第45話 【SIDEアリシア】決戦【闇勇者】レオン

 魔王軍を駆逐した私が魔天空城の本丸に突入すると、玉座に頬杖をつき、マントを着たレオンがいた。


 「神獣の里」で会った時と違い隻眼隻腕だが、それ以上に彼から放たれる闇のオーラに私は眉をひそめる。


「まだ生きていたのですか?」


 私は何の躊躇もなく、「無刀流」で剣を抜く。


「ハッ! またオマエか! 相変わらずしぶとい女だぜ!」


「『しぶとい』ですか……。寧ろ貴方は張り合いが無さ過ぎて、欠伸が出るくらい弱いのですが……」


「このクソ女がッ! 今回こそ白黒つけてやる!」


 玉座から立ち上がったレオンはすぐさまこちらに斬りかかって来るかと思いきや、魔法を詠唱し始めたので、私は目を大きく見開ける。


「――――ダークスフィア――――」


 辛うじて私はレオンから放たれた闇玉を「絶対両断」で処理していたが、突如放たれた魔法に戸惑っていた。


 以前より力を増している?


「成程な。間合いに入ったもの全てを切る魔神ってワケか。ならこいつはどうだ?」


 余裕そうに笑みを浮かべるレオン。

 誰に対して口を聞いているのか、私は心底怒りがこみ上げてくる。

 弱い癖して強者に舐めた態度をとるタイプの人間が、この世で一番殺意が湧くからだ。


「――――ダークスフィア――――」


「――――絶対両断――――!」


 同じ魔法を放つレオンに呆れたが、剣で両断した瞬間、私はぞくりと戦慄する。


 ドゴオォォォォォォォン!!


「ぐっ……!?」


 反応が間に合わなかった……。

 魔法に「爆破」の効果を付与したのか!

 私は緊急回避でふわりと後方に飛び、致命傷は避けたが、それでも幾らかのダメージは受けていた。


 あのゴミ勇者から先手を取られるとはッ……!。

 屈辱感に襲われた私はキッとレオンを睨み付けるも、追撃を加える形でヤツは更に魔法を詠唱する。


「――――ダークスフィア――――」

「――――ダークスフィア――――」


「二重詠唱ッ!?」


 今度は魔法を両断せずに避けるも、床に被弾したと同時に爆発が起こる。


「うっ……!?」


 斬ると爆発する上に、避けても効果は継続されるのか!


「ハッ! 剣聖っていうのはその程度なのか?」


 コイツッ……!!

 理由は分からないが、以前より格段に強くなっているっ!?


 見違えるほど強くなったゴミ勇者。

 しかし私は努めて平静を装い、パンと土煙を払う。

 大体の実力は分かったが、私はこんな奴に負けるほどやわじゃない。

 それに、私はレオンに対して一言言いたいことがあった。


「さっきから遠くで魔法を放つばかりですが、その腕で剣は使えないのですか?」


 レオンの魔法に打つ手が無くなったわけでは断じてない。

 やはり私が剣聖であるが故なのか、奴とは剣で雌雄を決したいのだ。

 私がレオンにそう問い詰めると、奴は隻眼でまじまじと見返してくる。


「ハッ! 良いぜ! こっから先は剣で戦ってやる!」


 意気揚々とするレオンに対して私は緊張感を高める。

 明らかに強化された奴がどういった剣術を見せるのか、警戒する必要があったからだ。

 そして、案の定レオンは予想外の詠唱をし、剣を召喚する。


「――――エクスカリバー――――」


 そう言い終えると、奴は禍々しいオーラを放つ、紫色の刀身の剣を装備していた。


「嘘……でしょ……」


 今コイツはその口でエクスカリバーと言ったのか?

 理解が出来ず状況に困惑していると、レオンは得意げな顔で私に言い放つ。


「アルスの助けなしにどこまでついてこれるのか、テストしてやるよ!」


 私は一瞬にしてレオンとの距離を縮め、剣と剣がぶつかるも、違和感を感じていた。

 不可視の剣である「無刀流」を難なく見切った彼から実力の底が全く見えなかったからだ。

 いや、それ以上に……。

 何故「絶対両断」が効かない?


