第46話 【魔女】メイとの死闘
「メイ……!?」
襲ってくる魔物を全て倒し、彼女のいる部屋へようやくたどり着くが、俺は言葉を失っていた。
「千里眼」で見た姿を信じたくなかったが、今の彼女は白を基調とした服装から、黒く肌を露出した服装へと変わっており、禍々しいオーラを放っていたのだ。
「あーあ。遅すぎて待ちくたびれちゃったわ」
彼女の言っている意味が分からず、俺は動揺を隠せない。
「な、何を言っているんだ、メイ!? 今すぐここから脱出しよう!」
「はぁ? 何言ってんのよ。帰るわけないでしょ」
まさか……彼女も既に何者かに操られているのか?
「メイ! 君は誰かに操られているんだ! 正気に戻ってくれ!」
「呆れた……。わたしはわたしよ。疑うって言うならその体に教えてあげるわ」
腕を組んでいたメイは臨戦態勢に入り、更に強力な殺気が放たれる。
「俺と戦うって言うの!?」
「そんなにビビらないでよ。健気な女の子らしく、アルスをちゃんと殺せるように頑張るからさ」
刹那、彼女は一気に加速し、俺の元へ襲い掛かってくる。
今すぐ、メイを止めないとっ!
ビキビキビキッと俺は手に身体強化を使用し、彼女に手刀を放つ。
「ごめん! メイ!」
しかし、俺の攻撃はすんでのところで躱され、脇腹にキレのある拳が入る。
ゴキャッッッッ!!
「……ッ!!??」
「『ごめん』って何よ! 今更謝んなっっ!!」
あまりの一撃に俺は意識を失いそうになるも、彼女を絶対に連れ戻すという意志で激痛を麻痺させる。
俺はメイから一旦距離を取るが、彼女は不満げな顔を浮かべていた。
どうやら、一撃で仕留められなかったことに納得がいかなかったらしい。
彼女はフンと鼻を鳴らし、魔法を詠唱し始める。
「――――ゴーストマリア――――!」
ズズズズズッと音を立て、床から二体の彼女の分身が現れる。
「このわたしが命令するわ! アルスを殺しなさい!」
瞬間、メイの分身は俺に向かって途轍もない威力の蹴りを繰り出す。
危なっ……!?
聖女と思えない威力の蹴りを咄嗟に躱すも、壁はボコッと破壊されていた。
今の顎への蹴り……。
一発でも食らえば昏倒して即終わっていた……。
彼女の分身を消すため、反撃を開始しようとするも、一体の分身が常に俺の死角に入ってくるため、身動きが全く取れなくなる。
不味い、確実にとりに来ているじゃないか……。
これだと、「乱撃」の範囲外になるため、一度に分身を消すことができないのだ。
それに、片方に攻撃した瞬間、もう一人の分身に致命傷を負わされるため、俺は何もできなくなる。
二体の分身から逃れ、俺は身体強化でメイ本体に近づこうとするも、彼女はすぐさま追い打ちをかけてくる。
「――――ヘルボール――――!」
バリバリバリバリッ!!っと黒玉に赤い稲妻を纏った魔法攻撃が有り得ない速度で飛んでくる。
「――――ファイアーボール――――!」
俺とメイの魔法は直撃するも、相殺できず、まともに攻撃を受けてしまう。
「ぐはっ……!?」
しまった……。俺の残りHPは半分もないぞ!?
「へぇ。あんたでもちょっとは魔法を使えるようになったんだ。でも【魔女】のわたしに勝てるわけないけど」
「メイは魔女じゃない聖女だ!」
「……ッ! アルスの分際で聖女を語らないでくれる! わたしがどれだけ自分を殺してきたかも知らないくせに!」
「そんなの分からないよ! だけど、俺だけじゃない! ネネもメイの帰りを待っているんだ!」
彼女の名前を出せば、攻撃が弱まるのではないかという期待が俺にはあった。
しかし、思いに反し、分身の攻撃力と素早さは何故か増し始める。
何で逆効果なんだ!?
もう、三人全員を目で追えないぞ……!?
