第47話 【SIDE勇者】SAD END

 俺は世界の最北端にある「魔王の城」最深部に転移していた。

 目の前には一人の魔族が四つん這いになっており、その上に魔王メリッサが座っている。


「ぜーーんぶ、アナタの所為よ。アナタが『闇の誓約書』に署名しなかったから、【魔女】は本来の力を出せなかったの」


 呆れるメリッサに俺は隻眼で彼女を鋭く睨み付ける。


「分からねェな……。オマエ程のヤツならこんな回りくどいことをしなくても、世界を好きなように変えれるはずだ」


「道草を楽しむって大事でしょ。世界を滅ぼすにしても私は過程を大事にしたいの」


 メリッサの発言に俺は怒気を露にする。


「笑わせるなよっ! 何が『道草を楽しむ』だ! 俺の心と体を支配しやがって!」


「力が手に入ったんだし、良いでしょ。そんなことよりアナタに新しいオモチャを紹介するわ」


 持ってきなさい、とメリッサが配下に命令すると、彼らは木の台をガラガラとこちらに運んでくる。


「ッ……!!」


 俺は彼らが運んできた人物を目の当たりにして言葉を失っていた。


 アリシアが両腕を鎖で繋がれ、木の台に吊るされていたのだ。

 彼女は髪の毛で乳房を覆い隠しているが、一糸まとわぬ姿で意識を失っている。


 あんのバカ女がッッ……!

 俺が意識を失っている間にここまで付いてきやがったのか!

 後先考えず行動しやがって!


「穴という穴に触手を入れようと思っていたのだけど、流石に飽きたのよね~」


 彼女のあまりの狂気に俺は背筋を凍らせる。

 コイツッ……!!どんだけ腐ってやがるんだ!?


 メリッサの発言に戦慄していると、彼女は何か思いついたのか、ニコリと笑みを浮かべる。


「やっぱり、こうしましょ。箱の中に彼女の生首を入れて『あの人』に送るの。反応が楽しみだわ~」


 そう言って、彼女は立ち上がり、俺の耳元で囁く。


「アナタがやりなさい」


「誰がテメェなんかの…………ッ!?」


 彼女に抵抗しようとするも、ピリピリと体全身に電流が走り、俺の体はアリシアの前に勝手に移動していた。

 これが、魔王メリッサの能力なのか……!?


 俺は躊躇することなく剣を取り出す。


「――――エクスカリバー――――」


 ユニークスキルで闇の剣を取り出した俺は容易に彼女の首を刎ねる段階にまで到達していた。


 剣を振り上げた俺だが、そこで動きを停止する。


「? 何をしているのかしら? 早くしなさい」


 険しい顔で睨むメリッサだが、彼女の表情に満足した俺は思わず笑いがこみ上げてくる。


「クククククク! ハッハッハッハッ!」


 剣を捨てた俺は着ていたマントをアリシアに投げつける。

 その瞬間、俺は「転移」スキルを発動し、台ごと彼女を適当な場所に飛ばしていた。


 「転移」スキルを扱えるのは何も【魔王】だけではない。

 【勇者】も扱うことができるのだ。

 今の俺は【闇勇者】のユニークスキルを持っているが、【勇者】が消えたわけではない。それは恐らく聖女であるアイツも同じだろう。


 ざまあみろとメリッサに一矢報いた俺だが、足元は瞬時にして真っ黒になり、身動きが完全に取れなくなる。


「ぐっ……!?」


「魔王であるこの私でも完全に思い通りにできないのは【勇者】のユニークスキルによる効果なのかしら?」


「ハッ! 俺がオマエなんかの思い通りになると思うなよ!」


 心と体を操られた俺はもう自分でも何をやっているのか分からない。

 アリシアを見捨てて俺だけでも逃げられたはずだ。

 しかし、俺の中にある「何か」が魔王メリッサの好きにさせないよう抵抗するのだ。その正体が何なのかは分からないが。


 ただ、これだけは分かる。

 俺は目の前の魔王が苦渋の顔を浮かべている様を見て、喜びが湧き上がることだけは実感できていた。


「はぁ……。折角だから、私の趣味を教えておくわ。ナイフで悲鳴を聞きながら少しずつ殺すのが好きなの。魔法なんかで殺したりしないわ」


 そう説明すると、メリッサは傍にあったバケツを手に取る。

 バケツの中はネズミで満たされており、一匹一匹が外に出ようともがいている。


「貴方のお腹の上にこの子たちを乗せてバケツで被せるの。あとは何をやるのか分かるわよね?」


 そう言って彼女は人差し指から炎を出す。

 バケツの底を熱せられたネズミがどこに向かうのか俺は容易に想像がついた。

 冷たい笑みを浮かべるメリッサに俺はただただ絶望するしかできない。


「言っておくけど、間違っても『殺せ……』なんて私の前で言わないことね。殺る気が失せるから。それを口走った瞬間、今すぐ全人類を虐殺するわ」


 殺意を剥き出しにしたオーラで忠告を終えると、彼女は打って変わって俺に微笑み顔を向ける。


「さぁーて。始めましょ♡」


 体が全く動かない俺に一歩ずつゆっくりと近づくメリッサ。


 この瞬間、俺は全てを悟った。

 俺は間違いなく今日ここで死ぬ。


 だが、不思議なことに、死ぬと分かっていても、何故か涙は出なかった。


 しかし、死に際になって思う。


 俺の人生は一体何だったんだ?




 レオンはアルスと一度も再会することなく死んだ。

 しかし人類はまだ知らない。

 彼の存在無しに残酷非道な魔王メリッサを討つことができないことを。


 そしてレオンはまだ知らない。

 彼の決意と覚悟による覚醒により、人類の希望となることを。


 物語はいよいよ最終章【勇者】レオン編が始まろうとしていた。

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