 危険を察知した私はすぐさま距離を取るも、レオンは手を広げて高笑いする。


「クックックッ! 『鍔迫り合い』なんて久しぶり何じゃねえのか、剣聖さんよぉ!」


 レオンの発言に対し、私はただ黙ることしかできない。

 スキル「絶対両断」は対象が私に近づいた瞬間、自動的に不可避の一撃が入る。

 「絶対両断」を取得してからというもの、全ての敵に対してこのスキルを使い、「一撃」で葬り去ってきた。

 アルス様の経験値付与から、私の攻撃に耐えられる敵が存在しなかったからだ。


 しかし、今目の前にいるゴミ勇者は私の一撃を難なく受け止めている。

 となれば、奴の持っているスキルは一つしか思い当たらない。


「絶対必中を無効化するスキルですか?」


「ああ、そうだ。俺のスキル『キャンセル』がある限り、お前のその『絶対両断』は効かねぇ。そうと分かればとっとと降参するんだな!」


「誰が降参するものですか!」


 私はレオンに向かって更に何度か剣を打ち込む。

 アイツは毎晩夢の中で殺してきた!

 だからこんなところで負けるわけにはいかない!


 カキィン!カキン!キン!キン!


「ハッハッハッ! よえー。弱すぎるぜ!」


 くっ……。一回の攻撃毎に、二回の反撃を食らうせいで、反応に追いつけないッ!!


 私はみっともなく再度レオンと距離を置き、呼吸を整える。


 よりによってこんなところで使う羽目になるとは……。

 正直こんな奴にこれ以上スキルを発動することに悔しさがこみ上げてくるが、やむを得ない。

 私はスキル発動段階にすぐさま入り、剣は光を帯びる。

 今まで獲得したスキルポイントを使用し、取得した剣スキルだ。


「――――燕返し――――!」


 目にも留まらぬ速さで一撃をお見舞いし、更に電光石火の如く慈悲なき二撃目を放つ。


「ぐおっ……!?」


 確実にダメージは通っているが、まだ致命傷にはなっていない!


「ハッ! ちょっとはやるじゃねえか!」


 ぶっきらぼうに言い放った瞬間、レオンの刀身は更に闇を帯びる。


 奴も何かしらのスキルを使うつもりかっ!?

 だとしたら、戦いを最速で終わらせる必要がある。

 アイツが技を放つ前にっ!


「させるかっ!」


 私は奴を殺すつもりで全身全霊のスキルを発動する。

 剣聖の持つあらゆるスキルの中でも切り札に相当する奥義だ。


「――――流星――――!」


 神速で繰り出される剣聖の10連撃に奴は耐えられるわけがなかった。

 次々と剣閃を加え、最後の一撃を振り下ろした時には全身を完全に吹き飛ばすことに成功していた。


 威勢のいいレオンだったが、私の必殺技に降参したのか、諦めを認めたように呟く。


「フッ……。勝てねえ…………か……」


 レオンが倒れ、意識を失った瞬間、私はすぐに奴の元へ駆け出す。

 「神獣の里」での功績を横取り件について、詳しい話を聞かなければいけないからだ。


 しかし、私の目的は潰えてしまう。

 何故なら、突如目の前に現れた女性が意識を失ったレオンを片腕で抱えていたからだ。


「あらあら~。駄目じゃないの、そんなに勇者を虐めちゃ~」


 誰?いや、いつからここにいた?

 自身より一回りほど年上の人物だったが、私は礼節をわきまえることなく彼女に向かって告げる。


「貴方がどなたか存じ上げませんが、そこのゴミ勇者の味方をするのは許しませんよ」


「私は魔王よ~」


「は……何を言って……」


 刹那、目の前の女性からオーラが放たれ、私は体全身の震えが止まらなくなる。


 何だこのオーラは……!?

 心臓を握られているみたいで息苦しい!!


 圧倒的恐怖の中、収めた剣に手を伸ばすが、動物的本能が働いたのか、それより先ができなくなる。どうやっても、剣を抜けないのだ。


「このオーラを見て分かったかしら~?」


 絶望的な威圧感に押し潰された私は誰が目の前に立っているのか、ハッキリ分かった。

 このオーラ……。

 考えたくはないが、アルス様でも……。


「分かったのならここでおとなしく待機していることね~」


 そう言って、転移魔法でこの場から立ち去ろうとする魔王とレオン。


「待てっ!!」


 咄嗟に私は「大天使の翼」で飛翔し、転移しようとする二人の元へ最高速度で追いかける。


 アルス様……。自分勝手な行動をお許しください。

 私は彼女らと共に、魔天空城から完全に姿を消していた。

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