「フン! わたしのことなんかキレイに忘れて、満喫してたんでしょ!」
「そんなわけないよ! 幼馴染を忘れるわけないだろ!」
「自分のことを棚に上げないでくれる? わたしの気持ちも知らないで、黙って消えた癖に!」
その後も彼女を止めるため、死に物狂いで戦いに挑んだが、防戦一方で俺は満身創痍になっていた。
顔面が大きく腫れた俺は壁にもたれかかり、コホコホと咳をする。
「勝てない……な……」
もう全身には痛みすら感じない。あれから彼女の殴打は全く止まらなかったのだ。
俺の前には分身を解除したメイがニコリと笑みを浮かべている。
「最後にとっておいたショートケーキのイチゴを食べる気分♪」
とどめの一撃を加えようとする彼女。
しかし、メイが俺に近づいた瞬間、彼女は顔面蒼白になる。
踏み込んだ床が金色の輝きを放ったからだ。
「何よこれっ! 体が……動かないッ! あんたっ、何をしたの!?」
「何って……。ポイント・エージェンタだよ」
「ポイント・エージェンタ!? 嘘でしょ!?」
俺のユニークスキルはポイント・エージェンタ(改)に進化しているが、この能力の効果を併用しつつ従来のポイント・エージェンタも使える。
勇者パーティにいた頃の「質が悪い」経験値も扱うことが出来るのだ。
質が悪いとは急激なレベルアップが引き起こす「酔い」や「失神」だ。
元のメイがレベルいくつなのか不明だが、今の彼女はレベル1000だ。
どう考えてもこの負荷には耐えられない。
「ぐっ……あんた……まさかっ! 最初からこれを考えて……!?」
随分時間は掛かったけど、これで何とか彼女の動きを止めることが出来た。
「きゃああああああっっっ!!!」
悲鳴をあげて倒れた彼女の元に、俺はすぐさま駆け出していた。
☆
「メイ! 大丈夫!?」
メイがゆっくりと目を覚ました瞬間、俺は彼女に声を掛ける。
「アルス……」
俺に向かって微笑む彼女。
孤児院からの付き合いだったから分かる。
馴染みのあるいつも通りの彼女の笑顔だ。
元の意識が戻ったメイに心底安心していると、彼女は俺の手をきゅっと握る。
「やっと……捕まえた……」
「あ、ああ……。元のメイに会えて本当に良かったよ。さっきまで意識を失っていたんだ」
メイの無事に安堵していた俺だが、彼女は残念そうな顔を浮かべる。
「ねぇ、聞いてアルス。わたしにかかった呪いは自分自身で解除できないから、またあなたを襲うことになるの」
彼女の説明を聞いた瞬間、俺は失意の底に沈んでいた。
今は一時的に呪いの効果が弱くなっているだけなのか……。
だとしたら、彼女はもう……。
だけど……。
彼女を見捨てるなんて出来るわけがない。
だから、俺がメイに言うことは決まっていた。
「そうなったら、またメイを止めるよ」
「アルスがわたしを倒す度、またこうして話してくれるの?」
「ああ、約束する。傍にいるよ」
メイは涙を流しながら、今まで見たことのない笑みを向けてくる。
「嬉しい……」
彼女と話を続けていると、不意に俺の頭の中に情報が流れてくる。
《推奨。魔法スキルの取得》
魔法スキル……か。
今欲しい効果は彼女にかかっている闇魔法を消す能力だが、聖女に出来ないことを俺が出来るはずがない。
俺はスキルの提案を無視していると、再び脳内に情報が流れてくる。
《警告。魔法スキルの取得》
《警告。魔法スキルの取得》
《警告。魔法スキルの取得》
ここまで、スキルの取得を急かされたことは無いな。
俺は魔法スキルをすぐさま獲得し、チラッと確認するが、やはり今の彼女を回復させる能力ではなかった。
《ユニークスキルがLv3からLv4に進化しました》
鳴り止まない知らせに一瞬困惑したが、ここに来てのポイント・エージェンタの進化は気になった。
もしかしたら、魔法スキルの取得ではなく、ポイント・エージェンタの進化が目的なのかもしれない。
=====================================
ユニークスキル:【ポイント・エージェンタ】Lv4
Lv1⇒獲得経験値上昇【大】
アンロック条件:なし
Lv2⇒獲得経験値上昇【極】
アンロック条件:剣、斧、槍、弓スキル、魔法を合計1個修得(現在8個)
Lv3⇒ポイント・エージェンタ(改)
アンロック条件:剣、斧、槍、弓スキル、魔法を合計3個修得(現在8個)
Lv4⇒ポイント・エージェンタ(真)
アンロック条件:剣、斧、槍、弓スキル、魔法を合計8個修得(現在8個)
Lv5⇒LOCKED
アンロック条件:剣、斧、槍、弓スキル、魔法を全て修得(現在8個)
=====================================
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〇ポイント・エージェンタ(真)
スキルの習得を惜しまない者にしか扱えない伝説のユニークスキル。
レベルアップ時に毒や麻痺といったあらゆる状態異常から回復することが出来る。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
もしかしてこれで、今の彼女を回復することが出来るんじゃないのか?
もっと早くにこのユニークスキルを使っていれば彼女との戦闘を避けられたと思う気がするのだが……。
何か戦いを長引かせないといけない理由があったのだろうか?
