしているらしい。


「はい! 俺でよければ話しますよ!」


 しばらくの間、俺はノノにこれまでのネネとの思い出話をした。




 遂にアルスに心を開いた族長のノノ。


 しかし、彼らは戦場が大惨事であることをまだ知らないでいた。


 第二章はいよいよ後半戦へ突入する。

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