第19話 大陸最強を誇る族長に勝利し、前人未到の強さに到達する

 里の中に入れてもらった俺達は各施設を通り抜け、獣人達に案内をされていた。


 想像していたより大きいな……。以前訪れたアルス村より何倍もの広さがある。


 俺とアリシアは彼らの後を黙ってついていくと、一際大きい建物が目に入る。


「訓練施設だ。中にノノ様がおられる」


 俺とアリシアは彼らに従い、一階の訓練施設を進むと、奥には既にノノと呼ばれる族長が待っていた。


 二階からはぞろぞろと観客席が埋まっていき、ノノが弓を装備していることに俺は違和感を覚えたが、そんな疑問を無視して彼女は口を開ける。


「少年。あの『試練のダンジョン』を攻略し、神獣石を持ち帰ったらしいな」


「はい。神獣石……? かどうかは分かりませんが、あのダンジョンから帰ってきたときに、傍にこのオーブがありました」


 そう言って俺は黄色いオーブを取り出した瞬間、彼女は僅かに眉をひそめる。


「お前が持っているそれは我々でも入手できなかった宝玉だ。詳しく話を聞きたいが、お前達は人間界で散々なことをやってきたと聞いている。偽の宝で我々をたぶらかそうとしているかもしれない」


「これにどれほどの価値があるのか分かりませんが、この期に及んで、偽物だと!?」


 怒りを露にするアリシアだが、ノノは顔色を変えず答える。


「フッ。証明方法は簡単だろ。お前達にどれくらい実力があるのか見せればいい。あのダンジョンを攻略したと言うなら私と対等に戦えるはずだ」


「アルス様! アイツは私がやります!」


 懸命に訴える彼女だが、ノノはすぐさま否定する。


「いいや、駄目だ。私はそこの少年、アルスに興味がある」


 どうやら、俺は彼女に値踏みされているようだ。

 もし、本当にあのダンジョンを攻略したのならどれくらい強いのかと?


「大丈夫だ、アリシア。やばくなったら、すぐ降参する。それに、多分ここで戦っても命を失わないと思う」


「良く気づいたな少年。ここは建物自体が魔導具になっている。どんな致命傷を受けても、HPは必ず1残り、死なない」


 施設に入った瞬間、漂うオーラに何か違和感があったが、やっぱりそうだったのか。


 ノノが全力で戦いを挑むのか不明だが、少なくとも俺は出せる限りの力を尽くす必要がある。彼女のオーラから、どう考えても平均的な戦闘力を遥かに上回っているとしか考えられないからだ。


 俺は別の案内人の指示に従い、移動を開始すると、客席の方から獣人達の会話が聞こえてくる。


「オイオイ、相手は人間なんだろ? やるだけ無駄なんじゃないのか?」

「当たり前だ。ノノ様はかつて魔王軍の四天王を一人倒している」

「ノノ様は大陸最強のお方だ。実力で並ぶとしたら勇者様だけだ」


 戦う準備が整い、剣を構えると、ノノは俺に無表情で吐き捨てる。


「今更言わなくてもいいと思うが、我々は現在魔王軍と交戦中だ。少なくともお前は全身全霊で私に挑んで欲しい」


 全身全霊か……。あまり長引く決闘をしたくないのだろう。


 彼女が所定の位置に立つと、勝敗の判定をする役目の獣人が姿を現す。


 俺とノノの距離は約50m。


 始めっ!という合図が聞こえた瞬間、身体強化で彼女との距離をゼロにしようとするも、俺はすぐさまこれを却下する。


 そう。ノノの放つ矢は途轍もない速さで的確に俺を捉えていたからだ。

 身体強化で駆け出すと、彼女の矢をもろに直撃し、即詰みだ。


 しかし、俺は彼女に接近する必要がある。弓の装備を両断し、無力化する必要があるからだ。


 結果、俺は身体強化で視力を強化し、彼女の矢を全て斬り落としていく。


「オイ、あのガキッ! 残像が残る速度の矢をこの距離で処理しやがったぞ!」

「速えぇ……! アイツ、どういう反射神経してんだ!」

「しかも盾をも貫くノノ様の矢を両断って……。バケモノだろ」


 じりじりと前進していく俺は彼女との距離がゼロになりつつあった。

 距離が近づくにつれ、彼女の矢は重さも兼ね備えた剛弓へと変わる。

 しかし俺はそれら全てをやり過ごし、彼女との距離が遂にゼロになった。


 俺は剣を彼女の装備に向かって振り落としたが、即座に異変を感じる。

 キィン!と聞きなれない金属音が響き渡り、彼女の弓が剣になっていたからだ。


 スキル?魔法?こんな能力があるのか?