しかしそんな俺の疑問をよそにメイは口を開ける。
「アルス……。わたし、ずっと前からあなたの傷を治すのが嬉しかった……」
「あ、ああ……」
「ねえ、アルス……。わたし……今が一番幸せかもしれない。捕らわれたお姫様を王子様が助けてくれたの」
彼女が一言言葉を発す度、俺は額から汗をドバドバ流していた。
メイにユニークスキルを使用するタイミングを完全に失ってしまったからだ。
「わたし、アルスのことが……」
「ごめん、メイ!! 進化したポイント・エージェンタの能力を使うね!」
「へっ?」
俺がメイにポイント・エージェンタ(真)の能力を発動した瞬間、彼女は光で包まれる。
「あ、あれ……」
しばらくの間きょとんとしていたメイ。
しかし、ようやく呪いが消えたことに気づいたのか、彼女の顔はみるみるうちに、かああっとゆでだこみたいに赤くなっていく。
「バカッッ!!」
顔面を拳でブッ飛ばされた俺は盛大にすっ転がり、壁にぶつかっていた。
「げふ……」
「信じられない、信じられない、信じられない! もしかしてあんた! 治せると知ってて、わたしの気持ちをべらべら話させたの?」
両手をわなわなと震わせるメイ。
これ以上彼女に攻撃を加えられると本当に死ぬので、俺は全力で弁解する。
「誤解だよ! メイが話している最中にこの能力が使えるようになったんだ!」
「本当かしら?」
むー、とジト目で睨んでくるメイ。
しかし、何を思ったのか、ケロッと普段通りの笑顔になる。
「まっ、良いわ! 帰ったらワインを樽で飲むの。勿論付き合ってくれるよね!」
いや、にこやかに言われても……。
俺は、はい……と返事をするほかに選択肢が無かった。
これで何とかメイを連れ戻せそうだけど、アリシアは無事なのかな?
俺は「千里眼」で城内を確認しようとするも、ゴゴゴゴゴゴゴゴッッっと城全体が急に揺れ始める。
「もしかして……」
「アルス! 城が崩壊するわ! 急いで逃げましょ!」
「ああ……」
俺は再度「千里眼」でアリシアを探すが、見つからない。
もう既に帰ったのか?
それにさっきまでいたはずのレオンも何故か居なくなっている。
「っていうかアルス! ここまでどうやってきたの?」
「『大天使の翼』でここまで来たんだけど、事情があって今手元にそれが無いんだ」
「はあ!? ならわたし達はここで終わりじゃない!」
「いや、俺に一つだけ方法があるんだ! とにかく外に出よう!」
俺は彼女と共に、崩れていく魔天空城の外に急いで向かった。
☆
二人で城の外に出るが、足場はもう殆ど無くなっている。
「で、どうやって帰るのよ?」
「ああ、ちょっと持ち上げるんだけど、我慢できる?」
そう言って、俺はメイを抱きかかえるも、予想通り彼女は不満を露にする。
「い、嫌だけど、我慢するわ! そう、仕方なくよっ!」
やっぱり降ろした方が良いのかな?
だけど、これ以外の方法がないんだけど……。
どうしようかその場で考えていると、メイは俺に問い詰めてくる。
「そんなことよりアルス! あんたまさか、ここから飛び降りるって言うの!?」
「ああ、俺の身体強化があれば、何とか着地できるはずなんだ」
「ちょっとちょっと! 他に方法は無いの!?」
納得できないメイは声を荒げるが、俺は無言で首を縦に振ることしかできない。
俺は「大天使の翼」で魔天空城に来たが、メイ自身はどうやってここに来たのか前から疑問に思っていた。
が、今更口には出さない。
メイに帰りの手段があるのなら、今頃何かしらの案が彼女から出ているからだ。
つまり、今この状況では俺が飛び降りる以外の脱出方法が無いという結論に到達する。
「大量の瓦礫が降ってくるし、そろそろ行くよっ!」
俺は腕に力を入れ、更に彼女をがっしりと抱きかかえる。
「ちょっと! 待って! まだ、心の準備ができてないから!」
不味い、もう限界だ。
城が跡形もなく崩れていく……。
「行くよ!」
俺は魔天空城から飛び降りると、メイは俺にぎゅっと密着する。
「いやあああああぁぁっっ!!」
メイが最大級の悲鳴をあげる中、俺と彼女は崩れていく魔天空城を後にした。
☆
全ての魔王軍四天王を倒し、聖女メイを救出したアルス。
しかし、彼の背後では四天王の実力を遥かに上回る最強の敵、「勇者シリーズ」が復活しようとしていた。
そして、アルスとアリシアはまだ知らない。「ある人物」のパーティ加入について、二人の関係に大きな亀裂が生じることを。
第三章は残り一話となり、物語はいよいよ最終章に突入しようとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます