第18話 「試練のダンジョン」を攻略したことで、馬鹿にされた里の門番に謝罪される

 ぱちっと目を覚ますと、アリシアが長い髪の毛を耳にかけ、顔をのぞかせる。


「お目覚めですか? アルス様」


 俺はどうやら彼女の太ももに頭を乗せていたらしい。


「って、ここどこっ!?」


 すぐさま立ち上がり辺りを見回すと、一面に花畑が広がっている。

 おかしい……。

 さっきまでガーディアンナイトと戦っていたはずだ。


「アリシア! 何が起きたか知ってる?」


「ええ。ガーディアンナイトを倒した直後、フロア全体が光に包み込まれましたので、それが原因かと思われます」


「現実世界のどこかに飛ばされちゃったってことになるのかな?」


「いいえ。実はここ周辺をしばらく散策してみたのですが……どうやら私達の居場所から約半径1kmまでしか世界が存在しないみたいですね……」


「じゃあ、それより外って……」


「実は言いづらいのですが……。ただの壁になっていました」


 流石アリシアだ。俺が倒れている間にわざわざそこまで調べてくれたのか。


 彼女の情報を元に俺は考える。

 ここが先程とは別のダンジョン最深部なら、脱出の魔法陣があるはずだ。

 しかし、厄介なのは、この空間がガーディアンナイトにより生成された場合だ。

 ガーディアンナイトがここにいない以上、現実世界への戻り方が分からないので、最悪出られなくなる。


「とにかく魔法陣を探そう」


 そう言って、俺とアリシアは閉じ込められた空間内をくまなく探した。



――30分後。


「見つからないね……」


「そう……ですね」


 どうすればいいんだ?ここがダンジョンでないのならかなり不味い。


「こ、このまま一生、二人で過ごすのも悪くありみゃせんよね?」


 何故か全身をくねらせている彼女に、俺は困惑する。


「冗談……だよね?」


 彼女はたまにおっかない発言をするだけでなく、冗談か本気なのか分からないことを言うので、返答に困ることがよくあった。


 探索活動に少し疲れた俺は座り込むと、アリシアは剣を抜いてその場で二、三度素振りを行う。


「この空間ごと、剣で斬ることができれば良いのですが……」


 「空間を斬る」か……。

 出口となる魔法陣を探している間、俺はまずその発想に至らなかった。

 そもそも空間を斬るなんて、100人いれば十中八九100人が不可能だと答えるだろう。


 いや……。

 剣聖として剣の道を極めた彼女なら不可能ではないのかもしれない。

 俺は何気なく彼女のステータス画面を開ける。


====================================

ユニークスキル:【剣聖】Lv2


Lv1⇒大器晩成

アンロック条件:なし


Lv2⇒ドラゴンスラッシュ

アンロック条件:入手経験値が500000000を超える。


Lv3⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が1000000000を超える。


Lv4⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が5000000000を超える。


Lv5⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が10000000000を超える。

====================================


 まだ、残りスロットは3つもある。それに、今の俺なら彼女のユニークスキルLv3の解放はそう難しくない。

 俺はその場から立ち上がり、彼女に説明する。


「アリシア。もう一度ポイント・エージェンタの能力を使っても良いかな?」


 そう告げた瞬間、彼女はシュパッッと両手を前に出す。

 どうやら、前回肩に触れて付与したのはあまり気分が良くなかったらしい。

 俺は彼女に両手を合わせ、ポイント・エージェンタの能力を発動する。


「ふわあぁ。アルス様の手から温かいものが流れてきますうぅ……」


 う、うん……。

 今の彼女の状態をあまり直視しない方が良さそうだな……。


 経験値の付与を完了したところで、俺は彼女から手を離し、ステータス画面を確認する。


====================================

ユニークスキル:【剣聖】Lv3


Lv1⇒大器晩成

アンロック条件:なし


Lv2⇒ドラゴンスラッシュ

アンロック条件:入手経験値が500000000を超える。


Lv3⇒絶対両断

アンロック条件:入手経験値が1000000000を超える。


Lv4⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が5000000000を超える。


Lv5⇒LOCKED

アンロック条件:入手経験値が10000000000を超える。

====================================


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

〇ユニークスキル:絶対両断

このユニークスキル保持者は半径5m以内の敵及び攻撃を自動的に斬ることが出来る。攻撃は必ず命中する。敵にかけられた特定の能力も断ち斬ることが出来る。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「ヨシッ!! これで脱出できるぞ、アリシア!」


「もっと経験値の付与を……ゴホン。は、はいっ! 今、スキルを使いますねっ!」


 そう言って彼女は剣を構え、集中する。


「――――絶対両断――――!」


 彼女が剣を振った瞬間、花畑だった空間はバラバラと崩壊し、俺達は元の世界へと戻ることが出来た。




「ハハハ! 早かったな! その様子だと。諦めて帰ってきたのか!」


 俺とアリシアは再度、里の前に辿り着くと、二名の門番がニタニタと笑みを浮かべている。


「いいえ。俺達は無事あのダンジョンを攻略することが出来ました」


「ハァ? 人間風情が何を言ってるんだ! あそこは族長のノノ様でも攻略できていない。馬鹿も休み休み言え!」


 露骨に面白くなさそうな顔を浮かべる門番たちに、俺は黄色いオーブを差し出す。


「ダンジョンを攻略した後、洞窟の祠にこのオーブがありました。もしかしたら、これが攻略証明になるのではないでしょうか?」


 二名の門番達はオーブが目に入るや否や、みるみるうちに表情を変える。


「し、神獣石ッ! 本物!?」


 どうやらこの宝玉は神獣石という名前らしい。

 彼らは声を荒げ、何やら慌ただしい様子に豹変する。


「お、おいっ! どうすればいいっ!?」


「とにかくノノ様に報告だっ! 急ぐぞ!」


 ダダダダダダッと駆け出した二人を数分間待っていると、彼らは再び物凄い勢いでこちらに戻ってくる。


「先程は失礼した! ノノ様が呼んでいるので、至急里に案内する!」


 門番たちは一度その場で深々と頭を下げ、俺達を誘導する。


 遂に「神獣の里」に入れるのか……。それに、この先にレオンがいる。


 俺とアリシアは真剣な表情で門番についていった。

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