第38話 最後の四天王、ネクロマンサー現る

「暗黒騎士がやられたぞ!」

「オイ! 一度退け!」

「至急ネクロマンサー様に報告だ!」


 周囲の魔王軍は撤退していき、入れ替わるようにしてネネが俺の近くに来た。


「あるじよ! 大丈夫か!」


「ああ、俺は大丈夫だよ。それより、今は騎士団長のところに行こう!」


 俺とネネは倒れた暗黒騎士の元へ駆け寄ると、既にダインが彼の傍にいた。


 ダインは騎士団長に向かって大きな声で叫ぶ。


「兄上ッ!」


「その声……ダインか……?」


 どうやら、今の騎士団長は弟を見ることすら叶わないらしい。


 ダインは自身が傍にいることを証明するため、兄の手を握りしめていた。


「今更とやかく言わないが、課題は分かっているな?」


「はい、オレに力が足りませんでした。また一から修行します」


「そうか……。お前のことは心配だったが、安心して逝けそうだ……」


 ゴホゴホと咳をして騎士団長は続ける。


「ダイン。それと最後に俺から頼みがある」


「何でも言って下さい兄上!」


「国王に伝えてくれ。俺がアルスに『あの剣』を授けてほしいと言っていた、と」


「必ずっ……!」


「それと……アルスは近くにいるか?」


 はい。と答え、俺は騎士団長の元へ更に近づく。


「礼を言う。お陰で俺はネクロマンサーの支配から解放された。それに……自信を持っていい。今のお前に剣で右に並ぶ者はいないだろう」


 騎士団長の発言に俺は心を震わせていた。

 ダイン、味方の騎士団の期待に応えるため、俺は目の前の騎士団長を討っている。

 しかし、彼を倒す判断に思うところがないわけではない。

 こんな終わり方はあんまりだからだ。

 だが、騎士団長の礼を聞いて思う。

 俺は一人の人物を助け、自身の使命を果たせたのかもしれない、と。


 騎士団長がそう言い終え、ダインは彼と更に数言、言葉を交わす。

 俺とネネは彼らのやり取りを黙って聞いていたが、不意に正面から殺気を感じる。


「――――ダークスパイク――――」


 瞬間、騎士団長の元に黒い炎が走り、「破滅の鎧」ごと彼はその場から消えていた。

「な……、何が起こったんだ!?」


 意味が分からず呆然と立ち尽くしていると、長いローブに身を包んだ老人が俺達の前に現れる。


「ふぇふぇふぇ。あの暗黒騎士を倒しよったか。ワシの最高傑作じゃったが、小僧、やりおるのぉ」


 誰だ……こいつ……!?

 今、俺達の目の前にいるこの人物が騎士団長に魔法を放ったのか?

 信じられない……!!


「キサマがオレの兄を弄んだネクロマンサーだな!」


 ダインが激昂した瞬間、俺は即座に身構える。


 コイツが最後の魔王軍四天王かっ……!


「出来損ないの弟に興味など無いわ。どうじゃ、そこの小僧。今ならワシの配下に加えてやってもよいぞ」


「ふざけるな! お前が騎士団長を操ったんだな!」


 俺は躊躇せず剣を抜く。


「おっかないのぉ。殺る気に満ち溢れておるわ。たかが人間一人を使ったぐらいで何を怒っておる? 力も与えたのだ、寧ろ感謝して欲しいくらいじゃ」


「許せん。わらわがいる限り、うぬはタダで死ねると思わないことじゃな」


「ふぇふぇふぇ。獣人なぞワシの敵ではないわ。どれ、少し遊んでやるとするかの」


 そう言って目の前のネクロマンサーは10体の魔物を呼び寄せる。


 巨大な鎌を装備した死神だ。体格は俺の倍を優に超えている。


「騎士団長はワシの精鋭部隊であるこの死神に殺られたぞ。Sランクの魔物にお前達は勝てるのかのぉ」


 ネクロマンサーの召喚した死神は鎌をギラリと光らせ、俺達に次々と襲い掛かってくる。


 彼らの攻撃をまともに食らえば、致命傷は避けられないだろう。


 しかし俺は槍スキル「乱撃」を使用し、剣で死神の群れを一撃で仕留める。


「何ッ!? ワシのお気に入りを一太刀で葬りよったじゃと!?」


 今までニタリと不気味な笑みを浮かべていたネクロマンサーだが、驚き顔になり、ズサリと一歩後退する。


 怒りが限界に達した俺は剣先を最後の四天王に向ける。


「ネクロマンサー! 俺はお前を許さないぞ!」


 焦り表情だったネクロマンサーだが、俺の怒りに満足したのか、ニタリと不気味な笑みを浮かべる。


「ふぇふぇふぇ。ならばかかってくるが良い。言っておくがワシは四天王の中でも最強の実力じゃぞ」


 俺とネネ、ダインによる最後の魔王軍四天王との戦いの火蓋が切られようとしていた。

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