 剣同士の鍔迫り合いになるも、俺は一度戦いを仕切り直すため、一回転して後退する。

 床に着地し、今度は身体強化で距離を詰めようかと考えるも束の間、今度は俺目掛けて一直線に斧が跳んできた。


 手斧……!?


 カキィィィィィィィィィン!


 咄嗟に俺は剣で弾いたが、ビリビリと手が痺れる。ガーディアンナイトに引けを取らない物凄い力だ。


 それにしても……。

 一体、何なんだ彼女の能力は!?

 いきなり武器を取り出しては、近距離、遠距離関係無く攻撃を与えてくる。


 加えて、この人の恐ろしいところは彼女自身があらゆる武器の扱いに長けていることだ。恐らく剣術一つを取っても、剣聖のアリシアと同等の実力があるだろう。


「人間相手に、我が里の奥義を使う羽目になるとはな。誇っていい。生まれて初めてだ」


「奥義……。武器を出し入れする能力ですか?」


「ああそうだ。『ウェポンボックス』は剣、斧、槍、弓の四種類を好きなタイミングで取り出すことが出来る」


「そんな能力があるんですか……!?」


 実際に彼女の「ウェポンボックス」を目の当たりにして分かる。

 どう考えても、これはトップクラスの能力だ。

 自由自在に好きな武器を使えるなんて、それこそ俺達人間の常識を超えている。

 あらゆる武器を自在に繰り出してくるため、彼女の攻撃が全く読めないからだ。


 今までのどの敵よりも戦いづらいな……。

 こんなところで足踏みしている場合じゃないのに。


「フッ。この勝負で私に勝てたら、お前にもこの奥義を教えてやっても良い。まあ、どうせ無理だろうがな」


 言うが早いか、彼女は槍を構え、物凄い速さで突進してくる。


 俺はすぐさま身体強化で腕を剛力にし、槍の柄を両断する。


「何ッッ……!?」


「ノ、ノノ様の槍を斬っただとっ!?」

「オイ、さっきからアイツの剣筋が全く見えないぞ!」

「どういうことだ? ただの人間じゃないのか!?」


 一瞬戸惑いを見せたノノだが、今度は殆どゼロ距離の状態で、俺に向かって手斧を投擲する。


「避けてみろっ! 少年!」


 これも、避けては駄目だ。


 俺は身体強化で体を強化し、剣で斧を破壊する。


 弓を使用済みにさせ、斧と槍を損傷。手斧を出して以降、弓を使用する機会があったにもかかわらず、ノノは全く扱わなくなった。恐らく取り出す武器は無限ではないのだろう。


 そして、残りの武器は彼女が現在装備している剣。


「言っておくが、私は剣で魔王軍四天王の一人を沈めた」


 彼女の剣と俺の剣が打ち合った瞬間、火花が散り、ギンッと鈍い音を立てる。


 一瞬、状況は五分五分かと思ったが、次第に俺はノノにジリジリと剣で押し返されていた。


「どうした少年? その程度の力で『試練のダンジョン』を突破したのか?」


「ぐっ……」


 俺は再度身体強化をかけ、脳のリミッターを解除する勢いで肉体に負荷をかける。これが今出せる俺の限界だ。


「これでどうですかっっ!!」


 ノノを退けるため俺は剣に力を入れた瞬間、彼女の剣はとんでいき、床にカランカランと着地する。


 これで終わったか……?

 訓練施設には俺がゼーゼーと肩で息をする音のみしか存在しない。

 観客全員はあんぐりと口を開け、場内には沈黙が舞い降りていたからだ。


「参った……。降参だ」


 ノノは両手をあげ、負けを認めていた。

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